親友と異世界召喚されたけどなんだかお約束と違うんですが(泣)

午前二時

おあずけよぼくらのぜつぼう(1)

 健やかなるときも病めるときも、ぼくたちはずっと一緒。



 平山おか流静りゅうせい珠濤すどうしずくの話。高校二年生、満十七歳の少年ふたり。クラスではカースト下位のナード。よくいる、絵に描いたような

 そんな二人は、よくあるテンプレートのように、学校からの帰り道、「異世界召喚」に巻き込まれた。

「異世界の勇者よ、どうかわれらの世界をお救いください」

 テンプレート通りなら、少なくともどちらか片方にはが宿っているはずだった。けれども二人を取り巻く世界は、もしくは運命は残酷だったようで、流静にも、雫にも、

 膨大な魔力も、超人離れした身体能力も、よくある「スキル」とか呼ばれるものも。

 何もなかった。言葉すらまともに通じなかった。召喚に立ち会った魔導士の一人が翻訳機を持っていなければ何が起こったかすら把握できなかっただろう。

 まあ、把握できたところで、多大なリソースを割いて召喚した異世界の人間が役立たずだった場合の展開なんて、たかが知れていたけれども。


 召喚のあと、二人が何の変哲もない一般人だと知るや否や、国の人間は二人を城から追い出した。ただ一人、おそらく王女らしき少女だけはなにやら反対のような雰囲気のことを言っていたが、二人には言語にすら聞こえなかった。耳馴染みのない言葉というのは、そもそも音すら頭に残らないのだと初めて知った。

 屈強な兵士たちに抱えられ、城門を出、城下町らしき石畳をずんずん進む。遠くの方には大きな壁がそそり立ち、外は見えなかった。

 賑やかとは言い難いそこは、死んだ目の人間がちらほら歩いている程度で、があったことはわかった。わかったけれども、それが何だというのか?

 運ばれながら、二人は少しずつ冷静さを取り戻し、並んで会話を始めた。どうせ何を言っても伝わらないのだ。ならば聞かれても構うまい。

「どうする? 雫」

「どうにも。流静」

「だよなあ」

 二人は混乱しつつも少しずつこれは現実だと飲み込めてきていた。放り出される直前ちらと説明されたのは、これまたよくあるテンプレート。「新しい魔王が就任し、それが非常に強い力を持っていたため魔族たちによる被害が拡大している」

 確かに大変な状況だ。しかし二人にはなんの関係もない。知らない世界に喚ばれ挙げ句荷物のように運ばれて、いい迷惑という言葉では片付けられない。

「はあ」

 流静は溜息を吐いた。言葉も通じないここでは、働くどころか今晩の宿を見つけることすら難しいだろう。持ち物は通学鞄ひとつ。中身はもちろん教科書、ノート、筆記用具、スマートフォン、モバイルバッテリー、空の弁当箱、中身が半分だけ残ったペットボトル、財布だ。どれも役に立たない。ポケットのなかにはハンカチとティッシュもあったが、それがどう役に立つというのか。

「売れるかな」

「売れないでしょ、売れるとしたらシャーペンくらい?」

「だよなあ。スマホがただの板になる日が来るとは」

「電波なんかないからね。電卓とメモ機能くらいしか使い所無いよ」

「……なあ雫、おれたちこれからどうしようか」

「とりあえず泊まれる所を探して、それから元の世界に帰ることを考える。なるべく早く帰ろう、ぼくらはここではきっと生きていけないから」

「そうだな……でも、言葉が通じないんじゃ、泊まるのもなあ……野宿覚悟か?」

「野宿、小学校の時のキャンプとは違いすぎるんじゃないかな」

「まあ、道具の一つもないんじゃなあ」

 ふと、兵士たちは立ち止まった。城門から真っすぐ歩いて、いつの間にか町の出入り口に辿り着いたのだ。

 すると門番らしき男が一人、彼らの前に立ち塞がった。もう一人いる男は少し遠巻きに兵士四人と、彼らに運ばれている流静と雫を見ていた。立ち塞がった男は、兵士たちに向かって何事か話しかけてきた。

「縺昴>縺、繧峨??」

「……やっぱ何言ってるかわかんねえな」

 と流静。雫は

「そうだね」

 と返しつつ、どうにか聞き取ろうと集中してみた。

「縺溘□縺ョ蠖ケ遶九◆縺壹◆縺。縺?縲る?壹@縺ヲ縺上l縲」

 わからなかったが。

 門番は彼は腕を振って、通れ、と言うように一歩下がった。兵士たちは、流静と雫を抱えて門の外へ出ると、そこへ二人を置いた。あとはしっしっと犬でも追い払うようなジェスチャーで、「あっちへ行け」とでも言いたげに二人を見る。

「うわ、失礼な奴らだな」

「本当になにもなしで放り出されるのか……」

 しかしこのまま門の前に突っ立っていたところでどうにもならないだろう。

 そうして二人は外へと出ていった。何が待ち受けているのかもわからないまま。


 外は少し開けた平原が広がっていて、少し遠くには鬱蒼と茂る森が見えた。

「でかい壁で見えなかったけど、外こうなってたのか」

「広いね」

「広いな」

 きょろきょろとあたりを見回しながら、二人は森の方へ歩いていった。怪物モンスターや、そうでない動物の姿はどこにもない。もちろん人の姿もない。

「森の中、危ないと思うか?」

「わからない」

 しかし二人の居場所は、少なくとも町の中にはなかった。取り敢えず外へ。それしかないのだ。

 流静が後ろを振り返ると、先程の門番がじっとこちらを見ている。なんだか気まずくて、彼はまた前を向いた。

「どうしたの?」

「いや、なんでも」

「そう?」

「そうそう、それよか早く行こうぜ。今何時か知らないけど日が暮れたら困る」

「うん」

 見下ろすと、足元に生えている草花は、どれも微妙に見たことがない形状をしている。それにどことなく気味悪さを感じつつも、雫は少し先を行く流静に追いつくために歩を早めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る