第35話 トロールのグスタファー

 山の奥地にトロール族の村があった。

 普通の人間が使用する家1軒程の大きさがトロールだ。

 だがそいつだけは規格外だった。

 普通のトロールの3倍の大きさ、家にして3軒合体させたくらい。

 がっしりとした肉体の上、心優しい男でナイスガイな微笑み。

 いつも涎を垂らしながら、首に巻いてある赤いマフラーで拭う。

 このマフラーは人間が大事に大事に作ってくれた。


 その者の名をグスタファー。


【おい、グスタファー、人間どもが勘違いしてすまねーな】

【グスタファーこっちだ運んでくれ】

【グスタファー達のトロール村には助けてもらってばかりだぜ】

「団長は傭兵団なんだよね」


【そうだぜ、人間を助けるが異種族も助ける。今差別がひでーからな】

【そうだぜ、団長は馬鹿なんだ。ぎゃはははは】

【さっきだってリザードマンの姉弟を助けて爆弾投げられてやんの】

【るせー】

【あいつらはまだ子供だったけどこんな山奥に何のようだ?】

【あいつら特殊な草を探してたみたいだな】

【そうなんだなー】


【グスタファー】

【グスタファーありがとな】

【もう逃げろグスタファー】

【もう俺たちは】


「うぉがああああああああああああああああああ」


 グスタファーの断末魔。

 死体となった人間の傭兵団。

 トロールの村を守るために戦い死んだ。

 トロール達も殆ど殺害された。


【グスタファーの料理は世界一だぜ】


「だんちょおおおおおおおおおおおお」


「お、おれが、おれが助けるんだからなああああ」


「団長も、みんあ、みんあああああああああああああ」


 グスタファーは涙を流し赤いマフラーを大事に首に巻き付ける。

 団長がくれた大きな赤いマフラー。


 トロールであろうと、身の丈3倍はあろうと、料理がうまかろうと。

 団長達は死体になってでもグスタファーを守ろうと戦った。


「うあああああああああ」


 周りには見た事もない異種族。

 背中に虫のような羽を生やしている。

 目は昆虫のようであり、触覚もある。

 虫は色々な物がいて、どことなく蟻に近い。


「これはこれは、でかい化け物だ。我ら昆虫族に勝てると思いですな、確かに、どんな時代でも虫は人間や異種族には踏みつぶされていますからねぇ」


 まるでがり勉のような女。

 尻尾には巨大な蟻のお尻があり、背中には白い羽がある。

 手足だけで6本近く存在している。


「では、我がしもべ達よやりなさい」


 グスタファーは瞬時に鑑定を発動。

 全員が昆虫族でスキルはまちまち、何よりレベルは4000だと判明。

 リーダー格の女性型昆虫はレベル8000と表記。

 総勢500体。

 団長達が命を懸けて100体を倒した。


「何の為にこんな事をするんだぁ」


「何の為ですって? 捕食する為ですわ、我ら能力は【イーター】ですから」


 グスタファーの脳裏に団長達の死体が食われる事がよぎる。

 それだけは避けなくては。

 スキル:イーターとは食べれば食べる程強くなる。

 レベル10の者を食べるとレベル10を追加出来るというとんでもないスキル。

 それが全員習得されているのだから信じられない。


「はぁはぁはぁ」


 グスタファーの褐色の肌は今や団長達の死体の血に濡れている。

 弱音なんて吐けない。


「だ、だんちょーどうにかして埋葬しないと」


「そうねぇい、埋葬は大事よ、うん、いつの日の傭兵団たちね、お世話になったはガキの頃、まったく死んでるのね、あたしとしては腹立たしい限りだわ」


「姉ちゃんそんな事いってこっそり泣いてたんでしょ、弟ならわかるよーふふふ」


「ゲニー後で殺すわ」


「そこ、ツンデレなの?」


「いえ、殺すわよ」


「ひいいい」


「ガニーさんゲニーさんふざけてないで臨戦態勢ですよ」


 赤い鱗のリザードマンがガニーで青い鱗のリザードマンがゲニー。

 その後ろからやってきたのがコボルト族でオオカミ化騒動により顔がオオカミ化してしぶくなったペロンクがいた。


「君達は敵か?」


「いえ、敵ではありません、名もなき傭兵団です。我らが団長があなたをお迎えしたく」


「はい?」


「団長は悪い人間を滅ぼし、良い人間を助ける。異種族が平和に暮らせるそんな世界を作りたいのです。あなたが必用だそうです」


「そうなんだねーうーん、人間を滅ぼすか確かに悪い人間がいるのは知ってるけど、そこの傭兵団の人達は命がけで」


「そうですね、この人達は違うのかもしれません、我らが団長の自由の墓場に埋葬したいです」


「そうか、それなら、それでいいな、いつでも団長の墓参りにいけるや」


「はは、そうですね、所で先ほどから関係ないトロールの死体を食らおうとしてますね、ガニーさんゲニーさん程々にですよ」


「たりめーよエルフレイク城はちとやりすぎた」

「あれは姉ちゃんが駄目だった」

「るせー」

「そうだー」


 昆虫族があちこちに飛来して飛んでいく。

 高レベルのトロールの死体を食らいに行くためだろう。


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