王様ゲームで恋が始まる百合
川木
王様の命令は
「じゃあ一番と二番がキス」
「えっ、ちょ、ちょっと。いきなり飛ばしすぎじゃない?」
「王様の命令はー?」
「絶対ー、だけども! ナナも何とか言ってよ」
大学生になりそれなりに飲み会を経験したりもしたけど、王様ゲームってしたことないよね。という話題がでたことで私の部屋で女三人で集まっている飲み会で王様ゲームをすることになった。それは全然問題ないけど、この三人しかいないメンバーでそんな命令あり?
私はとんでもない命令をしてきた幼馴染のモコをにらみながら、大学で出会った新たな友人のナナにそう声をかけた。
「ん、王様の命令は絶対、でしょ?」
「え」
従順すぎる。ナナは小柄で高校生といわれても違和感のない、黒髪ショートカットのお人形のような子だ。性格も静かで声を荒げるのをみたことがない、落ち着いたところもちょいちょいぼーっと空を見てたりするところも人形っぽい、そんなちょっと変わった子だ。だけどさすがに動揺しなさすぎでは?
「いーじゃん、ていうかミミ、キスしなかったらなんの命令だと思ってたわけ? キスするくらいいいでしょ」
キスするくらいとな! こいつ、自分がちょっとモテて中学の時から恋人が途切れたことがないからって調子にのりやがって。どうせ私はキスだって初めてだよ!
「ミミ、こっち向いて」
「ひぇっ、な、なな、わっ」
モコをにらんでいると、ナナが私の肩をぽんと叩いてきて、振り向くとめっちゃ近くて思わず引いてしまって、肘が机にぶつかってしまう。既に大学に入って二年。一人暮らし歴二年であり慣れ親しんだ配置なのにこんな凡ミスをするとは。
「大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だけど。ごめん。こぼれたりしてない?」
「だいじょぶだいじょぶ。それよりはよ、キース! キース!」
慌てて机の上を見るけど大丈夫だ。小さい机にそれぞれクッションを引いて床に座っている状態なので、多少の力で結構机が動いてしまうのだけど無事だったらしい。それはいいけど手拍子まで煽りだすモコにイラっとしたけど、ナナがずいっとおしりをずらして私の横にやってきてそれどころではなくなってしまう。
「ミミ、私とキスするの、嫌?」
「い、嫌とかじゃないけど」
「じゃ、する」
「あ……」
私の頬に手をあてて顔をあげさせたナナは上体ごと寄ってきて、ナナの顔がアップになる。いつもと変わらない無表情に近い顔。だけどそれを恐いと感じさせない愛らしい顔立ちが、ゆっくり近づいてきた。その目の圧に負けるように目を閉じた私に、ふっと軽く当たるようにキスがされた。
一瞬だけ触れたのが離れて、とっさに目を開けるとすぐそこにナナの顔があって、まつ毛の先まで見える距離で、キスした実感がわいてくる。キスって、こんな感じなんだ。柔らかくて、ナナの唇ぷるぷるで気持ちいい。一瞬でよくわからなかったからもうちょっと、って、何考えてるの私!
「も、もういいでしょ、もー、ナナはほんと、真面目だなぁ」
「ん。王様の言うことは絶対」
「んふふ。いいぞー! 次はもっと派手なやつね。じゃあ次の王様いくよー」
「はぁ? もう勝ったつもりなの!? 次は私が命令してやるんだから!」
「ん、次は私」
私一人ドキドキしてるのも悔しいので平静を装いつつ、私はモコに目にもの見せるため王様ゲームに本気を出すことにした。といっても割り箸を最初に選んでも確率は三分の一。むむむ。
どちらにしようかな、と選んで勢いよく選んだそれには、王様の目印が!
「っ、よっしゃ! じゃあモコが」
「ちょいちょい、なに名前で指名してんの。数字で誰かわからない人にだすのがいいんでしょーが」
「う」
そうだった。でも、それだとモコへの仕返しと思ってスクワット30回と思ったけど、さすがにナナにはかわいそう。うーん。……でもナナもゲームで私のファーストキス奪ったわけだし?
