第20話
リビングの扉が突然開いて、
それと同時に比奈子がバタンと
顔から倒れた。
子どもだから、ぶつかって泣くのは
当たり前だろう。
鼻が赤くなっていた。
「大丈夫か?」
「わあーーーーん。」
3歳児、大して痛くないのに
泣いている。
目から大粒の涙を流す。
晃は、ポンポンと比奈子の頭を撫でた。
「慌てすぎだって。」
『え、なになに。
お子さん、起きちゃったんですか?』
鈴木がすぐに反応する。
『例の比奈子ちゃんですね。』
「目、覚めたのか?」
黙って頷いた。
ふぅっとため息をついて、
立ち上がり、スマホの画面に
話しかけた。
「ごめん、比奈子、
寝かすから、今日は落ちるわ。
最後のゲームだったのに
ごめんな。」
『仕方ないっすよ。
そういう時もありますって。
彼女の隙見て、やれる時は…って
怒られるからなぁ。
本当はやりたいんですけどね、ゲーム。』
『私もゲームやりたい。
かなりどハマりしてるのに
やれないのは…。』
「…だよなぁ。
そしたら
職場でやるのどうよ。
昼休みとか。
1ゲームくらいならできるんじゃない?」
『確かに。
そうしましょう。
鈴木さんもいいですよね。』
『ぜひ、そうしましょう。
夜にはしないってことで。
昼間に。
でも、課長とかに見つかったら
どうなりますかね。』
「あーー、それはまずいですよね。
会議室借りちゃうとか。」
「それは無理だろう。
ヘッドホン持参でそれぞれの
車とかもありだよな。」
『あ、それ、いい考えですね。
来週、ゲームやりましょうね。
あ、小松さん旅行キャンセルって
本当ですか?』
「てか、話長くなりすぎ…。
ラインしといて。
んじゃぁな。」
『あ、すいません。
比奈子ちゃん、
寝かせないといけないですもんね。
おやすみなさい。』
『遅くまですいませんでした。
おやすみなさい。』
ゲーム内のログアウトボタンを
それぞれ押した。
話してる間に次から次へと会話が
途切れない。
「ごめんな。この2人は
話長くなるからさ…。」
首を横に振って晃の足をしがみつく
比奈子。
グラスを台所の洗い場に持っていく。
「寝室に行こうか。」
「うん。」
晃はしっかりと比奈子の手を握った。
何ヶ月振りだろう。
親子3人並んで、ベッドに寝るのは。
平日の夜は飲み歩いては、
ゲームをしている。
ずっとゲームに夢中になる晃は、
ほとんどをリビングのソファで寝ていた。
久しぶりに見る自分自身の寝床には、
小さなふわふわのクマのぬいぐるみが
晃の枕に頭を体にふとんをかけられて
寝かしてあった。
その隣には比奈子の枕があり、
そのまた隣には
果歩がすやすやと眠っている。
本当は寂しかったのかなと感じ取れる。
「比奈子、あのぬいぐるみって
お母さんのだよな。」
「うん。そうだよ。
枕があるのにここは誰もいないからって
お母さんが寝かせたの。」
「そっか。んじゃ、今日はお父さん
そのぬいぐるみの代わりに寝るね。」
「お父さん、本当は、そこには
お父さんが寝るんだよ。
ぬいぐるみさんが、
守っててくれたんだから。」
「ふーん、そうなんだ。
ありがとう。
んじゃ、寝ようか。」
晃は、ぬいぐるみをそっとよけて
枕に頭を乗せた。
比奈子はギュッと晃の左腕を
離さないようにつかんで
眠った。
さっきの話を聞いて
人肌恋しくなった。
しがみつくことしかできないが
それだけで安心できた。
どんなに強い睡眠薬のより
ホッとした。
ただ、そばにいるだけで。
親子3人川の字で寝るという
絶大な安心感があった。
子どもにとっては両親が揃うというのは
何とも言え難い心の安定を
もたらすものだろう。
喧嘩していない。
ただただ寝ているだけ。
変なオーラも発してない。
この状態が長く続けばいいのになと願った。
額に右腕を当てて寝ようと試みたが
難しかった。
晃は比奈子が絵里香だったらということを
考えた。
前世の記憶を覚えていたら、
自分のことはどう見てるんだろう。
今までのことを振り返ると少し
恥ずかしくなってきた。
子どもだから子供扱いするのだが、
それも知っていたらとゾゾっと寒気が
してきた。
今の比奈子は天使のような寝顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます