第5話 レベリング開始

 それは何気ない一言から始まった。


「せっかくダンジョンボスの魔王が君臨してるんだから強いモンスター創造してダンジョンルーム消滅させて倒せばいいのに」


 それは本当に何気ないセリフだった。

 リザードマンのゲニーは脆弱で惰弱の臆病者だ。

 臆病者ならではの考え方というものがあるのだろう。


「可能か?」


 オメガの問いかけに、魔王ルウガサーはこくりと頷いた。


「ただし、レベルの高いモンスターを想像するならそれなりの贄が必用だが、あとモンスターに一撃くらわせる必要がある。それは命がけだぞ」


「生贄はやはり生命か?」


【いえ、武具でも成り立ちます】


 幸運の女神が久しぶりに話かけてきた。


【武具レベル9999もあればモンスターレベル8000を10体創造出来ます】


「なんか俺の中にいる助言者的な存在が武具レベル9999のものを生贄に出来るそうだ。それでレベル8000のモンスターを10体創造出来るとか」


「……」

「……」

「ひぇ」


 魔王ルウガサーが目を点にしながら驚愕の表情を浮かべていた。

 次に強気なアネサン的なガニーは目を星にしていた。

 この提案をしてしまった臆病風のゲニーは逆にびびっていた。


「なるほど……やってみましょう、4階層の洞窟に召喚するとして、洞窟を消滅つまり崩壊させると、モンスターに一撃食らわせる方法はあるんですか?」


【どうやら魔王さんは忘れているようですが、創造したモンスターは魔王に忠誠を誓います。わざわざ殺す必要などないのです。部位破壊知っておられますかな? 爪を破壊するなり甲羅を破壊するなりすれば経験値が入ります。それでいいでしょう】


「えーとだな、うん、こう言ってるぞ」


 また3名がフリーズしている。


「な、なんで、そんなに詳しいのさオメガさん、ぼ、僕はそんなに詳しくないぞ、ましてやルウガサーさんですら知らない魔王事情な事なんて」


「あーもう分かった。俺の中にはなぜか幸運の女神っつう助言者がいる」


 またその場がフリーズした。


「そうですねーもう面倒くさいから具現化しました」


「か、かわいい」


「ねえさんデレないでくださいよ」


「それが女神なのか」


 俺の右肩はコロポックルのようにふんわりとしており白い天使の翼を生やした存在がいた。


「わたしを見る事が出来るのはオメガが気を許した仲間だけじゃ、さて、色々説明してあるからのう、ルウガサーよ色々と聞くんじゃぞ」


 

====レベリング開始====


 まずオメガが幸運の石を破壊し幸運状態になる。

 後は高速で手慣れた動きで武器を大量生産。

 4階層の洞窟内にはありとあらゆる鉱石が手に入る。

 宝石だって夢じゃない。

 今は時間がないので、せまりくる勇者を想像するわけだ。


「それにしても圧巻だな、レベル9999の鉄の剣10本てさ、1本でも欲しいくらいだけどさ、今の装備に満足してんだよね」


「それは僕も同じです、姉ちゃんは欲張りすぎなんですよ」


「皆静かにしてくれ」


 ルウガサーが神経を集中させている。


「魔王ルウガサーにはダンジョンコアがある。ダンジョンコアが破壊されなければ、ダンジョンが破壊されても再び創造する事が出来る。しかしダンジョンボスにはダンジョンが必用で強制的に生成されてしまう訳だ。ダンジョンボスはダンジョン内に多種多様な生贄を元にモンスターや建造物を創造させる事が出来る。生贄はレベルが高い程驚異的な物になる。今回の件がいい例だ。レベル9999の武器を生贄にした場合、レベル8000のモンスターが召喚される。そしてそのモンスターは魔王に忠誠を誓う。魔王のレベルが100だとしてもだ。さて、ルウガサーよどこまでいけるかな」


「あのー幸運の女神さん話長いです」


 青い鱗を光らせながらゲニーが呟く。


「ふ、すまないな、そうだ。わたしは今日からチャクターと名乗ろう」


「そうか、俺はオメガだ改めてよろしくなチャクター」


「だから静かにしてくれ」


 ルウガサーが全神経を集中させながら、レベル9999の鉄の剣に触れた。

 10本とも粉砕され100体のモンスターが魔法陣から出現する。


 巨大な洞窟、それは果てしなくでかい洞窟。

 洞窟を破壊してモンスターのレベル上げをする必要はない。

 いわばレベル8000のモンスターと共存するのだ。


 召喚されたモンスターは。


【ソードドラゴン:レベル8000×100体】


 体のあちこちから剣が突き出ている。

 鉄の剣だという事は理解できる。その大きさに絶句するしかない。

 洞窟はいわば一つの国が収まるレベルの広さ。

 建物に例えるならば10階建ての建造物に比類し、湖で例えれば人間が1年飲み水として使用しても生きていけるレベルの大きさという事だ。


 ぎょろりとこちらを見て、次にルウガサーを見るソードドラゴン。

 彼等は頭を下げてルウガサーに敬意を示す。


「はは、これは倒すの無理だね、一撃なんてくらわしてもこっち死ぬだろうし」


 ゲニーが臆病風に触れながら呟き。


「さっそく1体につき10本の剣を破壊していいそうだ」


「それにしても交渉が速いな」


 オメガがさらりと尋ねると。


「そうだな、創造する時に仲間と自分のレベリングをしたいと願った。伝わったそうだ。まぁモンスターと会話できるのは私くらいだろうがな、ダンジョンボスの特権だ」


「さて、この場にいる4名と1名、まだ名前の決まっていない傭兵団のレベリングの始まりだ!」

 

 オメガの叫び声とともに、各自それぞれの攻撃でもってソードドラゴンの鱗の代わりに突き出た剣を破壊し始めた。これが鉄でよかったと思った。


 下手してダイヤモンドの剣とかつくったらダイヤドラゴンとかになってたのかなと、オメガは震えが止まらなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る