逆に考えるマン
戯男
第1話
「うえ〜ん。彼女に振られちゃったよう〜」
「はっはっは。お困りかな少年」
「だ、誰?」
「私は逆に考えるマン。いいか少年。君は彼女に振られたんじゃない。君みたいに善良な少年を振るようなクズを、お払い箱にしてやったのだ!」
「僕の浮気が原因で振られたんだけど……」
「一回二回の浮気に目くじら立てる狭量さがわかってよかったじゃあないか」
「彼女の幼なじみとかいう男にボコられて前歯が二本折れたけど、それも逆に考えればいいのかな」
「もちろんさ。被害届を出して裁判沙汰にすれば、ちょっとした小遣い稼ぎができるじゃないか」
「まあそもそも僕がバットを振り回したせいなんだけど」
「……逆にそれくらいで済んでよかったじゃあないか!」
「そっか!浮気相手に貢がされて、なんだかんだ借金が七千万になった揚げ句捨てられたけど、それも逆に考えればいいんだね!」
「仕事に打ち込むモチベーションができたと思えばガッツが湧くじゃないか!」
「借金を一気に何とかしようと強盗に入ったら即逮捕されて執行猶予中なんだけど、それも逆に考えればなんとかなるよね!」
「悪事はだめだという学習ができてよかったじゃないか!」
「そしたら彼女がバットの件を警察に言ったらしくて結構ヤバイ感じなんだけど、それも逆に考えられるかな?」
「刑務所で禊を済ませれば清々しい気持ちで再スタートができるじゃあないか!」
「てか今朝家に警官が来たから殴り倒して逃げて逃亡中なんだけど、それもなんとか逆に考えてよ!」
「……はあっはっはっは!さらばだ少年!もう知らん!ここで私に会ったことは誰にも言うんじゃないぞ!はあ〜っはっは……」
「ちょっとおじさん……あっ!おじさん!」
「う……うぐぐぐ……」
「駄目だよおじさん。急に車道に飛び出したりしちゃ」
「ぎゃ……逆に考えるんだ……そうさ……トレーラーに轢かれてこれぐらいの怪我で済んだなら、むしろラッキーじゃあないか……」
「おじさん……もしかしてそんな状態なのにあんまり痛くないの……?」
「え……しょ、少年。私はそんなにひどいのか……?」
「うん……胴体が」
「あーっ言わなくていい。聞きたくない。本当のことなんて知りたくない!」
「わかったよ……じゃあ逆に言うね!おじさんは全然何ともなってないよ!骨とか全く折れてないし内臓も見えてないし、両足も凄い元気そう!特に右足!指が全部真っ直ぐになってるし、血なんてこれっぽちも出てない!おじさんってば、あと二百年くらいは余裕で生きられるんじゃないかな!羨ましいなあ!」
「……少年よ」
「なに?」
「……普通に救急車を呼んでくれ」
「逃亡中だから普通に無理」
「あああああ……」
逆に考えるマン 戯男 @tawareo
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