ダンジョン配信者を助けたら盛大にバズった黒騎士、実は正反対の白魔法を極めようとしているらしいです

反面教師@6シリーズ書籍化予定!

第1話 黒騎士、ダンジョン配信する

『大丈夫? 怪我はない?』


 そう言ってくれた白銀の鎧の騎士は、血にまみれながらも美しかった。


 緩やかに波打つ銀色の髪に、意思の強さを感じさせる金色の瞳。


 なんと神々しい女性かと俺は思った。


 そして、彼女の戦う姿に見惚れた。




 それから一年。




 ▼△▼




「……よし、と。これで配信の準備はOKかな?」


 スマホの画面に表示された、『配信しますか?』の文字をタップする。


 内蔵マイクが認証され、内蔵のカメラも無事に認証された。パッと画面には、目の前の光景が映し出される。


 薄暗い岩肌の地面。


 周りを見ると、同じような岩肌が無限に広がっていた。


 まっすぐ伸びる通路には、点々と小さな明かりが灯されている。




 ——ここはダンジョンの中だ。


 俺が生まれるより前に、現代日本に異世界と繋がる扉が開いた。


 『ゲート』と呼ばれるようになった空間の歪みからは、大量のモンスターが現れる。


 重火器を使用してなんとか人類は、そんなモンスターたちと戦ったが、モンスターの中にはひときわ強大な能力を持った個体が多く、次第に状況は悪化していく。


 そんな折、世界中に『覚醒者』と呼ばれる者たちが現れた。




 彼ら彼女らは、異世界から流れ込んできたと呼ばれるモノに適合し、自らの体内でその魔力を生成、放出できる。


 その力は凄まじく、あっという間にゲートから現れたモンスターたちは駆逐されていき、再び、この世界に一時の平穏が訪れた。


 それから何十年もの月日が経過し、今度は世界中に『ダンジョン』と呼ばれる謎の世界が現れる。


 ゲートとは異なる法則によって生まれたそこは、ゲートと同じように永遠にモンスターを生み出す巣窟だった。


 しかし、人々はもう恐怖を抱かない。


 多少の不安はあっても、覚醒者たちのおかげで平穏は維持された。


 いつからかゲートもダンジョンも、と呼ばれる職業に就いた覚醒者たちが攻略することにより、恐怖よりも好奇心が勝るようになった。


 いまでは、覚醒者で高校生からなら誰だって冒険者になれるし、一番熱いコンテンツが、そのダンジョン内での攻略を配信する『ダンジョン配信』に変わった。


 さまざまな冒険者が、富や名声、自尊心を高めるための道具に利用した。




 俺こと明墨あきすみいおりも、今年から高校生になった駆け出し冒険者だ。


 まだあまりダンジョンに来た回数は多くはないが、やる気だけは溢れている。


 なぜかって? そんなの決まってる。


 かつて、一年前に、人々を助けるに強い憧れを抱いたからだ。


 いまでは彼女のファンにして、彼女の意思を継ぐもの。


 まだ彼女は現役だし普通にバリバリ働いているが、——ともかく。


 俺はあの白騎士と同じように、白魔法を極めて誰かを助けられるような人間になりたい。


 そのために、最近では配信者活動も始めてみたのだが……。




 ▼△▼




「ぐぬぬぬ……それなりに時間が経っても視聴者はゼロか」


 同時視聴者数を刻む数値は、基本的に1か0かのどちらか。


 よくて2とか3。たまに5人とか増えるが、すぐに暴言を吐いて帰ってしまう。


 なぜ、暴言を吐かれるのか。


 恐らく……いや間違いなく俺の『白魔法』が問題だろう。


 なにを隠そう、俺こと明墨庵は——。


「——あ! い、いらっしゃい! いまダンジョン攻略中です!」


 ピッと、同時視聴者数の数字が1だけ増えた。


 慌てて思考を切り替えて、視聴者さんに挨拶する。


【こんにちは~。白魔法配信と聞いて見に来ました】


 おお。珍しくコメントがきた!


