あいつ
おじさん(物書きの)
ハハッ
この真実は誰にとっての不都合なのだろうか。
当時、私は某国の軍隊に所属していた。それも特殊部隊の暗部、表に出せないモノを掃除する部隊だ。
あの日、我が隊はとある島に上陸していた。そこには軍の施設があり、非殺兵器の開発をしていたのだという。そこでバイオハザードが起こった。
我々が施設に到着した時には生存者はなく、感染範囲を把握するために島にいくつか点在する集落を見て回る事にした。
部隊を10名ずつの小隊に分け、私の隊は施設を南下した。
他の隊からの無線で島民の感染状況が分かり、陰鬱な気分になった。これでは島民すべて掃除しなくてはならない。いや、島ごとか。
白い砂浜に絵の具を塗りたくったような青い空、心をくすぐるような波音に、島民の呻き声が混じりあう。神経毒なのだろう、呼吸をするのも精一杯という感じで首を掻きむしり、地面を這い回る。特徴的なのがその表情だった。苦痛を訴える目と対照的に、満面の笑みから切り取ったような口元。その口からは荒い呼吸と助けてと言う言葉が溢れ出す。
無線から「楽にしてやろう」と、隊長の声がする。
我々は島民に銃口を向け、掃除を開始した。
「笑ってやがるぜハハ……」
そう呟いた隊員と目が合い、身体が強張った。音もなく、表情も変わらぬ隊員の頭がその身体から分離する。砂地の地面にどすんと鈍い音がし、首の断面からは思い出したように血液が噴き出した。
膝から崩れ落ちる隊員が地面に横たわると、この陰惨な場所には不釣り合いな笑い声がする。
我に返って顔を上げると、着ぐるみを着た数人が、私の前でおどけて見せた。
理解の域を超えていた。目の前にいるのは世界的な認知度があり、どの国でも大人気なあのキャラクターだ。そいつは壊れた玩具をぞんざいに扱うように横たわる隊員を蹴り上げ、その頭を踏みしめた。
現実離れした状況だったが、踏みにじられた隊員と目が合ってぶれた意識が収束した。
顔を上げると同じくして他のキャラクターがおもちゃの銃をこちらに向ける。瞬間的に脳が危険と判断し、身体が動いた。衝撃も何もなく左腕が消し飛び、叫び声を上げながら銃を乱射する。次の瞬間、私は他の隊員の身体に押し倒され、下敷きになったまま気絶した。
気がつくと病室で、タイミングを測ったように黒尽めの男がやってきた。何度も尋問されたが、私は分からないと答えるしかなかった。
誰が信じてくれるというのか、あれは着ぐるみではなかったなどと。
私は確かに見た。乱射した銃弾が特徴的な耳に当たって血が噴き出し、大きな目が動いて鼻をひくつかせ、醜く口元を歪めたのを。
私はこの真実を小説という形で暴露しようと思う。嘘と真実を織り交ぜて分かる人には伝わるように。
あいつの笑い声がする。テレビのCMを見る度に古傷が痛む。テレビを消そうとしてハッとした、テレビなど元々付いていない。急げ、小説は完成し、後はアップロードする為のボタンを押すだけなのだから
あいつ おじさん(物書きの) @odisan_k_k
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