【完結】ツンデレな彼女を助けたら、その日を境に仲良くなった件～今のこの関係を何と呼ぶのか～

第1話 振られて終わりじゃない

　この学校には勉強、スポーツと何でもできる完璧美少女、唯川綾乃（ゆいかわあやの）がいる。

　彼女は学年１モテていた。だが、未だ告白が成功した者はいない。告白した者は皆、なぜか物凄く、暗い顔で帰ってくる。

　まぁ、告白して振られたから暗くなるのはわかるが普通じゃない様子で帰ってくる。　

　ある告白をした男子が告白後、こう言っていた。唯川綾乃は見ているだけでいいと。

　一体、何があったのかわからないが、俺は、その人が唯川のことをきっぱりと諦めたんだろうと思っていた。

　俺、橘良太（たちばなりょうた）も唯川綾乃に好意を寄せている。

　振られてもいい。だからこの思いを伝えようと決意し、俺は今、彼女を人がいない空き教室の前の廊下に呼び出し、告白しようとしている。

(や、やばっ、すっごい緊張してきた)

　告白されたことはあるが自分が告白したことはない。

　呼び出した時も緊張して、声が上ずったし、この状態でちゃんと気持ちが伝えられるか心配だ。

　しばらく待っていると足音が聞こえてきた。後ろを振り返るとそこには唯川がいた。

「橘良太だっけ？」

「あっ、うん」

(えっ、認知されてる……呼び捨てだけど)

　同じクラスになったことも関わりもなかった俺だが、認知されている嬉しさ半分、何で知っているんだろうという不思議半分でいた。

「名前、教えたことあったっけ？」

「名乗らなくてもあなた、この学校じゃ有名じゃない。女子にモテてるようだし」

　俺がモテてる？　確かに告白されることはあるけど、そう思ったことはない。

　きょとんとした俺の反応に唯川は、はぁ～とため息をついた。

「時間ないの。何かあるなら早く用件言ってくれる？」

　せ、急かされた！？　何これ、告白ってもっと甘い空気が流れた中でやるもんじゃないの？　相手、すっごい顔して待ってるんですけど……。

「あっ、うん。ごめん、忙しいのに呼び出して」

　告白ってこんなに急かされるものなのだろうか。今から好きって伝えるはずが急かされたせいで頭が真っ白になりそうだ。

　俺はそうならないためにも一度深呼吸し、伝えたい言葉を言うことにした。

「唯川さん、俺はあなたのことが好きです」

「話したこともない人とは付き合えません」

　告白から数秒。返事はすぐに返ってきた。返事をした唯川は用が済んだと判断し、この場から立ち去っていった。

　こうして俺の初恋は終わった。振られた原因を考えたりしたが、考えたところで未来が変わるわけではない。

「どうしたの？」

　教室に戻ってくるとショートカットの髪の少女、神楽紬（かぐらつむぎ）が俺の顔を覗き込んだ。

「ちょっとな。今はそっとしておいてくれ……」

「う、うん……。ねぇ、空、良太に何かあったの？」

　紬の隣にいた友人の和泉空（いずみそら）にそう尋ねるが、空は知らないと答える。

　ちなみに紬と空は付き合っているラブラブなカップルだ。俺が唯川のことが好きだと２人は、知っていて、応援してくれたからこそ振られたとは言いにくい。

「あっ、わかった……」

　中学からの付き合いである空は何があったのか察して、俺の肩を優しく叩いた。

「よし、今日は帰りにカラオケ行こうぜ。で、暗い気持ちをパッと晴らそう」

「わ～カラオケ！　行こうよ！」

　カラオケか……行ったら少しは気持ちが明るくなるだろうか。

「俺と紬は行くけど良太はどうする？」

　無理やり誘うことはせず空は俺に優しく尋ねる。

「俺は────」

＊＊＊

　楽しかった。こういう時、空や紬という大切な友達がいてくれて本当に良かったと思う。

　今日こうしてカラオケに誘ってもらってなかったら俺は部屋に引きこもって意味のないことを考えていただろう。

　何か２人にはお礼をしないとな。この前、クッキー作ったら美味しいって言ってくれたし、また作って渡すのもありだな。

　スーパーに寄ってクッキーを作るのに必要な材料を買おうと思ったその時、見覚えのある人を見かけた。

　セミロングの綺麗な髪にスラッとしたスタイル。そして目立つ赤リボンに自分が通う制服を着る少女。間違いなく唯川だ。

　振られてから会うのは気まずいと思い、スーパーに行くのを諦めたが、俺はあることに気付いた。

(あれ、危ないやつじゃ……)

「少しだけでも付き合ってよ」

「い、嫌です……」

「ほんの少しだから」

　若い男の人２人に囲まれて唯川は困っていた。強気で言葉を返すが、絶対に怖いはずだ。

　俺は気まずいとか関係なしに彼女を助けないとと思い、唯川のところへ行った。

「彼女、嫌って言ってますけど、しつこくないですか？」

「はぁ？　誰だよお前」

　ここで友達と言ってもまだ相手は引き下がらないだろうしここは──────

「彼氏です」　　

「えっ、ちょ───」

　唯川は何言ってるのとかそういうことを言いそうだったので伝わるかわからないが目で合図した。

「待たせてごめんな、綾乃」

　そう言うと彼女は察してくれたのか演技をする。

「……もう待ちくたびれたわよ、良太。あら、あなた達、私達に何の用かしら？」

　笑っていない怖いスマイルで唯川は若い男２人に問いかけた。

「ひぇ！　す、すみませんでした！！」

　唯川の表情にビビったのか若い男達は帰っていった。

(ふぅ～なんとか……)

　唯川に大丈夫だったかと聞こうとしたが、その時、唯川がふらついていたので肩を持って何とか支えた。

「大丈夫か？」

「こ、怖かった……」

　そうだろうな。男2人に囲まれていたんだ、怖くないわけない。

　唯川は、俺に抱きつきしばらく動かない。怖いのはわかるが、周囲の視線が集まっていることを彼女は気付いて───いや、ないなこれ。

「ゆ、唯川さん……いつまでこうしてる？」

「っ！　ご、ごめんなさい。何だか安心して……」

　唯川は、ハッと我に返り、俺から離れた。

「謝らなくても。怖かったよな」

　俺はそう言って唯川の頭を優しく撫でると彼女は顔を赤くして首を横に振る。

「こ、怖くなかったわよ……」

「さっき言ってたことと矛盾してるけど……。大丈夫みたいだし、俺は───」

「ま、待って……」

　ここから立ち去ろうとしたその時、唯川は俺のことを引き止めた。

「どうした？」

「さっきは……た、助けてくれてありがと」

　この時、俺は、君を好きでいることを簡単には諦められないなと思った。