「じゃあ、2番が今飲んでるやつ一気で」
「お、いいねー。私をつぶしてお持ち帰りする気ね!?」
「私の家なんだけど。で、どっちが二番?」
「私」
「残念だったねー、ミミ。んじゃ、ナナ、いくよー、ナナちゃんの、ちょっといいとこみてみたい、そーれいっき! いっき!」
「ん!」
ナナは私にキスをしたことを微塵も気にしていないようで、平然とした顔で立ち上がってコールに合わせて勢いよく飲み干した。そういえばナナってお酒つぶれてるの見たことないけど強いのかな。普段人の飲む量まで気にしてないから考えてなかった。にしてもいい飲みっぷりをみていると、私も飲みたくなってきた。
「はー」
「おっ、ミミもいい飲みっぷりじゃん。めずらしー。じゃ、私も飲みまーす」
つられるように私もコップに口をつけ、つい飲み干してしまった。そんな私を見てモコはにーっと笑うとモコまで一気し始めた。モコは度数強めのお酒だったのに普通に一気するじゃん。
「んじゃー、次ねー」
こうして始まった王様ゲーム、この後腹筋、膝枕、語尾に「にゃ」、背筋、ピーナッツを投げて食べる、あーんして食べさせる、スクワット、一気飲み、正座10分、バックハグ、壁ドンして口説き文句を言う、とあれこれと思いつくままやらせたりやらされたりした。
想定以上にモコが王様ゲームなれ、というかいかにも合コンちっくなカップルにさせようとするかのような命令をしてくるけど、最初がアクセル全開すぎたので流れで全部楽しんだ。というかその命令するのモコだけだから私とナナばっかりだけど、前から友達だったけど今日でぐっと仲が縮まった気がする。今も抱き心地がいいことに気づいたので膝にのせてるけどナナも抵抗してないし。
「じゃあ次はー、あ、お酒これで最後か、にゃん。ミミ、ちょっと買い出ししてきて、にゃ」
「えー? 私ー?」
まあまだ日付が変わってないし、このままだらだら泊まっていくかーって流れになっている以上、足りないのは間違いない。でも当然のように私に命じられるのはもやるな。と思ってちょっと抵抗すると、モコは最後の空き缶をつぶしてにやにや笑う。
「にゃー。こんな語尾じゃ、外にでれないにゃ」
「ていうか律儀すぎるな。まあ、しゃーないか。じゃ、ナナもきて。一人じゃ寂しいし」
モコが調子にのってするちょっと変な命令でも従うしかないか、となるのは最初のほうの語尾命令をずっと律儀に守ってるからっていうのもある。仕方ないからナナの頭を撫でながらおろしてお願いすると、ナナは少し頬を赤くしているけど酔いを感じさせない足取りですっと立ち上がった。
「ん。行く。ミミのことは私が守る」
「わー、頼もしー」
そしてキメ顔で振り向いてそういった。うーん、可愛い。今日でナナのことがどんどん可愛く見えてるの、なんかモコの王様ゲームにのっかっているようで癪だけど、まあ可愛いからいいか!
「あー、外結構涼しいね。これならクーラーいらなかったかも?」
「ん。帰ったら消す。ミミ、危ないから白線からでない」
「あ、はーい。あはは。ナナ、お姉さんみたいだね」
外に出るとついつい白線を踏んで歩いてしまう。特に今は酔ってるので自然に白線から落ちたら死ぬゲームをはじめてしまった。危ない危ない。ナナにはばれてないよね?
