第5話 お外が怖い
――以下、Qwitter DMによる内容――
『折り返しのご連絡、有り難うございます。底辺Vtuber連合側が主催する立食パーティの詳細は以下の通りです。尚、当日の衣装に決まりはございません。ラフな格好でお越しください。顔をお隠しになられたい方は、仮面をご持参くださいますようお願い申し上げます』
『開催日:8月10日。
会 場:横浜グラインドシープルホテル3F。
参加費:三万円。※コンサルティングを受ける方は別途一万円となります』
『以下は進行表になります。ご参照ください』
『17:30 受付開始。
18:00 開宴
18:05 挨拶
18:20 乾杯
18:25 歓談・食事
19:30 ゲーム(ビンゴ大会)
20:30 歓談・食事
21:30 主催者側による謝辞
22:00 完全撤廃』
『ご参加されるのであれば、7月10日までにDMでの参加希望をお願い致します』
――DMの内容は以上――
「…パーティかぁ」
龍宮寺茜という自称底辺VtuberからのDM。
俺はPCで色々と調べ物をしながら、偶にスマホを手に取り、それについて頭を悩ませる。
「…正直、行く意味あんまりないよなぁ」
俺と同じように底辺を彷徨っている人の話を聞いたって、恐らくなんの得にもならないだろう。
それに、今の俺にはお金がない。
再来週あたりに、じぃじ、ばぁばからお金を搾り取れる算段ではあるものの、実利の無さそうなパーティに三万を払うには少々にして抵抗がある。
そんな損得どちらに転ぶかもわからないものに三万を使うなら、デモンズソフトをクリアした後にやろうと思っているゲーム――ABEXというFPSの為に、それ用のマウスを購入した方がまだましと言える。
未だデモンズソフトをクリアできる見込みはないので、購入したら相当の年月、寝かせておくことになるだろうが。
「どんな感じのVtuberなんだろ」
俺はなんとなしに、龍宮寺茜の名前を検索する。
「龍宮寺茜、身長189センチ、体重88キロ、銀髪のイケメン、一声で女子を虜にする低音イケボVtuber、チャンネル……登録者三万人」
え?三万人?俺の……一万倍?
俺は自分のwi tubeチャンネルの所へ行き、自身のチャンネル登録者数を思わず確認する。
――三人。
既に一ヶ月以上がたっているというのに、俺の登録者数は初めて配信した時と変わっていなかった。
「…俺の三万倍。活動期間は………っ!?六ヶ月で俺の一万倍?!」
俺は思わず声を荒げ、驚く。
一体全体なにがどうなってそうなった?!。
画面を食い入るように見つめ、カーソルを下へと持っていき、今度はそこまでの軌跡を追う。
「たったの一ヶ月で、千五百人、そしてその一ヶ月後に一万人。そしてさらにその数ヶ月後には…三万人」
自分と龍宮寺茜を比較し、俺は「うそだろ?」と無意識に呟き、糸が切れた人形のようにゲーミングチェアへと崩れ落ちた。
どうしたらそんなにチャンネル登録者数を伸ばせるのか、不思議でならない。
俺でも真似出来ることは無いだろうかと、半ば放心状態で龍宮寺茜について、その後も調べる。
企業Vtuberでもなければ、有名な絵師にガワを作ってもらったりとかでもない。自力で、たったの半年でそこまでチャンネル登録者を増やしている。
いや…これは――。
「元、アイドル…?」
幾つも記事を見ていくと、人気の秘密が垣間見えた。
元アイドルという単語が気になり、俺はそこへカーソルを持っていき、クリックする。
「何らかのケガでアイドルを引退して、その後、人気が低迷する中、芸能界を引退。このまま世間から忘れ去られていくかと思いきや、別の形でまだアイドルを目指していた。……アイドルVtuberとして」
元アイドルが、アイドルVtuberに転身。成程、割と目を引く話題である。
「声と語りで、身元がバレる、かぁ…あるあるだな」
身バレというのも相まって、たったの半年でチャンネル登録者数が三万という事なのだろう。
本人はそれにどう思っているか分からないが、Qwitterから伺うに、それなりにこの期を活かしているように思える。
全くの無名にパーティーへ参加しませんか?なんて言われても、大半が「誰だよお前」で終わってしまう。だけどそこに、元アイドルという肩書が加われば、信用性はそれなりに高くなる。
元アイドルといっても、そんなに人気だったわけでもないらしいが。
「……参加、してみようかな」
龍宮寺茜という人物が何者か分かったことで、若干天秤の針が「行きたい」に傾く。
だけど、参加するには、当然にして家から出る必要がある。
俺は同性からの告白ラッシュがあったあの日から、外が怖くなってしまった。
まだ自室の窓から外を見る分にはいいが、玄関を出ようとするところでいつも足が止まる。
現に、今もそうだ。
誰もいない家中を歩き、俺は試しにと玄関まで来た。
足は動かない。それ以上いかないよう、足裏を地面に縫われているかのように足が動かなくなる。
知らない人が沢山いる外の世界。
友達、親友だった奴らが俺に色目を使ってくる世界。
それを楽しむ女友達がいる世界。
彼らに悪意はない。
だからこそ、俺は周りが怖くて仕方がない。
彼らは悪気なく、男である俺を否定してくる。何度も、何度も、何度も。
少しずつなら、まだ我慢できた。結果は変わらなくとも、まだ我慢できたのだ。
だけど、最後のあの告白ラッシュで、俺の心は折れてしまった。
「ただい…わッ!??あ、兄貴?!ど、どうしたの?」
フードを深々と被り、玄関の前で佇んでいたら、弟が帰ってきた。
黒のパーカーに、黒のズボン。まるでお化けか不審者であるかの様な俺の風貌に、弟の雪美が慌て、驚く。
「…(ぱくぱく」
驚いてやんの。なんて茶化す言葉を口にしようとするが、声が出ない。
玄関前で、外の事を考えていたせいか、はたまた、その前からなのかは分からない。だが、俺は弟という男にまで、心が開かなくなっているようだ。
同性であるはずの男が怖い。
こいつも俺に告白してきては、勝手に俺から離れるのではなかろうか?
勝手に思いをぶつけて、俺を不快にさせるのではなかろうか?
そんなことを想い始めたら、声が出なくなってしまった。
弟にまでそういった目で見られ、距離を置かれる。
その
「兄貴?そんなとこに突っ立ってないで――わっ」
――ドサッ。
弟が、靴脱ぎ場と通路の間にある段差に躓き、俺へと突っ込んできた。
俺は弟にそのまま押し倒されるように後ろへ倒れる。
「わわっ!!あぶね!」
突然の出来事に体が動かず、硬直する。そんな俺を、弟が抱きとめる様にして、背中からの落下を防ぐ。
「…あ、兄貴?大丈夫か?」
「……」
深々と被っていたフードが取れ、俺と弟の目が合う。
「兄貴?」
――ドッ。
俺は弟を突き飛ばし、自室への階段を駆け上がる。
弟は俺にそういう目を向けていなかった。
だが、それがいつまで続くとも分からない。
心も体も成長すれば、どうなるか分からない。
「はぁ…はぁ……くそ、くそ、くそっ!!」
血を分けた弟までも無意識に警戒してしまっている自分が気持ち悪くて、頭がおかしくなりそうだ。
俺は謎に次から次へと溢れ出てくる涙で枕もとを濡らし、言い知れぬ怒りと恐怖を抱えながら、いつもの如く毛布の中ですすり泣いた。
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