第17話 道化
ペロンクの周囲にはトランプが浮遊する。
現在ペロンクのレベルは10000となっている。
「それにしても、おかしいな、サーカス団にいた時の君を鑑定した時はレベルがあったのに、今じゃレベル0とは信じられないな、レベルは下がるものなのか?」
「違うよ、ぼくはレベル10000だよ」
「へぇーそれはすごいねぇ、たぶん本当だとしたら、こっちに勝ち目はないね、でもね、どんなに不利な状況でも勝利方法を導くのがゲームの常識なんだぜ」
「そうなんだね、ぼく分からないや」
「はは、それでこそあの人の息子だね」
「父さんを知ってるの?」
「ああ、そうだね、道化師のコボルトは好きだったなー、飽きたから皆で石ころ投げて殺したけど、こっちが投げた致命傷ってやつ? こっちの鑑定したほうがいいぜ、それと俺が握ってる奴も見た方がいい」
ペロンクは鑑定する。
【スキル:一撃:
「あ」
「くふ、ゲームをやる時はね、相手のいいなりになっちゃーいけない、スキルには条件式の奴が何個かある。気を付けるんだよ甘ちゃん」
「父さんにも同じ事したのか」
「ああ、うん、同じ事して石ころで一撃死さ、事故に見せかけて沢山でやったし、お前の母ちゃんも同じように一撃死。難しいゲームの方が楽しいからね、このスキルがあれば、めちゃくちゃ強いドワーフだって一撃死さ」
「そんな事はぼくがさせない、ぼくは見つけたんだ。安心出来る場所をさ」
「そうか、その全てを壊すのがこっちのゲームだね、さて、この石ころの打撃をくらったら君は一撃で死ぬ。君はどんな攻撃を見せてくれるんだい?」
「このトランプさ」
「能力は知っているよ、トランプからトランプへ移動させる。触れた者の部位を一部移動させる事も知っている。ゲームの基本は攻略方法を見つける事なんだぜ」
笑顔ルーンはにこにこと笑顔でコボルト族のペロンクをじろりと見つめた。
ペロンクは少しおどけてしまったが。その姿は父親の意思を引き継いで、道化師の姿その者になっている。顔中に白い紅を塗りたくって、おかしな帽子をかぶって、ド派手な衣服を着用して。
「ぼくはお前を殺さないといけない、父さんと母さんの仇だとしても、なにより、君みたいな人間には生きていて欲しくないからだ」
「奇遇だね、獣臭くて、動物そのもののコボルトとは一緒に過ごせないし、犬は犬で人間に従ってろばかめが」
その時、ペロンク目が据わった。
空気が静かに静まった。
(考えれば考える程苦しくなる。父さんが願った人間との共存、それをぶち壊したい訳じゃない、それでも人の命をゲーム感覚で潰してしまう笑顔ルーンだけは、生かしたくない。それは本当なのだろうか、単に父さんと母さんの仇を討ちたいだけなんじゃないのか? 分からない)
ペロンクの脳裏で自問自答が始まるが。
浮遊するトランプを見て迷いを消す。
レベル10000になる事で、沢山のスキルを習得した。
それはトランプマスター以外。
道化のようでピエロに相応しいスキルばかり。
【スキル:トランプボックス】
トランプの形が箱のようなものに切り替わる。
コボルト族の小さな体のペロンクは一瞬で包まれる。
箱は無数に広がる。全部で5箱ある。
「へぇ、考えたねー」
次の瞬間、箱が爆発。
5箱全てから【スキル:ナイフ投げ】が発動。
ナイフが50本飛来する。
ペロンクは遥か上空におり、そこにもトランプの箱がある。
その箱も爆発して、ペロンクが吐き出される。
【スキル:浮遊散歩】
10秒間空を浮遊散歩する事が出来る。
【ナイフ投げ:《効果》当たった部位は10秒間動かない】
笑顔ルーンは素早く体を動かしてナイフを避ける。
しかし右足をかすってしまう。
「嘘だろ、動かない」
右足が動かなくなる。
浮遊しながらペロンクはさらなるスキルを発動させる。
【スキル:トランプ雨】
空から数えきれないトランプが雨のように落下してくる。
「う、うわああああああ」
笑顔ルーンの顔から笑顔が消えた。
そこには少年そのまんまの悲痛な顔があった。
「ひえええええ」
体にまとわりつくトランプ。
トランプに体の部位が当たれば、部位は別な所に移動させられてしまう。
それは死を意味していた。
だがそれは一行に訪れない。
「それはただのトランプさ、ちゃんと見るんだね、大きさが普通だろう」
ペロンクは右手と左手にトランプの剣を構える。
【スキル:トランプ剣:《効果》切った部位をトランプにする】
「ぎゃはははっは、トランプの剣て、斬れる訳が、ぎゃあああああ」
【スキル:トランプ飛翔:《効果》トランプに乗って高速で移動】
すれ違いざまに、笑顔ルーンの右肩を両断。
剣の扱い方はド素人。
だがレベル10000が補ってくれる。
右肩がぼとりと落下するが。全部トランプになる。
「嘘だろ、なんで俺の右腕がトランプに、聞いてないぞ、聞いてないぞおおおおお、これはダメだ。リセット、やりなおしだ。こっちは逃げるから」
「笑顔ルーン、良いかい覚えておいて欲しい事がある。人生にリセットはない、やり直しもない。ただまっすぐ突き進むだけだ」
「お前の父さんと母さんは殺したくなかったんだ」
「そういうのはいらない、君が父さん母さん殺していなくてもぼくは君をトランプにする、大事に使ってあげるからね」
「たのむううう、トランプになりたくないいい」
次に行われた惨劇。
それはトランプの剣で笑顔ルーンをめった刺しにする事だった。
刺さった部位はトランプになり、笑顔ルーンの体は次から次へとトランプに変貌していく。
最後に残ったのは頭だけで、それでも笑顔ルーンは笑顔だった。
ただただ笑顔で、ただただ笑って。
まだ少年のコボルトのペロンクは笑顔ルーンの顔面にトランプの剣を突き刺した。
全てがトランプそのものに代わり、一撃必殺の石を発動させる事なく勝利した。
「ふぅ」
一息つくと、ダンジョンの街の天井には何かの映像が流れていた。
それは鼻水を流して、涙を垂れ流して、みっともなく裸で見知らぬ世界で亡霊から逃げている勇者の姿に。
「すごいなーあれこそ道化にふさわしいよ」
ペロンクは思わず突っ込んでいた。
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