第26話 召喚魔法


「さて今日の宿泊人数は10人か。それと俺達従業員のまかないと明日の朝食の仕込みだな。やることはいっぱいあるぞ」


 今日泊まる宿泊者は人族の冒険者が3人、ドワーフが3人、エルフが4人の合計10人だ。それと俺を含めた従業員が4人。合計14人分の夕食と明日の朝食の準備と結構な量の食事を作らなければならない。


 もちろんこんな量を俺ひとりで作れるわけがない。俺の実家の温泉宿でも俺を含めた複数人で手分けをして日々の料理を作ってきた。


「ロザリー頼むぞ!」


 ここでとても役に立つのがロザリーである。


「任せておくのじゃ! 召喚サモン!」


「「「お呼びですか、ご主人様」」」


「うむ! こちらのヒトヨシの指示に従って料理を作るのじゃ!」


「「「かしこまりました」」」


 ロザリーの召喚魔法によって、5人の人型のゴーレムが出現した。


 そう、先日ロザリーの召喚魔法によって召喚されたゴーレムがどれくらい細かな作業ができるかを確認してみたところ、かなり細かな作業もできることがわかった。


 それこそ包丁を使って魚を切ったり、フライパンで野菜を炒めたり、天ぷらを揚げたりなどの精密な作業まで可能であった。


「よし、それじゃあ一郎と二郎は揚げ物を担当、三郎と四郎は鍋を担当、五郎はすまし汁を担当してくれ」


「「「了解です」」」


 ロザリーの召喚魔法で召喚したそれぞれのゴーレムには名前を付けてある。……ネーミングセンスが古いというのは自覚しているからほっといておくれ。


 ゴーレムはロザリーの魔力が続く限り召喚を続けることが可能らしく、元魔王ということもあってゴーレム5体なら常時召喚し続けることも可能らしい。ゴーレムたちの記憶、あるいは経験というものは次に召喚された時にも引き継ぐので、名前を付けて作業を覚えさせることも可能だ。


 ロザリーの召喚魔法はゴーレム以外の魔物なども召喚することが可能らしい。そんな彼女を温泉宿の従業員として雇うことができたのは本当に僥倖である。たったひとり分の給料で大勢の人数を雇えるようなものだからな。


「よし、あとは任せたのじゃ!」


「………………」


 しかし、当の本人は召喚したゴーレムからそれほど遠くまで離れることができず、完全に自律して行動することができないため、複雑な作業をする場合にはある程度集中してゴーレムたちに指示を飛ばさないといけないらしい。


 そのためロザリー本人は他の作業をすることができず、椅子に座ってただ休んでいるようにも見える。まあ、ロザリー本人が作業できなくても5体ものゴーレムが作業をしてくれるのでまったく問題はないがな。




「……よし、こっちの前菜はオッケー。そしたら二郎は煮物のほうを頼む。あと、五郎のすまし汁のほうは一度そこで味を見させてくれ」


 自分でも作業をしながら、ロザリーの召喚したゴーレムたちに指示を飛ばしていく。ゴーレムたちの唯一の欠点は味覚がなくて味がわからないので、味見は俺達従業員の手で行わなければならない。


 そして俺は実家の温泉宿では指示する側ではなく指示をされる側だったので、なかなかスムーズに指示を出していくことができていない。事前に何度か練習はしたのだが、やはり実際にお客さんが来てこれだけの人数分を作るとなると勝手が違うな。


「うん、すまし汁も大丈夫だな。とりあえずお客さんが食事を始める前までに間に合ったな」


 よし、予定よりも手間取ってしまったが、とりあえずお客さんの食事の準備が完了した。あとはお客さんが食事を始めたいと言われたら、天ぷらを揚げて盛り付けをすれば完成だな。


「しかし、料理ひとつに大した手間をかけるものなのじゃな。普段の妾達の食事もそこまでして作っておるのか?」


「さすがにこれはお客さん用だよ。さすがにみんなが来た時とかは張り切ったけれど、普段はここまで時間はかけないし、何品も作ってないだろ」


 さすがに従業員用のまかないにもここまで手間をかけてはいられない。温泉宿の食事は何品も作るのだが、俺達のまかないのメインは1~2品くらいだ。


「料理とは奥が深いものなのじゃな。妾なんてそのまま食べるか、焼いて食べるかの2択じゃぞ」


「豪快だな!?」


 20年も引きこもっていたら料理とかにこだわりそうなものだけど、料理に興味を持てない人も結構いるかもな。


 普段の料理もお金を払うのなら、お客さんと同じ食事を出してあげても良いのだが、ロザリーはまったくお金や価値のあるものを持っていないらしい。


 聞くところによると、魔王を辞める際に面倒ごとをすべて任せる代わりに財産もすべて渡してきたらしい。さすが魔王だけあってやることが豪快すぎるんだよな……


 ちなみにフィアナは結構な大金を持っているようだ。魔物の素材を売却したお金はだいぶ国にピンハネされていたようだが、休みなく働いてお金を使う暇もなかったから、お金はだいぶ溜まっていたようだ。……社畜だからこそお金だけは溜まっていくらしい。


「ヒトヨシ様、冒険者の方3名様分の食事をお願いします」


「了解」


 次は俺達の晩ご飯と明日の朝食の仕込みを始めようとしたところで、ポエルがお客さんの食事の注文を受けたようだ。


 さて、初めてのお客さんだし、俺もお客さんの反応を見に行くことにするかね。

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