 俺のテンションはマッハで上がっていく。この機会を、チャンスを逃す手はない、と。


「ありがとうございます! 今年から白魔法の練習をしてて。よかったらゆっくりしていってください!」


 そう言うと、タイミングよく洞窟の奥からモンスターが現れた。


 上層ではよく見られる雑魚の代名詞、————『小鬼ゴブリン』だ。


 全身が緑色の皮膚に覆われた、人間の子供くらいの背丈のモンスター。


 右手には貧相な棍棒を持ち、血溜まりみたいな真っ赤な瞳でこちらを睨む。




 ——よぉーし! ここでカッコいいとこ見せて視聴者ゲットだ!


 走り寄ってきたゴブリンに対して、俺は右拳をわずかに引いた。


 パンチの構えをしてから、右手に魔力を集中させる。


 世界中に現れた覚醒者たちは、この魔力を操り、変化や現象を起こす。


 その色が〝白〟だと白魔法。〝赤〟だと赤魔法と呼ばれる。


 俺の場合は白い魔力だ。


 手を覆うように魔力が集まり、ぎりぎりと拳を握り締めて前に突き出した。


 まるで正拳突き。


 まっすぐ伸ばした手元が、こちらに迫っていたゴブリンの顔面に直撃する。


 手にまとう光はほんの微量。光っているのかどうかも怪しいくらいだったが、無事、殴られたゴブリンは十メートルほど後方へ吹き飛んで地面を転がった。


「うっし! 成功! どうでしたか、いまの魔法。白魔法の『浄化の光』ですよ!」


 にこやかにもう片方の手に握ったスマホへ声をかけると、すぐに返信が返ってきた。


【白魔法? ほとんど素手で殴っただけじゃん。まさか適性ないのかよ】


 ——グサッ!


 言葉のナイフが心に刺さる。




 そう。そうなのだ。実は俺は、心の底から憧れる白魔法に…………まったく、ぜんぜん、これっぽっちも——


 普通、『浄化の光』と言えば、もっと付与した部位が輝いてしかるべきなのに、俺の場合は百円のミニ懐中電灯よりしょぼい。というか、マッチのほうがはるかに上だ。


 がくりと膝を折り、悲しみに暮れる。


「れ、練習中な、だけですから……」


 必死に言い訳を考えてみたが、最後に繰り出された必殺の一撃を受けて、俺の精神は完全に崩壊した。


【使えるヤツは最初からもっとまともに使える。配信詐欺じゃねぇかやめろ】


 そう言い捨てて、同時視聴者数が0になる。


 俺は両腕を空に振り上げると、全力でダンジョン内の地面を叩いて叫んだ。


「ちくしょおおおおおぉぉぉ!! そこまで言うことなくない!? 俺だって本気でやってんだよおおおぉぉ!!」


 ダンダン、と繰り返し地面を叩く。


 ストレスを発散したおかげで、数秒後にはなんとか気持ちも落ち着いた。


 だが、配信に残されたコメントをもう一度読んでから、ほろりと涙が出る。


「なんで……なんで俺の適性は……白魔法じゃなかったんだ」


 立ち上がり、よろよろと不規則な足取りでさらにダンジョンの奥を目指す。


 ここ最近、俺のダンジョン配信は過疎がデフォだし暴言しか吐かれない。


 いまみたいな、「白魔法向いてないよ。やめたら(笑)」的な発言が多く見られる。


 解ってる。解っていたさ、俺だって。自分に白魔法が向いていないことくらい。


 だって俺は、そのこそが適性なのだから。




 ……関係あるかどうかは知らないけど。


「ハァ……もういいや。忘れよう。いまはお金を稼ぐためにもう少しだけ下の階層に向かうか」


 次第に見えてきた大きな縦穴。その前に立つと、ゆっくりとスマホの電源を落とす。


 すでに『配信終了』のボタンは押した。押す直前まで同時視聴者数は0だった。


 そのことに悲しみを抱きながらも、足元からの魔力がせり上がる。


 魔力は闇を伴って俺の体を包み、そのまま前方に倒れて縦穴に飛び込んだ。


 落下中、どこからか女性の声が聞こえたような気がする。


———————————————————————

あとがき。


新作!流行りのダンジョン配信ものでございます!


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