ナナに手を引かれて白線の内側、しかもナナにかばわれるように中にはいってしまった。ナナも飲んでるからか、こうして落ち着いてナナの手を握ると、ナナの体温の高さを意識する。
「ナナ、体温高いね。手が熱いよ」
「ん……平熱高めだから」
「そっかー。ナナ、今日はさー、なんかモコのせいでいっぱいくっついてごめんね。ほんと、いやだったらはっきり言っていいからね」
「嫌じゃない。それに、ミミに謝られることじゃない」
「んー、ならいいけど。まあ、てかそうだね。私とモコ幼馴染だからさ、つい身内感覚で」
今日はまだ可愛いほうだ。モコは明るくてノリがよくて、それが楽しい長所でもあるけど、押しが強くて一歩間違うといじりみたいになっちゃうときもあるから私が間に入ったりとかも結構あったんだよね。どっちが保護者ってこともないけど、まあやっぱ長い付き合いなのでお互いフォローしあうみたいなところはある。
「ん。でも……私にはいい。その、線、ひかれてるみたいだから」
「あっ、ご、ごめんね。そういうつもりじゃなかったんだけど」
つないだ手を振りながら、ナナのいつものぽつぽつしたしゃべり方に寂しさを感じて慌てて謝る。た、確かに言われてみれば。友達同士なのにモコのフォローしたら、こっちが身内でそっちが外、みたいに感じてもおかしくないか。あわわわ、全然そんな意識なかった。
「あの、な、ナナのことはモコより好きだからね」
「ん……」
あ、あ、い、勢いでなんかとんでもないこと言った気がする。やば。いや嘘ではないけど、なんかこうしてると夜道のデートしてるみたいだし、ちょっと告白っぽくない? キスもしたし。いやいや。ちょっと、今日仲良くなったのはあくまで友達としてだし、何をちょっと意識してるんだ。単純か私。
幸い、ナナは相変わらずのクールさで流してくれたので良かったけど、危ないところだった。
コンビニに到着したので誤魔化すように商品を選ぶ。適当な商品を二人であれこれ言いながら購入してると気持ちも少しは落ち着いた。
「にしても、王様ゲームって思ったより盛り上がるね。ナナはどう?」
「ん、楽しい」
「よねー。あー、でもさ、最初のあのキスとか、そう言うのはあんまり、遊びでするのはよくないと思うけど。いや、今回はあれだけど、ナナは可愛いんだし、安売りするのもどうかと言う意味で……えーっと」
ナナは気楽に気軽に私にキスをした。そのことを責めるつもりはないし、確かにそういうゲームだし、ナナがそうしたいならすればいいのだけど、こういうゲームでだれかれ構わずナナがキスをするのだと思うと、なんかちょっと、やめたほうがいいっていうか。絶対勘違い多発するからね。
「ん、大丈夫。安売りはしない」
「え、そ、そう?」
「うん。ミミだから、しただけ」
「えっ、そ……」
それってどういう意味? と尋ねかけて、いや待てよ。私だから、を変にとらえてないか? と自制する。単純に私なら仲いいしキスしても不快感なくてかつ勘違いもされないから、というだけの意味だったら? どういう意味? と尋ねることで逆に変な空気になってしまわない?
だってありえないでしょ、ナナが私を好きなんて。ナナは見た目も可愛いけどそれだけじゃなくて頭もよくて教え上手で、そっけない風にみえて優しくて頼りになる人だ。私は仲良くなってからあれこれ情けないところを見せたり頼ってばかりで、とてもじゃないけど恋愛的に好かれる要素などない。そこまでうぬぼれやさんじゃない。
「そ、っかー。じゃあ大丈夫だねー」
だから言葉を濁してどういう意味でも大丈夫なような無難な相槌をうつにとどめた。危なかった。一歩間違ったらナナとの友情にひびがはいるところだった。
「ん。大丈夫」
よくわからないけどナナの声音もいつも通りだし、どういう意味だとしても大丈夫なんだろう。まあただの友達の私がナナのキスを制限する権利なんてないわけだし、ね。
帰り道は時間もたって酔いがさめたからか、行きよりも涼しく感じられた。
「おかえりー、どだったー? お、期間限定じゃん。あんがとー、にゃん」
「ただいま。もうさすがににゃんいいよ」
「そ? じゃあまずは誰がどれを飲むか、王様ゲームで決めよっか!」
家に戻るとまだまだ元気いっぱいのモコに迎えられ、私は少し冷えた気がした違和感のことは忘れ、飲み会第二ラウンドへと参入した。
