第38話 和食と洋食


「ほお~こいつは朝からいろいろな料理があるのう」


「うむ、この白い穀物は昨日もあったご飯というやつじゃな」


「はい、私の故郷の和食という料理はこのご飯にあうおかずを中心に作られています」


「こっちの茶色い汁は昨日の澄んだ汁とは違うのう」


「そっちは味噌汁と言って、海草や干した魚で出汁をとって豆を発酵させた調味料を加えたスープですね。少し独特な香りがするので、まずは一口味を見てもらえればと思います。それとご飯と味噌汁はお代わりが無料となっておりますよ」


 和食と言えば白いご飯に味噌汁だ。味噌汁の具はシンプルに豆腐と長ネギにしてある。理想を言えば二日酔いに効果のあるシジミの味噌汁にしたいところだったのだが、うちの実家に来た外国人にはシジミやワカメなどが駄目な人は結構多かったんだよな……


 他のおかずは焼きのり、卵焼き、焼き魚、おひたし、漬物などのザ・和食といった料理だ。和食には定番の生卵と納豆については卵を生で食べるか問題と納豆は最初にはハードルが高いということでやめておいた。


 ちなみに従業員のみんなは生卵は大丈夫だったが、納豆はロザリーとフィアナが駄目だった。やはりあの独特の臭いとネバネバとした食感が駄目だったらしい。逆にポエルは納豆が気に入ったらしく、毎朝食べたいと言っていた。


 俺も納豆は結構好きなほうだから気持ちは分かる。生卵とネギと海苔を加えた納豆はマジで好きなんだよね。まあ納豆に何を加えるか問題については実家でもいろいろと論争が勃発したので割愛するとしよう。


「ほう、そいつは嬉しいところじゃのう」


「飲み物はあちらのテーブルにお水とお茶と牛乳がありますので、こちらもご自由にお飲みください」


「……酒はないのかのう?」


「………………」


 駄目だこのドワーフ……早く何とかしないと……


「朝食の際はお酒の販売はしておりません。朝からお酒に酔っ払って、帰る際に事故などを起こされては困りますからね」


 さすがに朝にお酒の販売は行わない。ちゃんと休憩所にある自動販売機にもお酒は置いていないからな。


 元の世界とは違って危険なことも多いこの世界の人里離れた場所で、朝から酒を飲んで酔っ払ってしまっては何かあった時が怖い。お客さんがうちの温泉宿で酔っ払ったことが原因で命を落としてしまったら、さすがに目覚めが悪いぞ。


「ぬう……それは残念じゃな」


 いや、さっき少し酒が残っているって言ったばかりじゃん!


「お酒はぜひともまたのご利用時に楽しんでください。こちらの朝食も自信を持っておすすめできますから」


「おお、そうじゃな! あのとてつもなくうまかった酒はまた来た時に味あわせてもらうとしよう!」


「うむ、今度この宿に来る時は、もっと金を持ってくるからな」


 どうやらドワーフのお客さんはまた来てくれそうだ。まあ、たとえお金があったとしても、酔いつぶれそうなら全力で止めさせてもらうがな。




「お待たせしました。こちらが朝食になります」


 続いてエルフの4人も朝食を取るということで、ポエルと一緒に4人分の朝食を運んできた。


「おおっ、こいつは朝から豪勢だ!」


「うん、こっちの野菜にはおいしい味が付いているし、このパンも外はカリッとして中はフワフワでとってもおいしいわ!」


 洋食のメニューはトースト、サラダ、スクランブルエッグ、ベーコン、ソーセージ、コーンスープなどのシンプルな料理となっている。


 しかし、サラダにかかっているドレッシングやコショウにケチャップなどはそれだけでも十分に珍しい。他にも白く柔らかいパンやコーンスープなどはこちらの世界では十分なご馳走になっているようだ。


「それにしても昨日の夜も風呂へ入ったうえに、今日も朝から風呂に入れるなんて罰が当たるんじゃないかと思うよ」


「やっぱり温泉はとても気持ちが良かったですう~」


 どうやらエルフさん達は朝から温泉を楽しんでくれたようだ。


 この温泉宿の温泉は深夜以外解放している。ポエルたち天使のみなさんのおかげで、この温泉宿の温泉には自動清掃機能が付与されているため、浴槽の清掃をする必要がない。だが掃除が不要とはいえ、脱衣所に問題はないかを朝と夜にはチェックしている。


 温泉宿でも朝に入れる宿と入れない宿に分かれているが、当然お客さんとしては朝にも入れるほうがありがたいよな。俺も旅行で温泉宿に泊まる時は朝も温泉に入れるかどうかをしっかりとチェックしている。


「ありがとうございます。今日の温泉は昨日の温泉とはお湯が違うんですけれど、いかがでしたか?」


「ああ、昨日とはお湯が全然違っていてびっくりしたぞ!」


「でも今日の温泉もとっても気持ちよかったわよ! まさか全然違う温泉を味わえるなんて思ってもいなかったわ! 本当にすごい魔道具ね!」


 そう、この温泉宿では毎日温泉の泉質を変えている。昨日は単純温泉であったが、今日は酸性泉に変更してある。


 酸性泉の特徴は強い酸性のお湯で、少しとろみがあって肌がピリピリする。殺菌効果が強くて湿疹やアトピーなどの皮膚病や傷の治療に強い効果があり、疲労回復効果も高い。その代わりにあんまり長湯をせずに、温泉から出る際には水で洗い流してもらうよう注意書きを記載してある。


 元の世界で言うと草津の湯がこの酸性泉にあたるのだが、浸かり過ぎを防ぐためにいくつかの温泉を渡るめぐり湯が禁止されていたりするからな。


「本当に気持ち良かったから、また入りにきたいです~」


「ねえ~! 美容にもいいみたいだし、絶対にまた来るわよ!」


「ええ、いつでもお待ちしておりますよ」


 どうやらエルフの4人組もまた来てくれそうかな。こっちの世界でも女性が強いのは変わらないらしい。まあ男性のエルフたちも昨日の食事や今日の朝食には満足してくれているみたいだし、また来てくれるだろう。

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