第21話
校舎のカザミドリが、
いつも以上に強く風が吹いて
勢いを増していた。
お昼休みのチャイムが鳴った。
授業を終えた生徒たちが、
一目散に購買部に
駆け出している。
教室のあちらこちらの引き戸が、
大きな音を立てて
開いていく。
雪菜はようやく松葉杖から解放されて、
健康的な日常を取り戻していた。
机の脇にかけていたバックの中から
長財布を取り出した。
「雪菜、今日購買部行くの?」
緋奈子が声をかけた。
「うん。久しぶりにパンでも
買おうかなって。
お弁当今日、持ってきて無いから。」
「雪菜の好きなパンは人気だから
難しいかもよ?」
2人は廊下で話しながら、購買部へ行く。
その声を座席で聞き耳を立てながら、
聞いていたのは凛汰郎だった。
(俺も、購買でも行こうかな。)
バックから財布を取り出す。
「ねぇねぇ、凛汰郎くん。」
クラスメイトの伊藤あゆみに声を
かけられた。
「ごめんね、初めて話しかけるんだけど、
君の家ってお花屋さん?」
「え…。」
「先週の土曜日に母と一緒に花、
買いに行ったとき、
直接話してなかったけど、
ちょうど君が部活から
帰ってくるところ見かけたの。」
後ろ頭をガリガリとかいて、
照れ臭そうに話す。
「あー。うん。そうだけど。」
「え!? マジで?!」
その話を聞いていたのは2年の
斎藤雅俊だった。
コンビニで飲み物を買った以来
犬猿の仲だった。
「お前のうち、花屋なの?」
「……。」
突然、後輩が先輩の教室に入ってきて、
話に割ってくる神経が
気に入らない凛汰郎はだんまりを続けた。
「なるほど~。」
雅俊は、雪菜の机に寄りかかって
顎に指をつけた。
「だから、あの花…。
だよな、急に、男が花を持って
行ったらキモイよなぁ。
花屋って聞いて安心したわ。」
独り言のようにぶつぶつという雅俊。
隣にいた伊藤あゆみも反応する。
「斎藤くん、急にどうしたん?」
「え、伊藤さん。この人知ってるの?」
凛汰郎は、指をさしていう。
「えっと、元部活で一緒だったのよ。
中学の時、同じ学校で。
先輩、後輩。」
「伊藤先輩こそ、
ここのクラスだったんっすね。
知りませんでしたよ。
今日は、雪菜に会いに来たんですけど、
いないっすね。
購買でも行ったのかな。」
窓際に駆け寄って、外を眺める。
「…というか、あんた、送ってもない花で
名前、名乗っただろ。」
「あ…。やっぱり、
あれ、先輩だったっすね。
ここでバラすんですか?
本人いないけど、大丈夫です?」
「俺じゃない。」
「またまた強がっちゃって…。
でも、俺の性格では
あんなことしないかな。
なんとなく、陰キャラが
しそうかなぁって…。
黙っておくってことは俺しないし。」
喧嘩を売るように話す雅俊の頬に
強烈なパンチが入った。
罰悪くその良くないシーンで、
雪菜が緋奈子とともに
購買で買ってきたビニール袋を持って、
教室出入り口で
目撃していた。
「は? なにすんだよ!?」
雪菜が来てるとは知らずに
乱闘騒ぎになる。
横では伊藤あゆみが雅俊をとめて、
その隣では凛汰郎の両腕をおさえる
五十嵐竜次がいた。
慌てて、雪菜がもめている中の間に
入った。
「ちょっと2人とも、やめて。
原因は一体何なの?」
息が上がって、両者とも頬は赤くなる。
お互いに黙ったまま、何も言わない。
「そうやって、黙るの良くないと
思うんだけど…。」
「……さっき聞いてた話では、
花がどうたらこうたら
言ってたよ。」
伊藤あゆみが声を出した。
「花?何のことだろう。」
「凛汰郎の家が花屋なんだってさ。」
竜次が興奮した凛汰郎をなだめながら
いう。
「え……。」
なんとなく、花と聞いて思い出すのは、
雪菜が入院していた時にもらった
お見舞いの花束。
雅俊から受け取ったはずだけども、
この2人が殴り合う
ということは何かがおかしいと察した。
「もしかして、入院中に届けてくれた花って
雅俊じゃなくて、凛汰郎くんなのかな?」
2人とも何も言えずにずっと黙っている。
いたたまれなくなって、
凛汰郎は廊下に飛び出していった。
「雅俊、嘘ついていたの?」
「そんなの知らねぇよ。」
そう吐き出すと教室を出て行った。
クラスメイトたちは、なんだか
もやもやした空気の中、
それぞれの座席に着席した。
「雪菜、モテモテだねぇ。」
「そんなじゃないでしょう、別に。」
「え、付き合ってないの?」
「えーだって、誰と?」
「雅俊くんとじゃないの?」
雪菜はまさかと首を横に振った。
「幼馴染だよ。近所だし。」
「あ、わかった。んじゃ、凛汰郎くんと?」
「ブッブー。部活が一緒ってだけ。
違います。」
(そうなれたらいいなぁとは思うけど、
緋奈子には
まだ黙っておこう。)
「もう、高校生活あと少しで終わるんだから、
恋の1つや2つ、進展させてみようよ。」
「努力します!」
雪菜は机に両手をついて、軽く緋奈子にお辞儀をした。
購買部で買ってきた大きいパンを
大きな口を開けて
ほおばった。
コーヒー牛乳がのどを潤した。
まさか、雅俊と凛汰郎が乱闘するとは
思わなかった。
なんとなく、教室を飛び出した
凛汰郎が気になって、
パンを食べ終えると、
凛汰郎の後を追いかけた。
昼休みの廊下は生徒たちの会話で
ざわついていた。
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