第3話 人間狩り

 リザードマンの村に皇帝陛下の配下達の人間が大勢いた。 

 現在時刻は夜中、大きなお月様が支配する世界で1人のドワーフが弓を構える。

 人間達は宴のようなものを開いていた。

 どうやらリザードマンの村を制圧した事を喜びあっているようだ。


 その時、1本の矢が巨大な焚火に命中し爆発した。

 辺りは静けさと暗闇に包まれていた。


「敵襲、ぎゃ」


 見張りの兵士が叫ぶ寸前でこと切れていた。

 なぜならドワーフ青年のオメガが高速の剣でためらいなく瞬殺したからだ。

 首がぼとりと落ちて転がっていく。

 暗闇の中の為、人間達は反応出来ない。


「こっちに何かいるぞぎゃ」

「うあああ、亡霊か亡霊なのか、ぎゃ」

「に、にげろおおおお、ぎゃ」


「逃げるな武器を持って戦え、この隊長が皇帝陛下の代わりだと思うがいい」


 1人の隊長の元に兵士達が集まり陣営を組み始める。


 オメガは冷たい眼差しでそれを眺めて、動き出す。

 全身を覆う無敵の鎧。

 銀色に光っているそれは、相手から見たら銀色の小さい死神に見えただろう。


「全身が鎧に包まれているだと」


「それで、あの身のこなしとは」


「おい、お前、今なら頭を下げれば拷問は避けてやろう」


 だがオメガは止まらない。

 人間への憎しみ、そして同胞が次から次へと死んでいく恐怖。

 それをそっくりそのまま返したいからだ。


「いいか、坊主、鎧には隙間っちゅうもんがある。こちらは180名近くの兵士で弓矢を構えると、坊主、お前は死ぬぞ」


 隊長がにんまりと笑う。

 彼は20人殺されている事に気付いているようだ。


「てええぇええええ」


 100本以上の矢がオメガの体目掛けて飛来する。

 それだけの矢なら関節部分に命中して動けなくなるだろう。

 しかし、無敵の鎧は関節部分、隙間の部分、全てに魔法のバリアが張り巡らされており。


 全ての矢を受け切ったオメガはそこに直立不動していた。


「う、そだろ」


 隊長はようやく事の次第を理解した。

 しかし、人間とは失敗しても何度でも試したくなる生き物。


「次の矢を放てー」


 また100本以上の矢が飛来する。

 その度に、オメガの体に矢が当たる音が響く。

 オメガは背中にある弓を構える。

 全身に矢が未だに飛来しているのにも関わらず。


 自分が創造した矢。

 それは盛大に爆発する矢だった。


 呼吸と共に、空気を吐き出す。


「はん、ばかめ、矢1本でどうにかなる問題でもなかろうよ」


 人間の隊長がにんまりと笑う。

 次の瞬間、矢は爆速の如く飛来し、隊長の頬をかすめ、その後ろにいる兵士達100名を吹き飛ばした。


 爆発は家5軒は吹き飛ばす勢いで炎を巻き上げる。


「ま、じかよ」


 隊長は唖然としている。


 その破壊した建物から2名のリザードマンが現れる。


「うっひょーすごいねーあんな爆発見た事ねーよ」


「ね、姉ちゃん、こわいよおおおおお」


「そんな事いってボマースキル発動してんでしょ」


「怖いから、動く、基本だけよねえちゃん」


「そこのあんた、ドワーフかな? 力かしてくんねーかい、いや力貸してやんよ」


 オメガはにんまりと笑い。

 赤い鱗のリザードマンを鑑定した。

 名前はガニーでスキルは調合とボマー。

 青い鱗のリザードマンを鑑定した。

 名前はゲニーでスキルは投擲とボマー。


 残った30名の兵士がこちらに武器を構えて向かってくる。

 2人のリザードマンの方角には50人向かっていく。

 一方で隊長は必至で叫び声を上げて指示を下している。


 オメガの精神で色々な事が起きようとしている。 

 その感覚はスローモーションのようになっていくし、それはレベルアップを意味していた。

 現在オメガのレベルは60になろうとしていた。


