中編
修学旅行、みんなで泊まっているホテルのリネン室で、どうしてかわたしは学校で一番可愛い白戸さんと二人きりだ。
頭こそ上げてくれたけれど、彼女はさっきまで土下座していて、今も正座のままである。
鬼気迫る白戸さんに思うところはあったけれど、友達を待たせているからな。悩んだけれど、同性相手なら、減る物じゃないし……とわたしは渋々ながら彼女の願いを叶えることにした。
「いいんですか? いいんですね!?」
「う、うん、いいから。だからほら、立ってさ……。目の前で正座されてると、わたしの方が居心地悪いし」
そう言いながら、わたしは白戸さんの細い肩に触れて立たせる。顔だけじゃなくて、華奢な体つきも、細くて白い首も、本当に可愛らしい。なんでこんな子が、わたしの胸をもみたがるのか。
「いいんですね!? もみ始めたらもう止まらないですよ!?」
「止まらないって……え、どれくらいもむつもりなの?」
「私にもわからないですけど、多分我を失うので……いえ、絶対
「それは困る」
そんなにわたしの胸へ夢中になられても困るし、急いでいるから早く終わってくれないのも困る。
「でも、自分でどうすることもできないんですっ!」
「そんな自信満々に自我を手放さないでよ……」
きっぱり断言するけど、わたしの胸をもんだこともないのにどこからそのマイナスの自信がわいてくるんだろう。実際にもんでガッカリしても、わたしは知らないからね?
「あっ、千冬さん、ごめんなさいっ! そんな顔しないでください、考え直さないでっ」
「だって、ずっともまれるのは困る……」
「だったらもうやめてほしいってなったら、こう頭を叩いてもらえれば――多分ですけど、私も強い衝撃があれば我に返るんじゃないかと」
「ええぇ、できないよ。そんなこと」
とんでもない解決作にわたしは顔をしかめた。
「千冬さんにだったら全然っ! 私その、歓迎です。それに胸をもませてもらうわけですから……頭を叩かれるくらい……」
「そんな交換条件いやだぁ」
彼女が本当に、そこまで言って止まらないほど私の胸をもむのかはわからない。でも今の言動からすると、軽く叩く程度で止まりそうにもなかった。
学校で一番可愛い子の頭を叩くなんてしたくない。もちろん相手が誰だって叩きたくない。
「ねえ、暴力以外の方法はないの? ほら、横腹くすぐるとか」
「私、横腹強いんですよ。脇も……足の裏だったら、ギリギリこそばゆいんですが」
そう言いながら白戸さんは両手をあげて見せた。
学校指定のジャージに、無地の白い半袖シャツだ。横腹でも脇でも好きにしていいよ、という意味なのだろうか。それ口から少しだけ綺麗な脇がのぞく。ふと、お腹の辺りを触ってみようと思った。本当に、くすぐったくないんだろうか。
わたしは敏感な方で、ちょっと触られるだけでも笑い転げてしまう。そういう意味では、胸をもまれるのは良くても、腹回りや脇は絶対触ってほしくない。
そう思いながら、試しにと指でそっとなぞる。
「んっあっ」
「あれ、白戸さんやっぱりくすぐったかったんじゃ?」
「いえ、今のはその……ちょっと驚いただけで、くすぐったくは……ないんです」
「えー、本当に?」
もう少し横腹をつついて、そっと上からなぞってもみたけれど、確かに白戸さんは頬を赤らめるだけで笑いを堪えているようには見えない。
「すみません、でも今ので我慢できなくなってしまいました……」
「え、やっぱくすぐったくなってきた?」
「違います。そっちではなくて……そのっ、もみますね」
「え、待って待って、なんで!? まだ白戸さんの止め方わからないんだけどっ!?」
慌てるわたしだが、息を荒らげた白戸さんはもう聞く耳を捨ててしまったようだ。
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