第34話 エルフのお客さん
「ふう~とりあえずこっちのほうの注文は落ち着いたか」
「あんなに強いお酒を飲んでも全然余裕そうだったね……」
「やっぱりドワーフという種族は酒に強いんだな」
フィアナと一緒に宴会場から厨房のほうへ戻ってきた。
あのあとドワーフのお客さんはそれぞれのお酒を味わいながら飲んだあと、自分たちの好きなお酒を改めて注文してくれた。とはいえ、明らかに酒の飲むペースが早かったので、料理と一緒にゆっくりと楽しんでほしいと念入りに頼んでおいた。
3人はそれぞれ、日本酒とウイスキーとブランデーを頼んでいたところを見ると、やはり酒精の強い酒を好むのかもしれないな。すでにそこそこの量を飲んでいるはずなのに、まったく酔った気配がしなかった。やはりドワーフは酒に強い種族なのだろうか。
「エルフのお客様から果実酒のお代わりのご注文をいただきました。それと、ヒトヨシ様に聞きたいことがあるそうです」
「了解。そっちのほうは問題なさそうに見えたけれど大丈夫だった?」
ポエルとロザリーがエルフのお客さんから注文をもらって戻ってきたようだ。ドワーフのお客さんを接客しながらエルフのお客さんも意識していたが、問題なく接客をしているようには見えた。
「うむ、この温泉宿のことをとても褒めておったのじゃ!」
「ええ。先ほど入られた温泉にとても満足しておりましたよ。それに料理やお酒にもとても満足していらしたので、何か不満があるということではないと思いますよ」
俺のほうからも満足そうに料理やお酒を楽しんでいるように見えた。
エルフというからにはなにか味の好みがあるのかと思って事前に確認していたが、特に食べられないものはないらしい。菜食主義というわけでもなく、肉や卵なんかも大丈夫だと言っていたな。
「わかった。とりあえず行ってくる。お客さんから聞いた料理やお酒の感想はあとで教えてくれ」
「承知しました」
「お待たせしました。果実酒4つになります」
「おお、ありがとう」
「いやあ、この果実酒は本当においしいな。芳醇な香りと雑味のない果実の甘さ、それにわずかな酸味が加わって後味もとてもすっきりしている」
「うちらの村でも果実酒は作っているけれど、こっちのほうがおいしいわね」
「ありがとうございます。これは梅酒といって酸味の強い梅という果実に砂糖を加えたお酒になります」
「梅ですかあ、初めて聞きましたあ~」
どうやらエルフさん達は梅を知らないようだな。ポエルたちの話では、ビールよりも梅酒のほうが気に入ったらしい。もしかしたら種族によって好きなお酒とかが違う可能性もあるな。
ちなみにエルフの4人は浴衣を着用している。エルフに浴衣姿って実はかなり似合うんだな。意外と外国人に浴衣姿が似合うようなものだろう。特にこっちの女性の2人はとても色っぽい。
……元の世界ではエルフは貧乳しかいないイメージもあったが、そんなことはまったくなかった。特にこっちのフワフワとした話し方をするエルフの女性はロザリーほどではないが、なかなか立派なものをお持ちである。
当然そんな視線をお客様に向けているつもりはないのだが、どうしても視界に入ってしまうんだよな。
「ああ、そうだ。店主さんに聞きたかったんだが、あの温泉ってやつはいったいなんなんだ? 勝手にお湯が出る魔道具も気にはなったが、あの気持ちよさは尋常じゃなかったぞ!」
「そうそう! 疲れがお湯に溶けて消えていくみたいだったわ! それにお湯の中にマナがとっても豊富で、いつの間にか魔力が完全に回復していたわ!」
「マナ?」
初めて聞いたな。元の世界のゲームとかだと魔力のパラメータとか魔法とかになる力だっけか。
「もしかしたら別の国だと言い方が違うのかもしれないよ~マナは魔力の源で、マナが溜まっている場所だと魔力の回復も早くなるんだよ~」
う~ん、わかるようでまったくわからん。とりあえずマナが多い場所だと魔力の回復が早いということかな。
「当温泉宿の温泉は体力回復や魔力回復などの効果がありますからね。たぶんそのためにマナが多いのでしょう」
「へえ~すぐに魔力が回復するなんて、本当にすごい力だよ!」
「地中からお湯が出てくるっていったいどういう仕組みなんだ?」
「基本的に温泉は火山地帯のマグマなどによって、地中にたまった雨水などが熱されて熱湯になったお湯が地表に出てくることが多いですね。他にも地中深くは高温になっていくので、深い場所にたまって熱されたお湯が地中深くから吹き出ることがあります」
温泉は基本的に火山性温泉と非火山性温泉にわかれる。
前者は地下数キロから数十キロの深部から上昇してきたマグマがマグマだまりを作って高温になり、雨水などが染み込んだ地下水がそのマグマだまりの熱で温められて、それが地表に出てきて温泉となったものだ。日本でいうと箱根温泉や別府温泉などがこの火山性温泉の代表だな。
後者は火山とは関係ない場所で温められた地下水が湧き上がる温泉だ。地下の温度は深くなっていくにつれて高温になっていく。100m深くなるごとに3度ずつ上昇すると言われており、地下1500m付近では60度近くにもなるらしい。日本でいうと大分平野や有馬温泉などが代表だ。
そういえばこの温泉宿のお湯はどういう仕組みなんだろうな。いろんな泉質を切り替えることが可能な点から、様々な温泉の源泉を転移魔法とかで引っ張っている感じか。あとで天使であるポエルに確認してみるとしよう。
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