第9話
ある平日に晃は仕事の休みをもらった。
どうしても、
果歩が行きたいところがあると
土日じゃなく平日に無理言って
休みを取ってもらった。
勤めて初めての有給だった。
この間のショッピングモールで
比奈子のお世話ができるようになったことが
自信に繋がったようで
安心して晃に任せられると思っていた。
「んじゃ、比奈子のお出かけグッズは
ここに置いておくね。」
「うん。わかった。
準備してくれてありがとう。」
「良いよ。
せっかくお休みとってくれたし、
これくらい平気だから。」
「比奈子〜、お母さん、
外出しちゃうからなあ。
寂しいよな。」
晃に抱っこされて嬉しそうな比奈子は
建前上、母である果歩に行って欲しくない態度を取って見せた。
果歩の方で手を伸ばす。
「ごめんね、比奈子。
パパと仲良く過ごすんだよ。
帰ってきたら一緒にお昼寝しようね。」
果歩は、比奈子の手をにぎにぎした。
「んじゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
オシャレなステテコと
Tシャツを着ていた晃は、
比奈子を抱っこして、
果歩を見送った。
見えなくなった後、
「なんで、有給とってまで、
今日、お出かけするんだろうな。
どこに行くか教えてくれないし…。
まさか、浮気とかじゃないよね。」
変な疑いを考える晃は、
比奈子を抱っこしながらリビングを
ウロウロする。
何か手掛かりになるものは無いか
探していた。
テーブルにバラバラと乱雑におかれた
チラシや新聞などがあった。
「ん?ネイリスト…通信講座。
資料請求したのか。
もしかして、
ネイルの予約したってことかな。
別に爪は今まで何も手入れしてなかった
気がするなぁ。」
テーブルの上に、通信講座の資料が
たくさん置いてあった。
見られたくなかったのか、
新聞やチラシの下の方にあった。
(ネイリストになるつもりなのかな。
やっぱり、
育児だけじゃつまらないってことか…。
外に出なくても平気ってあの人
独り言を言ってたけど。
いいなぁ、キラキラした仕事選んで
羨ましい。)
比奈子はベビーベッドから
晃の様子を伺っていた。
「ま、どっちでもいいや。
比奈子、今日は支援センター行くぞ。
お母さんがお友達来るから
連れてってって言うからさ。
行かないとだよな。
誰だっけ、隆二くんだっけ。
昨日、ママさんからライン来たんだって
今日行くから比奈子ちゃん
連れてきてって。
俺行って大丈夫だったのかな。」
(やった。隆二に会えるの?
それなら、行く。
早く行こう。
どーせ、家にいても
アニメばかり見せられるんだから。
外に行かないと!!)
嬉しいそうにベビーベッドの柵を
何度も揺らした。
監獄に入った犯罪者のようにも
見えなくない。
柵から早く出してほしいものだ。
「はいはい。
行きたいのね。
連れていくよ。
でもさ、その支援センター
俺の職場そのものなんだよね。
気まずいよな。」
晃が行こうとする子育て支援センターは
市役所内に併設されていた。
税務課は別な場所にあったが、
職場に行くのと変わりないことに
何だかモヤモヤした。
そんなこと気にしない比奈子は
ニコニコしていた。
車のエンジンをかけて、
果歩に準備してもらった比奈子グッズを
後部座席に積んで
比奈子をチャイルドシートに
乗せた。
だんだんと赤ちゃん連れのお出かけも
慣れてきていた。
午前中にたっぷり遊んで
午後の昼寝ぐっすり作戦を考えていた。
まだ歩くことはできないため、
空間を変えるだけで
だいぶ脳みそを使うらしく
気疲れするようだ。
比奈子は気分転換になると喜んでいた。
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