第31話 煮付けと天ぷらと鍋
「それじゃあ料理のほうもいただくぜ!」
「これは煮付けで、あれは鍋料理か。こっちのはなんだ?」
「こちらの料理は天ぷらという料理で、衣をつけた具材を油の中に浸す料理です。塩かこっちの天つゆをかけてお試しください。鍋のほうは野菜を煮ているのでもう少しお待ちください」
本日の料理は魚の煮付けと天ぷら、そしてメインの鍋だ。量のほうは煮付けと天ぷらが少なめとなっており、他に前菜の小鉢が2つほどついている。原価としては1500円とちょっとといったところだろうか。
「うわあ~! このお魚、すっごくおいしい! 甘いようなしょっぱいような不思議な味がついているみたい!」
煮付けは酒、みりん、醤油、砂糖、それに生姜を加えた煮付けの定番となる味付けだ。元の世界ではとても一般的な味だが、こちらの世界では醤油やみりんといった調味料がほとんどの地域で使われていないため、こちらの世界の人にとっては多くの人が初めて味わう味となる。
「うおっ、確かにこんな魚は食ったことがねえ! なんて魚なんだ?」
「これはカレイという私の故郷の海で獲れる魚ですよ」
「海が近いんだな。それはとても羨ましい」
今回の魚は煮付けの定番であるカレイを選んだ。どうやらこの冒険者達が拠点にしている場所の近くに海はないみたいだな。この前俺達が行った異世界の街でも、売っていたのは干された魚や塩漬けにされた魚くらいだった。
流通がまだ整っておらず、冷やしたまま魚を運ぶ技術が整っていないこの世界では海の魚を食べられるだけでも珍しいのだろう。
「そちらの白い穀物を炊いたものがご飯となります。ご飯だけで食べるよりもそちらの煮魚や他の料理と一緒に食べるとおいしいですよ。それとご飯はこちらのおひつ分のおかわりは無料となっております」
ご飯は業務用の大きめの炊飯器で炊いてある。基本的にはおひつに入っている分はおかわり自由だ。本当ならばご飯はいくらでも無料にしたいところだが、ここは異世界で、元の世界では考えられないくらいご飯を食べる種族とかがいてもおかしくはないからな。
「ほう。確かにご飯というものだけだとそれほど味がないように思えるが、こちらの味の濃い魚と一緒に食べると、ちょうどいい味になるな!」
「ぷはあああ! おいおい、こっちの天ぷらとかいう料理もめちゃくちゃうめえぞ! サクサクとした食感の衣の中に熱い肉や野菜が入っていやがる。これがビールに合うんだよ! ビールのおかわりを頼む!」
「本当、この料理はビールってお酒にとっても合うわね! 私もビールおかわり!」
「俺もだ!」
「はい、ビール3杯ですね、ありがとうございます」
天ぷらはとり天とエビと野菜をいくつか揚げている。おそらくこの世界の人は野菜よりも肉のほうが好きだと思ってとり天が多めだ。ちなみにかしわ天という料理もあるが、かしわ天の素材はむね肉でとり天はもも肉という違いがある。
やっぱり野菜もおいしいんだけれど、肉が正義なのである!
「そろそろ鍋のほうも大丈夫ですね。肉は薄く切っていてすぐに茹で上がるので、肉の色が変わったらつけダレにつけて食べてみてください」
「なるほど、自分達で茹でて食べる料理なんだな」
「うん! こっちのタレは少し酸味が効いていて、サッパリしておいしいわ!」
「こっちのタレは濃厚な味がして、良い香りがするな。全然違う味のタレだけど、どっちもうまいぜ!」
鍋のほうはポン酢とごまダレの2種類を用意した。
どうやらどの料理や酒にも満足してくれたようだな。こちらとしてもいい反応が見られて満足だ。
「満足してくれたようでなによりです」
「ああ、すっげ~うめえよ! 温泉も気持ちよかったし、最高の宿だな!」
「あの温泉という風呂と、料理や酒がこの値段で楽しめるなんて最高だった。またぜひ来させてほしいものだな」
「疲れもとれたし、おいしいご飯も楽しめたし、絶対にまた来るわ!」
「そう言っていただけてよかったです。それではごゆっくりお楽しみください。あっ、くれぐれもお酒は飲みすぎないようにご注意ください」
「ふう~どうやら満足してくれたみたいだな」
「みなさんとてもおいしそうに食べられておりましたね」
「あれだけうまそうに食べているのを見ると、妾も食べたくなってしまうのじゃ!」
冒険者3人組の食事の様子を見てから感想をもらって、フィアナが待機しているフロントの後ろにある控室へポエルとロザリーと一緒に戻ってきた。まあ、あの様子だとすぐに次のお酒の注文が入りそうだがな。
テーブルには呼び出しベルを置いてあるので、何か新しい注文があれば、ピンポーンと音が鳴る。他のお客さんも食事を始めて、注文が多く入りそうになったら、一人くらい宴会場に待機してもらうとしよう。
「俺たちのまかないはもう少しあとだな。お客さん達が食べ終わったら、すぐ食べられるように準備はしておくよ」
ちょっと忙しくなってきたことだし、俺たち従業員の晩ご飯はもう少し先だ。でもお客さんたちがあれほどおいしそうに食べてくれると、俺もお腹が空いてくるな。
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