机の上に並べたお酒と追加のおつまみをみるとコンビニで一緒にわいわい選んだ楽しい気持ちも復活して、三人であれこれ言いながら選んでまた飲み始める。少し冷めた酔いもまた戻ってきて、私たちは再び王様ゲームに興じた。
「ふわぁ」
「お、あくびじゃん。もうおねむの時間でちゅかー?」
「いや、そんな絡む? もういい時間だしあくびくらいでるでしょ」
「ん。そろそろお開きにする?」
「おっし、じゃー、最後の王様ゲームして締めにしよっか」
私の欠伸をきっかけに何度目かわからない王様ゲームのラストゲームがはじまった。さすがに最初のように負けられるか、という気合もなく、すっと引いたのは一番。王様じゃなかったか。
モコが王様になったら片づけ押しつけられそうでいやだな。とぼんやり考えているとすぐにナナもひき、三人で目をあわせてから声をあげる。
「王様だーれだ」
「私だー!」
「うわ。……はい、王様、命令してください」
「ちょっと眠いからって雑に進行するじゃん、そんなミミには目が覚めるよう、王道中の王道、最後のとっておきの命令をするよ!」
「え、こわ」
「一番と二番が、ポッキィィゲーム! 負けたほうが一人で片づけね!」
えっ。いや、いやまあ、もうキスしちゃってるしね。今更っちゃ今更なんだけども。あ、ナナが普通にポッキィィを開封している。やるき満々じゃん。ナナって地味に勝負系好きだよね。
「んっ」
戸惑っているうちにナナが口に片方をくわえ、先端を私に向けた。しかたないのでそっと加える。
「……」
お、思ったより近いな。いやさっきもっと近かったけど。でも、普通に普段こんなに顔寄せないし。落ち着いてみたらナナってほんとバランスのいい顔だよね。唇もかわいらしい色合いでさ。
ぽり、と音がしてナナが近づいてきた。当たり前だ。ポッキーゲームってそういうゲームだ。そして先にチキンレースに負けて離れてしまったほうが負け。だから勝つためにはすすまなければならない。
「……、」
一口食べ進める。ナナの顔がさらに近くなる。瞬きを見落としようがない距離。少し身じろぎしたら折れてしまいそうで、お互いの唇の力がポッキー越しに伝わってくる。
今度はまたナナがすすんだ。ほんの少しの距離だ。ほんの少し、顔を寄せればキスをしてしまう。ナナと、キスを。さっきした瞬間、一瞬で、全然心の準備なんかできてない受け身のキス、それでも、確かに気持ちよかったな。
そう思いだして体が熱くなる。キスを、したいな。ナナと。誰とでもするのではなく、私だからしてくれたというキス。そんなナナの言葉を受け取ったからこそ、さっきと違って戸惑うばかりじゃなくて、なんというか、キスをしたくなってきた。
「……」
近い。柔らかそう、じゃない。柔らかいんだ。触れたら気持ちいい。それを知っている。私は吸い寄せられるように、最後の一口を食べた。
「ぁ……」
唇がふれあい、キスになる。かすかにあえぐような声をナナがあげたのが予想外であり、だけど拒むように動いたりはせず、ただ静かに私のキスを受け入れてくれた。
ナナの少し熱のある唇。さっき一瞬だったけど、ぐっと押し付けるように合わせると本当にやわらかくてふにふにして、でも跳ね返すような強さもある。体温があがっていく。ずっとそうしていたいくらいだった。
「ん……」
だけど口内にたまっていったお菓子の残骸が唾液を発生させて、それほど長くは耐えられなかった。唇を話してからざくざくとかみ砕いて飲み込む。普通においしい。でもそんなのがどうでもいいくらい、キス、気持ちよかったなぁ。
「……これで、私とミミの勝ち」
そう思いながらぼうっとナナをみていると、少し気恥ずかしそうにしたナナがふっと私から目をそらしてモコを見て言った。
その言葉に、私ははっと正気に戻った。
「うーん。たしかに。でもだからって二人とも勝ちだと私が一人で片づけることになっちゃうじゃん? 王様一人負けとか」
モコが腕を組んで何かを言っているけど頭にはいらない。だって今、完全に勝負のことなんて忘れていた。負けたくないからじゃなく、普通にキスをしたいからしてしまった。
ゲームにかこつけただけで、ただの欲望のまま。これは友達同士としての友情をでている、というか、え、もしかして、あれ、私、ナナのこと好きになっちゃってる?
「ん?」
ナナの顔を凝視してしまう私に気づいたナナは不思議そうに私をみて首をかしげ、その可愛さに私の心臓はさっきまでと違って明確に高鳴った。
「……きゅう」
そして好きな人とキスをしてしまった事実に気づいて、急激なときめきに私は酔いが回ってそのまま気を失ってしまうのだった。
〇
「まーだ寝てるよ。王様に片づけさせといていいご身分だなぁ」
「ん……可愛い」
「いやまあ、すやすや無邪気に寝ちゃってるけど」
ミミが寝てしまった時は驚いたけど、ただ寝ているだけのようなので片づけにとりかかったけど、どうやら本格的な睡眠にはいってしまったらしく、口元をむにむにさせて寝返りまでうってしまった。歯磨きしてないんじゃないかな、とちょっとだけ心配になってから、その唇に意識がいってしまう。
キス、したんだ。この唇と。一回目は勢いで自分から、だけど二回目はミミから。これは脈があると思っていいのではないだろうか。
ミミのことは好きだ。私は人より小さい。それだけで侮られたり、可愛い可愛いと初対面からなれなれしくされる。そのくせ私が不愛想で愛想笑いのひとつもしないでいると、気味の悪い人形のようだと悪く言われたりする。
でもミミはそんなことはなかった。ミミは心の距離と体の距離がそのままつながるタイプで、かつ人見知りだた。私との初対面でも距離が近くもないしなれなれしくもない、むしろどうしてそこまで私のような人間にびびれるのか、というくらいにしっかり距離をとられていた。
そこから一緒に時間を過ごす度に少しずつミミは私のそばに来てくれるようになった。愛想よくした覚えはないのに、最初では見れなかった笑顔をみせてくれるようになっていった。同い年なのになぜかされてきた年下扱いじゃなくて、むしろ頼ってくれてミミのほうが年下のように甘えてくれるようになった。そんなミミとの距離がどこかもどかしく、いつしかもっと近づきたくて、自然とそばにいる幼馴染のモコがうらやましかった。
あだ名でよび合うくらいに仲良くなれた時はすごく嬉しかったけど、その頃にはもうこの気持ちが恋であると自覚していた。
そしてモコにはそれがバレバレで、今回協力してくれるということで任せたらこんなことになった。とりあえず話にのったけど、まさかこんなことになるとは。
「モコ、脈、あると思う?」
「思う思う。って前も言ったけど、いや今日のでまだ聞く? 脈とかじゃないでしょ。これもう付き合ってるでしょ」
「まだ付き合ってない」
「むしろ驚きなんだけど。コンビニ行ってる間なんかあった?」
「……ない」
ちょっとだけ、誰にでもキスをすると思われたくなかったから訂正だけした。だけど口に出してから、ちょっと、告白みたいんだなって自分で思って恥ずかしくなった。だけどミミは相槌をうつだけだったし、告白と思われてはいないはず。
「ふーん。告白しちゃいなよー。うまくいくに賭けてあげるからさ」
「しない。モコのそういうとこ、よくないと思う」
「はーん、君らは私のこと対象外にしてるけど、私モテっからね?」
「知ってる。モコのこと好きになるのも、わかるよ」
モコも私に対して侮るような態度はしなかった。なれないれしいのはそうだったけど年下扱いとかではなく、ただ誰に対しても同じ態度をとるだけだ。調子がいいけど空気を読むし世話焼きだったりで、人から好かれてなにもおかしくない。ただ、私はミミが好きだけど。
「だろうだろう。でもごめんね、私には思いあう恋人がいるから!」
「ん。長く続くと、いいね」
「今度こそねー。で、告白は?」
「……とりあえず、明日、様子見てから」
ナナは私の言葉を軽く流してにやにやしながらそう促した。私も、脈がないとは思わない。キスしてくれたし。ある気はする。でも寝ちゃうくらい酔ってたし。と少しひよってしまう。こういうの初めてだし、仕方ない。
でも、もし明日起きて、ミミが全部覚えていて、自分からキスをしたと自覚しているなら。本当に脈があるなら、私は手を抜くつもりはない。
「ほー。ま、うまくいくといいね」
「ん。ありがと」
そんな会話をしつつ、翌日ミミと恋人になれることを知らない私は、ミミの幸せそうな寝顔に癒されつつもワクワクドキドキで眠りにつくのだった。
おわり。
王様ゲームで恋が始まる百合 川木 @kspan
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