第30話 温泉あがりのビール


「お待たせしました、料理をお持ちしました」


 3人分の料理を俺とポエルとロザリーで食事処まで運んできた。すでに冒険者の3人はポエルが案内してくれた畳の上のテーブルの前に座ってくれている。


「おおっ、見たこともない料理ばかりだな!」


「それにすっごく綺麗ね! こっちのお皿も綺麗な色!」


 それぞれの席の前に料理を置いていく。よし、ポエルもロザリーも問題なく料理を配膳できたようだな。

 

「なあ、ヒトヨシさん! あの温泉ってやつは本当にすごかったぜ!」


「ああ、疲れが消えてなくなっていくようだった。あれだけ広いお湯につかるのがあれほど気持ちがいいとは知らなかったな」


「それにあの髪を洗う液体もすごかったわ! 私の髪っていつもは結構ガチガチになっちゃうんだけど、サラサラになったの!」


 一気にまくしたてる冒険者の3人。どうやらこの温泉宿の温泉を楽しんでもらえたようだ。


「気に入っていただけてなによりですよ。あの温泉には体力や魔力の回復効果があって美容にも効果があるんです」


「へえ~そりゃすげえ! 道理で疲れが取れて身体が軽くなったわけだよ!」


「美容にもいいんだ! あとでもう一度入ってこようかな!」


「ええ、朝も入れるので、出発前にもう一度入るのもおすすめですよ」


「おお、そりゃいいな!」


 この温泉宿では朝も温泉へ入れるようにしている。夜と朝に2回入れるとなんだか得した気持ちもするもんな。


 ポエルたち天使が頑張ってくれたおかげで温泉は清掃をする必要がないので、温泉は基本的に朝も開放しておくつもりだ。


「お飲み物はどうなされますか? お茶とお水は無料となっておりますが、お酒や果汁のジュースなどは有料となっておりますね。こちらがメニューとなります」


「酒にも結構な種類があるんだな」


「最初はこのビールがおすすめですよ。あと、この宿のお酒はどれも酒精が強くなっているので、どのお酒もゆっくりと飲んでくださいね。あまりにもたくさん飲まれているようでしたら、従業員がお声を掛けさせてもらいます」


「それじゃあ最初はそのビールって酒を3杯頼む。1杯銅貨8枚だから銀貨2枚と銅貨4枚だな」


「はい、ありがとうございます。実はこの温泉宿は今日オープンしたばかりなんです。この場でお酒や料理の感想を教えてくれればビールを1杯サービスしておりますよ」


「ほう、それはラッキーだな。感想を言えばいいだけか、お安い御用だ」


「ありがとうございます、少々お待ちください。ポエル、ロザリー、ビールを3杯頼む」


「承知しました」


「わかったのじゃ」


 ポエルとロザリーが一度厨房に戻ってビールを取りに行く。この温泉宿で出すビールは瓶ビールではなく、サーバーからジョッキに注ぐタイプのものだ。昔は温泉宿では瓶ビールが多かったが、今ではジョッキを取り扱っているほうが多い。


 値段は1杯銅貨8枚だから約800円でそこそこするが、街の酒もこれくらいか少し高額になるくらいだ。仕入れ値は1杯あたり200円もかからないので結構な利益率となっている。


「そういえばさっき飲んだコーヒー牛乳だが、とてもおいしかった。あの自動販売機という物を冷やす魔道具はすごかったな。この宿にはたくさんの魔道具や綺麗なガラスなんかが沢山あって本当に驚いたよ」


「ありがとうございます、飲んでいただけたんですね。私の故郷だとガラスなんかはそれほど高くなく手に入るんですよ。さすがにあの自動販売機は結構しますけれどね」


 どうやら温泉から出た後で休める休憩室に設置してある自動販売機を利用してくれたらしい。やはり風呂からあがったあとは冷えたコーヒー牛乳やフルーツ牛乳なんかが最高だよな。


 そして異世界の街で調べていた通り、魔道具やあれほど透明度の高いガラスは珍しいようだ。この温泉宿の盗難防止機能がなければ、よからぬことを考えるお客さんもいるだろう。


「お待たせしました、ビールになります」


「お待たせしましたのじゃ!」


 ポエルとロザリーがジョッキに注がれた冷えたビールをお客さんの前に運ぶ。


「へえ~綺麗なガラスのジョッキに入っているのね! それにこれも自動販売機のと同じで冷えているわ」


「エールよりも色がだいぶ薄いな。だがとても澄んだ色をしていやがるぜ」


「真っ白で細かな泡が上に浮かんでいるな。確かにエールとは少し違うみたいだ」


 透明なジョッキに入ったビールを観察する冒険者たち。やはりこの人たちも普段はエールビールを飲んでいるようだ。


「おおおおっ、なんだこれ! うますぎるぞ!」


「ぷはあっ、これはすごいな! 冷たく冷やされたエールはこんなにもうまいのか! ……いや、味は似ているが、こちらのビールという酒のほうがスッキリとしていてとても飲みやすいぞ!」


「おいしい! 街で飲むエールよりもとっても飲みやすいわ! それに温泉で温まった身体にとっても沁みるわ!」


 感想を聞くまでもなく良いリアクションをしてくれるな。


 どうやら冷たいビールの反応は上々のようだ。


「かあああ、うまい! 一気に飲んでしまったな。もう1杯ビールを頼む!」


「俺も!」


「私も!」


「ビールのおかわりですね、かしこまりました。酒精がそこそこあるので、もう少しゆっくりとお召し上がりください。それとこちらの料理も温かいほうがおいしいので、ぜひ温かいうちにお試しください」

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