第3話 後輩の恋愛事情


「立花ぁぁ」

「はいっ」

「だから資料作り舐めてんのかって毎回言ってるよな」

「ごめんなさいっ!」


 今日も今日とても営業所内にハルさんの怒号が響く。

 ああ、平和だなぁ。


「佐藤さんいつも元気だよなぁ」

「今日にどした?」


 相方の田中がハルさんを見て羨ましそうにそう言った。


「いやさ悩みとかないのかなって」

「あるでしょそりゃ」

「でも全然悩みがありそうに見えなくてさ」

「あー、まぁそれは隠してるだけとか?」

「よく隠せるな」

「まぁ彼女も大人ですからね」


 そう彼女は大人だ、外ではその可愛げな容姿をとは反対に鬼のような形相を保ち、同僚や後輩から恐れられているが、一度家に帰ればその鬼のような面は封印され残った可愛げにドジっ子が追加される。

 そうこれが大人である。

 ま、彼氏としてはそのギャップが面白いんだけどね。


「大人ねぇ、つか今日のお昼どうする、蓮は今日も弁当か?」

「ああ節約のために弁当だ!」

「よく作れるよな、お前」

「ああ、毎朝の早起きは堪えるがな」

「すげぇ」


 俺は欠伸をしながら田中にそう言った。

 まぁ嘘なんだけどね、作ってるのは俺じゃなくてハルさんなわけだし。

 カモフラージュのためお弁当は自分で作っていることにしている。


「ま、というわけで今日もまた1人で食べてくれ田中くん」

「なんだよその言い方、それなら俺も今度から弁当作ろうかな」

「はは、頑張れ〜」


 そんなこんなで広場へ出てきた。

 ハルさんと一緒に食べたいところだが、職場には俺とハルさんが付き合ってることは内緒なのでここは大人しく1人で食べるしかない。

 はぁ2人で食べたかったなぁ。



「あ、せんぱーい!」

「おお宮下」


 広場へ行くと後輩の宮下がいた。

 そういやこいつこの前は女の子2人に囲まれてたよな、モテるねー。


「なんすか今日も愛妻弁当すか」

「その言い方やめろよ〜」


 そう言って俺は宮下の肩を小突いた。


「うわぁ、のろけてきたー」

「うるせ」


 冷静に考えてもう付き合ってから一年くらい経つのに他人に惚気って言われる俺ってちょっとキモくないか。

 まぁ大丈夫か、俺まだ26だし。

 いや26って結構おっさん……考えるのやめよ。


「ていうか宮下今日は1人か?」

「はい、てか基本1人っすよ」

「え、だってこの前は女子2人に囲まれてたじゃん」

「あー、あの2人っすね、あれは色々あって離れちゃいました」

「ほう」


 宮下は男の俺が言うのもあれだが、顔はめっちゃかっこいい、綺麗な肌に形の良い鼻そしてなにより目がかっこいい。

 あー、こいつモテるんだろうなぁ。

 ま、羨ましくなんてないけど。


「あ、その感じだとなんか疑ってますね、ほんとに色々あったんですって、つか俺好きな子他にいるし」

「え、マジかよ」

「はい」


 宮下の好きな人……気になる。

 

「ちょっと確認だけど佐藤さんじゃないよな?」

「え、佐藤先輩ですか?いやいやあの人はないでしょ、顔は可愛いけどいつも怒ってるし仕事に厳しいし、そして何より……」

「なにより?」

「彼氏いそう」


 そう言って宮下は俺の顔を覗き込むようにして見てきた。

 おいおいこの子勘が良すぎやしないか。

 これは早めに消しておかねば……というかさ。


「ふーんなるほどな、てかさ佐藤さんそんなこわくないぞ、基本仕事に真面目なだけで本心はもっと優しいし」

「へぇ、詳しいっすね」


 ま、まずい、フォロー入れちゃったよ。

 このままだと宮下に気づかれてしまう、いやもしかしてもう遅いか?

 とりあえず話を逸らそう。


「ま、まぁこの話はこの辺にして、好きな人って誰だよ?」

「えー気になるなー、ま、いいっすけど、俺の好きな人は山下さんです」

「え、マジ?あの山下さんってあの山下さん?」

「あの山下さんって、山下さんは1人しかいないでしょ」


 山下さんこと山下雪は俺も知ってる。

 地味めでいつも営業所の端っこで静かに仕事をしてる人で、飲み会とかも端っこで、お昼も営業所の端っこで食べてる。

 言っちゃなんだが、宮下とはとてもじゃないけど合わなそうなタイプな気がするけどなぁ。

 

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