 全身のステータスが向上した事を確認できる。


 そんな確認をしていると、眼の前で爆発が起きた。

 人間の兵士が面白いように吹き飛んでいく。


「ねえええちゃあああああんん、爆弾なげるよおおお」


「おうよ、これもつくったぜ」


 姉のガニーが作り、ゲニーが投げる。最高のコンビネーションだった。

 爆弾の塊はとてつもない威力で投擲され、爆発する。

 下手したら投げた爆弾だけで貫通してもおかしくない。


 そんな魅力的な光景を見て、ぜひ傭兵団に加えたいと思った。


「そんな事を考えている場合ではないな」


 四方に30名の人間の兵士によって囲まれる。


 高速の剣を構え、ゆっくりと歩き出す。

 兵士が武器を構えて、奇声をあげて、剣を振り落とす。

 バキンと嫌な音を立てて、剣が折れる。高速の剣が飛来した時には10回連撃され、兵士の体は斬り刻まれて絶命した。


 その行程を何度も何度も繰り返す。

 残った兵士は2名だけ。


「た、たすけてくれ、に、にげるぞ」


「き、聞いてないよ、武器が効かないよ」


 オメガはゆっくりと近づく、そして剣を振り上げザシュと振り落とす。 

 兵士の死体が1体転がる。

 最後の一人は泣き叫びながら足を引きずって逃げていく。


「おいおい、どこに逃げるんだい、あたしらリザードマンはお怒りよー」

「ねええちゃああああんん、そいつ僕がやっていいい?」


「ああ、いいさ、それでいいね、ドワーフ君」


「ああ、もちろんだ」


「た、たのむ、家族がいるんだ。頼むよ」


「いっせーのーでええええ」


 ゲニーは爆弾を顔面目掛けて投擲した。

 爆発した時には、そこに兵士の姿はなくなっていた。


「さて、あの隊長だな」


 オメガがそう呟くと、既に隊長の姿はなくなっていた。

 どうやら高速で逃げてしまったようだ。

 

「大丈夫、僕の爆弾投擲は追跡爆弾も出来るんだよ」


 ゲニーが怯えを失くして、爆弾の塊を握りしめると、思いっきり投擲した。

 爆弾は何かを追いかけるようにいなくなった。

 しばらくして、近くの森から爆発が轟いた。

 確かに隊長の悲鳴が聞こえた気がした。


「感謝するよ、ドワーフ、みんなでてらっしゃい」


 ガニーがそう叫ぶと、1人また1人とリザードマンが出てくる。

 彼等はそれぞれ怯えながらこちらを見ていた。

 オメガは顔を覆うフルフェイスの部分を解除すると。 

 リザードマン達はほっとしたようだ。

 1人のお爺さんのリザードマンが出てくる。


「村を代表して感謝しよう、食べ物は人間達に奪われてしまったが、これから魚でも釣るとしよう」


「そうですか、実はドワーフ村でも同じような事が起きています。この辺りを支配して守っていたドワーフ王国が落ちたせいでもありますが」


「そうじゃのう、ドワーフ王国の危機じゃから、わしらも動かねばならぬが」


「それなら、あたしたちが動けばいいでしょ」


「ねええちゃああんん、怖い事いわないでよおおお」


「そうじゃ、この村で最強と名高いボマー姉弟なら手配できるぞ」


 オメガは頷き。


「傭兵団を設立したくて、お二人にはぜひ来てほしいのです」


「ほう、それはおもしろそうじゃないのさ」


「ねえちゃあああんん、余計な事言わないでええええ」


「では、俺達は失礼するよ、あまり時間もないんでな」


「せめて名前を教えてくれんか、この村の命の恩人様じゃ」


「オメガ、そういう名前だ」


「はい、この心臓に刻みました」


 長老は大きな槍を構えて会釈した。

 1人また1人とリザードマンが頭を下げてくる。

 背丈の小さいドワーフ、その後ろに長身の赤い鱗のリザードマンと青い鱗のリザードマンがるんるんと付き従っていた。

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