第5話 第二生活エリア

 「し、シノアさん。そろそろ着替えませんか......?」


 私はシノアさんに恐れながらそう言う。


 「......うん、わかった。着替えよ......えへへ、モエちゃんの着替え姿を間近で眺めることが  

 できる...!」


 シノアさんはボソボソと独り言を呟きながら不敵な笑顔をしている。その不敵な笑顔から熱っぽい視線を感じる。


 「あ、あのどうして熱っぽい視線を向けてくるんですか......?」


 「モエちゃん。着替えよ?」


 私がそう聞いた瞬間、シノアさんの竜胆色の瞳から光がなくなっており、ただただ恐怖を感じた。そのため、私は急いで着替えを始めた。



 私は着ている服を脱ぎ、ワイシャツの袖に腕を通す。もう片方の袖にも腕を通し、ボタンを締める。

 ボタンを締めている際中、後ろからくる視線が痛かった。


 私とシノアさんは制服に着替え終える。初めて二年生の制服を着るので少し手間取ってしまった。二年生になると制服が変わる。色だけでなく、制服自体が変わる。全体的な色合いが黒色で統一され、また制服自体が軍服ワンピースに近いデザインになっている。それに加え、二年生から制帽を被ることも決まっている。

 そのため、一年生のときに比べ身に付ける量が増えているのだ。しかし、基本的に持ち物は銃以外持つ物がないので多少なりには楽になっている。


 玄関の扉を開け外に出ると目の前には見たことのない光景が広がっていた。戦車が轟音を立てながら道路の上を走っていたり銃を担いで歩いている生徒。全てが目新しく驚きを隠せない。


 「こ、ここって......」


 「ここはニ年生と三年生しか立ち入ることが出来ない特別エリアだよ」


 シノアさんの言葉を聞いて思い出す。この学校では主に五つのエリアが存在している。一つが一年生が過ごしている第一教育エリア、もう一つが今いるこの第二生活エリアである。

 この生活エリアでは主に訓練を行う。教育は基本的に一年生のうちに終わってしまう。そのため二年生からはほとんど訓練しかしない。


 「も、もしかして訓練しに行くんですか......?」


 「ううん、訓練は色々物を受け取りに行ってから。だから今日は色々と必要なものを貰い

 に行くんだよ」


 シノアさんはそう言うと私の手を握り、歩き始めた。自然と手を握ってくるあたり生きてる世界が違うんだなと少し頭の中で思う。

 そんなことを考えながら周りを見渡す。周りには同じ制服を着た人たちがいる。いつもと違う光景に少し違和感を感じる。大人たちの心の闇を感じない。ドロドロとした社会の闇を感じない。だけどここは暗闇でもあり闇だ。だけど、通り過ぎる人の顔や目には光がある。私なんかと違い、夢があり希望がある。戦争の恐怖を知らない、絶望を知らないこの人たちにはきっと理解できない。この世界の闇を。


 「モエちゃん。着いたよ」


 気がつくと目の前には体育館と思わしき建物があった。私とシノアさんは中に入り、入口近くの受付の方に行った。


 「新二年生のシノアとモエです。支給品を取りにきました」


 シノアさんがそう言うと受付の方から鍵を渡される。シノアさんはお礼を言うと前へと歩いていったので私もお礼をし、シノアさんの後ろをついていった。

 建物の中は至って変なところはあらず、普通の体育館と一緒だ。しかし、他の学校の体育館と違い、ここには武器が収納されている場所がある。


 「えっと、これかな......」


 シノアさんはロッカーの鍵穴に鍵を差し込み、ロッカーを開ける。

 すると中には小銃が二丁入っていた。


 「はい、これモエちゃんの」



 私は銃を渡される。少し重いが、シノアさんと比べればそこまででもない。

 配られる銃自体は至って普通の銃と変わらない見た目をしている。しかし、銃弾を撃つときは少し違う。実弾ではなくそれに似た弾を使って銃を使う。その弾は使う人によって弾が変化する極めて特殊な弾。そのため、実弾を使うよりも有効性が高く、そして実弾より殺傷能力が低いことから実弾は普段使われていない。また実弾を使うことは禁止とされている。


 を除いては。



 「し、シノアさん......こ、この後は何をするんですか......?」


 私とシノアさんは銃を肩に背負い、歩いている。


 「次は訓練場に行こっか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る