第28話

 俺が異世界へ転移して、一年が過ぎた。

 俺の転移した世界は、地球の(近代)ヨーロッパ諸国に似ていた。

 一時期は剣と魔法のファンタジーな世界だった痕跡はあるのだが、科学技術の発展や資本主義の台頭等の理由で王権が著しく衰退していた。

 また新興貴族と旧貴族のあいだで利権争いが激化しており、その利権争いを利用した平民(富裕層と呼ばれる者達)も台頭して、王国は混沌とした状態が続いている。


 そんな王国の片隅で、俺は喫茶店を開いていた。


 だってぇ。

 王国の外には魔物も生息しているし、冒険者みたいな仕事もあるけど、わざわざ危険な場所に行きたくないやん?

 きょわくない?


 それより舌の肥えた富裕層の奥様方やお嬢様方に美味しい紅茶を飲んで貰って、きゃっきゃウフフした後にチャリンチャリンとお金を落としてもらった方が稼ぎがええんや。


 ゴブリン君やホーンラビット君の命を無意味に奪ってドロップした魔石なんか、ギルドで換金してもパン一個買えるくらいのお金にしかならない。

 ううっ、切なすぎりゅ。


 それに比べて、富裕層の方々のチップは破格なんや。

 この前は、ついに茶園を購入出来ましたんや。


 オホホホ。


 こうして、俺は富裕層Sugeeeをしながら、着実に成金の道を歩んでいた。


 そんな、ある日――隣国の聖女様が国王様に謁見するらしく、今王国に滞在しているらしいと奥様方やお嬢様方から教えていただいた。


 なんかもー、この世のモノとは思えないような美しさらしくて、と皆様、はしゃいでいらっしゃる。


 まさにモデルさんや女優さんにきゃっきゃするJKのノリ、それだった。


 そんな感じで、王国中で歓迎するらしく、街中がどこかお祭りムードだった。

 


 ――俺氏も聖女様をイメージした紅茶を出してみようか?



 ――まだ、見たことはないけど、そんなに美しい聖女様なら春らしい花々を用いたフレーバーティーはどうだろう?


 

 ――そんなことを考えながら看板を仕舞う為に外へ出た。



 夕方と夜の間の空は綺麗だ。

 薄い紫色のカーテンに星々が煌めく。

 しばらくそれを眺めていた。

 その時だった――。





「……柏田君?」





 それは、酷く懐かしい声だった。

 俺は急いで、振り返る――。





「何て、顔をしているのよ……?」





 それは君も――。





 同じじゃないか?と思わず言いそうになった。





 でも、そんなことよりも。





 俺は途端に途方へ暮れてしまう。





 また、コアラ女に会えたことがこんなにも嬉しいなんて――思わなかったから。

 



 ◇




 ここまで読んでいただいた皆様へ。

 気が早いですが、ありがとうございました。

 応援や評価がとても励みになりました。

 あとはエピローグを残すのみとなりました。

 おまけ(新しく追加)ももしかしたら描くかもですが……。

 もし、宜しければ(お暇つぶしにでも)もう暫くお付き合いください。



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