第10話
晃は車を職員駐車場ではなく、
今日はお客様専用駐車場に停めた。
それだけで少しドキドキする晃。
知ってる人に声かけられるんだろうな。
課が違っていても市役所内で全く交流がないわけではない。
モヤモヤした気持ちのまま、比奈子を抱っこ紐に乗せて、ベルトをパチンととめた。
「これで大丈夫かな?
比奈子、苦しくない?」
「だぁ!!」
比奈子は晃にまたべったりくっついて、
笑顔がほころんだ。
何があってもちょっとやそっとじゃ
泣かないぞと思った。
ずっと抱っこされていたいためだ。
「ご機嫌なら大丈夫だな。
荷物を持ってっと。」
車の施錠をして、早速、市役所の自動ドアのスイッチをタッチして中に入った。
「あ、あれ?!小松さんじゃないですか?」
1番会いたくない人が
市役所出入り口にいた。
税務課で同僚の岸谷智也だ。
「あ、おう。お疲れさん。」
「おはようございます。
もしかして、有給取ったのって、
比奈子ちゃん見るためですか?」
「まー、そんなとこ。」
「イクメンしてるじゃないですか。
この間、果歩さんに会った時は
比奈子ちゃんのこと
見てなかったからなぁ。
しっかり見ておかないと…。」
「お前に娘はやらん。」
「小松さん、そんなかなりの
歳の差じゃないですか。狙いませんよ。
安心してください。
僕はどちらかと言えば、
マダムキラーだから。ねー?」
智也は、比奈子の手を触った。
比奈子は愛想を振り巻いた。
(まずまず、イケメンなのよね。
前世だったら、年齢的には
ちょうどいいんだけど……。)
「ほらほら、仕事中だろ?
また課長に叱られるぞ。」
「はいはい。んじゃ、楽しい1日を。」
智也は手を振って去っていく。
別れ惜しんだ比奈子はがっかりした顔を
した。
「比奈子、隆二くんと遊ぶんだぞ。
こんなところで油は売ってられないな。」
晃は支援センターに続く通路を
歩いて行った。
***
「おはようございます。
あれ、比奈子ちゃん?
久しぶりだね。
お父さんと一緒なんだね。よかったね。」
支援センターの担当の先生に声をかけられた。
「おはようございます。
お世話になってます。
よろしくお願いします。」
「では、この受付表に名前と連絡先の記入を
お願いします。」
「はい、荷物はこちらにおいても
大丈夫でしょうか?」
晃は持っていた荷物を棚の上に置いた。
「そちらでいいですよ。
比奈子ちゃんは何の遊びが好きかな。」
先生は、
いろんなおもちゃをたくさん
出してくれた。
お人形、ミニカー、たいこ、マラカス、
ままごとあそび用の食器や
食べ物のおもちゃなんかもある。
家には無いおもちゃがあって
新鮮なのかいろんなおもちゃに
興味津々になる比奈子。
「家にないおもちゃがあって助かります。」
「これ全部寄付されたものですよ。」
「そうなんですね。
よかったなぁ、比奈子。」
比奈子がドーナッツのおもちゃに目がついて
あむあむしていると、出入り口から声がした。
「おはようございます。
あれ、比奈子ちゃん?!
お父さんと一緒ですか?」
佐々木隆二の母、佐々木あずさが言った。
ハッとショッピングモールで会ったあのお母さんだと気づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます