落ちこぼれなので悪魔を召喚してみた
@NEET0Tk
プロローグ
「落ちこぼれが」
「恥知らず」
「生きてて辛くない?」
「同じ空気を吸ってるだけで穢らわしい」
……と、言われてきた。
正直に言おう、もう限界だ。
なんだか一周回ってちょっと陽気な気分だが、ちょっと冷静になると死にたくなる。
だから何も考えたくない俺はどうにか希望を見出そうとした。
もしかしたら今から魔法の才能の目覚めるかもしれない。
そう願い16年、何度挫折してきた。
もしかしたら隠れた才能があるかもしれない。
それで今の今まで何かに成功した試しがあるか?
もしかしたら女の子にモテるかもしれない。
顔は普通だし、こんな落ちこぼれを好きになる人間などいない。
もしかしたら王族の生まれかもしれない。
平民ならまだしも、下級貴族の俺は血縁に関しては厳しくチェックされているので、間違いなく王族ではない。
もしかしたら奇跡が、偶然が、何かが起きるかもしれない。
それらは何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も願い、ついぞ叶えられることはなかった。
もう、何でもいいや。
俺を馬鹿にしてきた連中を手辺り次第殺す?
いつも産まなきゃよかったと豪語する両親の家に火をつける?
どうせならやけ食いでもしようか。
それとも道端にいる女に襲い掛かってみようか。
あぁ、なんだか王様にでもなった気分だ。
今なら羨ましかった全てが手の中にあるような、そんな全能感が満ちていく。
気分がいい。
それならきっと、こんなことだって出来るだろう。
「満ちず、足りず、捻れ滲み嫌悪し憎悪せよ。我、持たぬ者なり。されど、果てぬ欲は何者よりも深くあれ」
地面に描いた魔法陣が光り出す。
「いでよ悪魔よ。我が魂と引き換えに、願いを叶えたまえ」
赤子でも知る常識の一つがある。
『絶対に悪魔を召喚するなかれ』
悪魔は無慈悲で無惨で残忍である。
契約をすれば願いを叶え、それと引き換えに魂を奪われる。
悪魔に奪われた魂は食われ、煉獄よりも辛い永遠の苦しみを味わい続けることになる。
だから絶対に、例え死んでも、悪魔を呼び出してはいけない。
悪魔を呼ぶことは、どんな犯罪よりも恐ろしい罰を受けるのだ。
でもそれって
「生きてる人間にだけだよな〜」
ヘラヘラと笑う俺は天井を見上げる。
今から俺は悪魔と契約し、死ぬだろう。
きっと今の生活よりも辛い日々が待ち受けるに違いない。
でもいい。
それでもいいんだ。
もう、生きることに希望を見出せないのだから。
もう、奴らに踏み躙られることに我慢ならないのだから。
だからもう
「全てを、壊したい」
「うん、いい傲慢っぷりだ」
気がつくと、目の前には一人の女の子が浮いていた。
肩くらいに伸びた青い髪、少女的なフリルの多い衣装に身を包み、そんな姿とは相反するような尊大さを見せつける豪華な杖を一本持っている。
こいつが……悪魔か。
「いいね、君いいよ!!素晴らしい!!まるで自分が被害者であり、世界で最も不幸なのだと疑わない考え。傲慢、傲慢過ぎるよ君ぃ!!」
ケラケラと笑う姿は美しく、悪魔的だった。
「お前が悪魔か」
「あれだけ丁寧なアポイントを取っておいて、第一声がそれかい?全くレディーの扱いがなってないね。まぁいいだろう。その通り。僕こそが偉大にして高尚な大悪魔、グレイ様だよ」
クルリと空中で一回転し、丁寧なお辞儀を見せる。
あれは確か王族のみに許された挨拶だったはず。
それを悪魔が何故……いや、今はどうでもいいか。
もし本当に悪魔なのだとしたら
「俺の願いを叶えて……いや、叶えろ」
「ど、どこまで僕に気に入られようとすれば気が済むんだ君ぃ!?」
何故か頬を紅潮させ、息遣いが荒くなる悪魔。
やっぱり悪魔は頭がおかしいんだな。
「い、今すぐその魂を食い漁りたい!!だが、僕は悪魔だ。契約を守らねば逆にこちらの魂が奪われてしまう」
コホンと咳をする悪魔。
「いいだろう人間、望みを言え。この傲慢のグレイが君の願いを叶えてやろう」
差し伸ばされる手。
俺の想像していた異形で、血に濡れ、毒毒しいものとは違い、小さくて白くて美しい手。
でもそれは間違いなく、悪魔の手である。
だからこそ俺は迷わず掴める。
「願いは一つだ」
俺はニヤリと笑う。
「俺だけのハッピーエンドを見せてくれ」
こうして俺の、世界への反逆が始まるのであった。
落ちこぼれなので悪魔を召喚してみた @NEET0Tk
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