第25話 ラフリィード侯爵視点

 ハルサッグ伯爵の提案で、陛下に本当に四人でお願いに上がり許可を経た。まさか王城で我が息子の結婚式を執り行えるなど、夢ではないかと思う程だ。

 ただ息子がハルサッグ伯爵を酔狂しているようで大変好ましくない状況になっていた。

 顔合わせから三日経った息子のルティロンが、驚く事を口にして我々親を驚かす。


 「俺、外交官にならないから」

 「は? 突然何を言う。ま、まさかハルサッグ伯爵に何か言われたのか?」


 私が驚きそう問えば、ルティロンが少しムッとした顔つきで、更に驚く事を口にした。


 「逆だ。執務官にして欲しいと頭を下げて来た」

 「なんだと!?」

 「許しませんよ! しかもあの方にお願いするなど何を考えているのですか! あなたの本当の父親は、目の前にいるでしょう!」


 いきなり執務官になると言い出し私達を驚かす。しかも、ハルサッグ伯爵にもうお願いして来たと言うではないか。


 ケイハース皇国は、16歳で成人になり婚姻が可能になる。それに合わせ、学校は13歳から15歳まで。なのでルティロンはもう学校を卒業しているので、イムゲン王国では学校に通わせるつもりない。

 その代わり、私の補佐をさせ外交官の勉強をさせようと思っていた。ルティロンもそのつもりだと、家族全員いや使用人ですらそう思っていたはずだ。

 なにせ、卒業時に外交官に必要な資格を取得していたのだからそう思うだろう。

 しかしその資格は、執務官でも必要な資格だった。


 「外交官になりたくないと言ったって反対するだけだろう」

 「なぜだ。まさか反抗期か? それともメロディーナ嬢に何か言われたのか?」

 「違う! 彼女は仕事に関して一切何も言って来た事はない。もちろん、ハルサッグ副隊長もです。これは俺個人の考えです。俺は、父上の背中を見て育ちました。それならば、普通は跡を継ぎたいと思うだろうけど、俺には無理だと思ったのです」

 「無理って、まだ何もしていないではないか! それに資格も取っている。この国に来て気が変わったのだろう!?」

 「ですから元からです。資格も取れそうだから取ったまで。外交官になろうと思って取得したわけではありません。それと執務官になりたいから頼んだわけでもない」

 「どういう事だ?」

 「まさか、この後の事を考えて取り入ろうとして、執務官になろうとしているのですか?」


 妻の言葉にギョッとする。

 彼の手下になれば、息子が何をさせられるかわからない!


 「あの男はダメだ!」

 「あの男って! 俺の妻の父親なんですが! それに取り入ろうとしたわけではありませんから。この国で頼れる方がハルサッグ副隊長しかおらず、ちょうど資格を持っていたので、有利かと」


 『妻』の所を強調して言わなくてもよい。

 全く。あの娘にすっかり骨抜きにされよって。


 「あなた! 抗議して来て下さい!」

 「なぜ抗議ですか。お願いしたのは俺ですよ!」

 「わかった。二人とも落ち着いて。で、許可はおりたのか? 彼の判断だけで良いとはならないだろう」

 「まずは、見習いから。一応、陛下に言っておくと」

 「何ですって! 勝手に雇ったという事なのですか? あなた、この国ではそれが可能なのですか?」


 凄く吊り上がった目でグイっと顔を近づけて妻が迫って来た。


 「そ、そうだな。あの部隊の執務官になりたい者がいなく、一人ずつしかいない。資格を有していて身元がしっかりしていれば、申請が出来るはず。だからまだ本採用ではない……」

 「では今すぐに行って、外交官にすると申し上げて下さい」

 「な! 俺は執務官になれなかったとしても外交官にはならない! 執務官になりたいから外交官にならないと言っているわけではないから!」


 こうなったらどっちも引かないのだろうな。

 親としては、妻も得たのだしちゃんと仕事に就いてほしい。外交官は世襲制ではないが、大抵は息子がそのままなる事が多い。

 だが外交官は国の顔。中途半端な気持ちでは無理だ。それに、やりたくないのに継がせたとて、闇に陥るかもしれん。


 「わかった。お前が、外交官にならないというのなら仕方がない。跡を継ぐ者を探そう。ただ執務官になりたいのではないのなら、なりたいものを探しなさい。そうだな三年後にはちゃんと決める様に。この国は、16歳から18歳まで学校に行く。お前はその学校に通わないから本当なら仕事に就く予定だったが、もちろん外交官補佐としてな。でもそれが嫌なら違う仕事を探すのだ。いいな」

 「はい! 父上、わかってくれて感謝します」

 「あなた!?」

 「無理やりさせる仕事ではないからな。世間ではきっと、外交官になる地固めとして執務官をしていると思うだろう。何せ親族になった義父の元で働くのだからな。しばらくそう思ってくれていれば、変な噂も立たん」

 「そう残念だわ。そう言えば、メロディーナ嬢は学校に通っております? ルティロンと同じ年ですわよね?」

 「そ、そうだな。ハルサッグ伯爵に聞いておこう」


 これは、メロディーナ嬢の事を相談しておかねば!

 妻は、ロデの正体を知らない。今更彼女だと言えば、離婚だと言い出しかねない。

 今は、非常にタイミングが悪い。外国語を話せるが、メロディーナ嬢の印象はあまり良くなさそうだからな。

 それもこれも、ハルサッグ伯爵が色々としゃしゃり出るからだぞ!

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