短編集

@C2H6O

最弱魔族の生存戦略

魔王城会議室。

そこにいるのは水の四天王ジニアスと配下のスライム三体。

既に魔王は他の四天王ともろとも勇者によって討たれた。


「第一回魔王軍再建会議を始める。」

「いやジニアス様、魔王様が居ないのでは無理では?」


至極当然の話。

魔王軍とは魔王と言う象徴があって初めて成立する。

四天王一人では成立も糞もない。


「しょうがないじゃん!水龍リヴァイアサン様のお願いだよ?たかが小魔人族の俺にどうしろと!?」

「いやいや、じゃあなんでリヴァイアサン様より上の立場になってるんですか?」


小魔人族は魔族にとって珍しい種族だ。

だが珍しさ=強さではない。


「だって魔王様の像を清掃しようとしてたら魔王様復活の瞬間にたまたま立ち会って一番乗りだからお前四天王だ!だよ!?実力じゃねーよ!」

「でも軍部じゃリヴァイアサン様を知略で倒したって...。」

「リヴァイアサン様が水の四天王の座をかけて決闘するって!で、試合形式こっちに決めさせてくれたから死なない様に考えて算術勝負にしたんだよ!そしたらリヴァイアサン様二桁の算術で敗北だよ!魔王様に至っては三桁で終わったよ!俺十桁まで暗算出来るのに!そこまで数字に弱いとは思わないじゃん!!」


魔族とは力こそ正義な完全武力主義である。

故にその弊害として知略においては全くの底辺である。


「じゃあ農業国家イーストウッドの崩壊は?あれジニアス様の功績では?」

「俺が魔王軍の食料を極秘に買い付けに行った後に麦の疫病で麦に無味無臭の毒素が発生しただけだよ!俺関係無いよ!!」


本当にたまたまジニアスが買い付けに行った辺りの時期に見た目にわからない疫病が発生しただけである。

その報告はジニアスも聞いたが魔族にとっては特に危険な疫病毒で無いために気にせずいたら魔王が「良くこの大陸の食糧庫を落とした」と勘違いで褒めただけ。


「じゃあ軍事国家サウスレンドの宰相事件は?あれも進行を抑える為のジニアス様の計略だとか。」

「イーストウッドの件で広がった悪名を宰相が利用して助かろうとしただけだよ!会った事も命令した事もねーよ!というか配下お前らだけだろ!お前らそんな命令記憶にないだろ!」


悪い事はとりあえず魔族の仕業。

特に知謀の水の四天王という悪名のせいでそういう事件はだいたいジニアスのせいにされた。


「じゃあ海洋国家ノースブルーの艦隊全滅事件は?あれもジニアス様の知略と...。」

「リヴァイアサン様含め水生系魔族全員が馬鹿だったんだよ!なんで人間は溺れたら死ぬって知らないんだよ!常識だろそんなもん!常識教えただけで知略って言われたくないわ!!」


これもノースブルーの艦隊が手強くてリヴァイアサンに相談されたジニアスが「船に穴でも開けて溺れさせたらどうです?」と言ったら「そんなんで人間が死ぬのか?」と問われた事が起因している。


「そもそも小魔人族って固有魔法があるがそれしか使えない最弱種!その固有魔法も悪戯魔法なんて言う殺傷力0のだ!馬車の車輪をぬかるみに嵌めたり人間転ばせる類のな!更に言えば子供の頃しか使えないゴミ魔法だよ!後は人間と変わらねぇよ!!」

「じゃあなんで水の四天王なんてやってんすか...。」

「四天王任命時に水バケツ持ってたからだよ!!」


はっきり明言しよう。

このジニアスただの不憫な魔族ってだけの戦闘力の無い一般人である。

なんとか死なない様に立ち回っていたら周囲がなんやかんやと持ち上げて悪名高い水の四天王となっている。


「あーもう良い、それより再建だよ再建どうするよ...。」

「諦めたらどうです?」

「そうそう俺ら配下も戦闘能力無いし即勇者が来てどっかーんですよ。」

「死にたくないよねぇ。」

「そうもいかん...立案者がリヴァイアサン様だからな...だから死なない為にお前らにお願いしていたこの地図が役立つ。」


速さと隠密性に擬態能力。

そこにそれを扱うだけの知性を魔王にお願いして創られたこの三体の配下。

ジニアスは彼らを使い治世において必要な情報を集めさせていた。

自身が生き延びる為に。


「さて魔王城がここ大陸の北側、中央は聖王国シャンバラ...かの勇者が居る国だ...。」

「魔王様との戦い見てたけど本当に強かったですよ?勝てる人居るんです?」

「無理でしょ?連れてた聖女も騎士も賢者も四天王クラスだったし。」

「生き残りで戦いになりそうなのリヴァイアサン様位じゃない?あぁでもジニアス様も四天王ですし。」

「さっき俺の弱さ教えただろ?無理無理、それにあの騎士、俺の弟のジルコスだったし...バレたら親父が来るだろうなぁ...余計無理。」


小魔人族は幼少期は悪戯魔法を使うがわかりやすく言えば只の悪戯小僧。

見た目も生態もほぼ人の為人間達の生活に寄り添い生涯を終える。

ハーフは産まれずどちらか片方の種族で産まれる為、小魔人族の兄と人間族の弟というのは小魔人族にとって珍しい話ではない。


「確か父親が騎士でしたっけ?」

「そうそう、聖王国第六騎士団の一人。騎士団長とかじゃねーし第六騎士団言うてもただの門番だけどなぁ。ジルコスいつの間にあんな出世したかねぇ。」

「それよりどうするんです?位置関係は私らが地図作ったんでわかりますが...。」

「あーそれはな、魔王城と聖王国の間にあるこの塔。人間達は神護の塔って呼んでるがただの巨大な廃棄された塔をダンジョンにする。」

「無理難題多すぎて壊れました?」


ダンジョンと言うのは自然発生するものである。

それは人間族も魔族も同様の常識。

ただ一つ、小魔人族を除いては。


「これは小魔人族に伝わる話だが、小魔人族と言うのは本来はダンジョンマスターという種族らしいんだよ。ただダンジョンマスターはダンジョンが死んでも死ぬしダンジョンから一定期間出ると死ぬしで死のリスクが多すぎてダンジョン創らず外で生活する様になったらしいけどな。」

「へー、じゃあ創りに行きます?私ら役に立ちませんが。」

「お前らに戦力期待してねーよ。それよりスラリスは散っていった魔王軍残党集め。スラトコは冒険者王国で情報収集。スラザベスは情報操作だ。詳細はこの書類な。」


そう言って用意しておいた書類を三匹に渡していく。


「ねぇジニアス様。」

「わかってるよ、会議する前からほぼほぼ決まってるよ。会議の体を取った仕事の確認だよ。いいから行け。」

「「「はーい。」」」


スライム達は素直に命令をこなしに部屋から出ていった。

一人残ったジニアスは脱力し机に突っ伏した。


「魔力も身体能力も差し出して一般人以下にならないと作れないのがダンジョンなんだよなぁ...。自衛手段が木の棒しか選択出来ないとか詰みにも程がある...。」


これは脳筋ってレベルじゃない馬鹿達の中で商家レベルの知恵しかない小魔人族ジニアスの生存戦略物語である。

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