第2話 僕
僕の近所には二つ下の女の子がいた。花が咲くように笑う彼女に僕は心を惹かれた。僕の家は厳しかった。父親は自分の病院を継がせるために僕が医者になるように強制した。でも僕は画家になりたかった。彼女は僕の絵を褒めてくれた。絵の世界なら僕は魔法使いになれた。彼女の周りに花を咲かせることも出来るし、何処へでも連れていくことができる。どんなに綺麗な景色の中でも彼女は輝いていた。彼女には穢れのない綺麗な世界がお似合いだった。
17歳の冬 彼女は引っ越してしまった。
会いに行こうとしたが、大事な時期だからと父親は許さなかった。唯一の支えを無くした僕は心が壊れていくばかりだった。このままでは僕は…
僕は綺麗なものを作り出すようになった。その時だけは現実を忘れることが出来る。実験用のマウスを使っていれば親は医学の研究でもやっていると思うのだろう。何も言わなかった。実験を続けてるうちにもっと大きなもので試したくなった。そして僕は三回も成功した。僕は穢れている生物を穢れのない美しい姿へ生まれ変わらせることができる。
僕は魔法使いなんだ。
…でもそれは一時的なものだった。
どんなに綺麗にしても彼女そのものを超えることは無かった。僕は家を出た。彼女を必死に探し回った。
彼女の新しい家は自然の豊かなところにあった。彼女にぴったりの場所だった。花の匂いに誘われた場違いな虫がいたので払って潰した。再会したとき彼女は泣いた。きっと僕に会えて嬉しかったに違いない。僕は彼女を喜ばすためならなんでもやった。
今年のクリスマス 僕は結婚を申し込むつもりだった。
食事の後 「大事な話がある 」その次の言葉を彼女は遮った。「別れましょ」突然の出来事だった。
「え、何を言ってるんだ」
「私 好きな人がいるの」
「いつからだ」
「あなたと付き合う前から だから別れましょ」
「冷静になってくれ!」
「私はいつも冷静よ」
「だからって…」
「私は穢れたの」
「穢れた?…」
その言葉がスイッチになった。あの美しい彼女をこれ以上 穢してはいけない。僕は使命感に襲われ スっと殺してしまった。その後 僕は少し後悔をした。永遠に愛する人を失ったのだ。でも穢れて彼女が醜くなるのを止められるのは僕だけなんだ!
今まで以上に綺麗にしてあげよう そう決めた。
全神経を研ぎ澄まし、作品は完成した。それはとても美しかった。でもこれで終わりではない。僕は魔法使い。
彼女に見合う美しい場所へ連れていくんだ。
ふとチラシが目に入った。リニューアルオープンした遊園地。そこには日本最大の観覧車があり、クリスマスのイルミネーションを売りにしているようだ。人が多いとこは嫌いだが彼女のためだった。すぐに車を走らせた。
着いたのは夜になってしまったが、イルミネーションは賑やかに咲いていた。観覧車に乗り込み、彼女に渡すはずだった指輪をしてあげた。足元には電気の花が咲き、彼女は天の女神のようだった。下へ戻ってきたとき、僕はそこを去り彼女はまだ乗るそうだと係員に伝えた。僕の頬には熱いものが走った。
20歳になったら 鳥間たかし @torima_takashi
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