第20話 ルティロン視点
とうとう決戦の時が来た。
結局、思った通りにはいかなかったが、この作戦が上手くいけば婚約は解消しないという言質が取れた!
後は、彼女の足手まといにならないようにしないと。
牧師に扮した騎士の前に立ち見つめ合って気づく、本当にほぼ同じ背丈だな……。少し悲しくなる。ワンピースは着ているが靴は動きやすいいつものだ。
ちょっと感傷にしたっていれば、待っていた賊が侵入してきた。すぐに戦闘になる。賊は俺が、妹のルティアンではないと気づけば、余計殺気立った。
賊が振るう剣の威力は思ったより感じない。本当に副隊長は、手を抜いていなかったんだな。おかげで、剣を吹き飛ばされる事もなさそうだ。
初めて躊躇なく剣で俺は切りつけた。そして、初めて感じる人を切る感触。
あははは。やっぱり俺には騎士は向かないな。手が震えてる。
次に襲ってきた賊に決定打を切り出せない。くっそ。やらないとやられるのに!
そう思っていたら、目の前の賊が倒れた。ロデが倒してくれた。
「ふう。あらかた片付いたわね」
「逃げだしたのは、ハルサッグ副隊長達が仕留めたのか?」
「そうよ。今日の模擬訓練は、ここだもの」
俺が倒したのは一人。牧師に扮した者とロデは三人ずつ。いやロデは、俺のを一人倒したから四人か……凄いな。
倒れている賊は死んではいない。
逃げた賊は、生け捕りしているはずだ。逃げられない様に足の骨を折るぐらいだろうと、ロデは恐ろしい事つらっとして言っていた。
作戦では、模擬訓練はカシュアン嬢の誕生日パーティーの前日から今日まで行われる予定になっていた。
つまり、カシュアン嬢の誕生日パーティーにはもう、副隊長達はここで待機している。
確実にカシュアン侯爵を捕らえる為には、俺達を襲わせなければならない。だから賊を発見しても教会に入るまでは手を出して来ないから、自分の身は自身で守らなくてはいけなかった。
結局ロデに助けてもらう事になったが。
そして無事、カシュアン侯爵家を捕らえる事が出来た。
もう入国しても大丈夫だと母上とルティアンに伝えれば、帰国してくると言う。
顔合わせの日にちも決まり俺は、
もう必要ないのに何でという顔つきだが、手合わせしていれば楽しそうな顔つきに変る。彼女は、思ったより顔に出るんだよな。
だから嫌われているとは思っていなかった。なので、婚約破棄を突き付けられるとも思っていなかった!
婚約破棄には、焦った。よかったよ。ハルサッグ伯爵ではなく俺に直接言ってくれて。
ハルサッグ伯爵に言っていれば今頃、俺がどんなに頼んでも婚約は破棄されていただろう。
彼女はわかってない。爵位で言えば確かに侯爵家であるラフリィード家の方が上だろう。だが実質の権力は、ハルサッグ伯爵にある。
陛下がどっちの言葉を取るかと言えば、ハルサッグ伯爵にだろう。
これが外交の件になれば別だが。
確かに妹のルティアンが聖女になれば、世間的には更に権力を入れた様に見える。
だからこそ、カシュアン侯爵家は、カシュアン嬢を聖女に仕立てようとした。
ただ、メロディーナ嬢と俺を結婚させ権力を得ようとはハルサッグ伯爵は考えていない。いや、必要ないだろうな。
すでに権力は持っているのだから。
自分の娘の実力を信じ、作戦を提案する度胸。それに頷かせる信頼。
さりげなく娘の手柄にさせ、サポート役に回る狡猾さ。そして、きちんと次の一手を打ってある。今回の作戦の全貌を見れば、彼の手のひらの上だった事がわかる。
今回の作戦で唯一の懸念は俺だっただろう。
一応これでも侯爵家の跡取り息子で、守る対象なのだから。
父上の手前、そうは言わず一緒に作戦に組み込んだ。
噂を流すのを手伝えば、あの場に俺がいなくても作戦は遂行出来た。
そうしたのは、メロディーナ嬢がロデだと知れた時に、最後まで俺をかかわらせる事で結婚出来る様にしただけだ。
ロデなら俺に怪我を負わせる事無く守り切っただろう。そう思うと、ちょっと自分が情けなくなるけど。
俺がハルサッグ伯爵に稽古して欲しいと言い出さなければ、婚約は解消されていた。だから俺が自身を唯一褒めたいのは、婚約を繋ぎとめた事だ!
「俺は、ロデある君も含め愛している。どうか俺の手を取って下さい」
俺は、メロディーナ嬢に手を差し出す。
彼女は、手と俺の顔を交互に見つめ顔を赤らめた。
そして、俺の手を取ってくれる。
「ありがとう。絶対に幸せにするよ」
掴んだ手は離さない。絶対に!
俺は、彼女の手の甲にキスを落とした。
「君の事をメロディーナ嬢と呼んでいいかな?」
「は、はい……」
「では、俺の事はルティロンって呼んでね。言ってみて」
「え……ル……ルティロン様」
あぁ、かわいい! 今すぐに結婚して、俺のものにしたい!!
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