飛び降り希望な君と

時津彼方

1-1

「あれ、こんなところに来る人なんて、いたんだね」


 ビルの屋上のドアを開けると、靴を脱いでいる少女を見つけた。


「何してるの?」


「何って、今死のうとしてるんだけど」


「なんで」


「なんでって、嫌だからだよ、色々。そもそも君は誰なの。別に会ったことないよね。止める理由もないよね」


 少女は淡々とした語り草で、僕を責める。


「それは、そうだけど……」


「まあ別にいいよ。後で救急車だけ呼んどいてね。じゃ」


 少女は勢いをつけて、フェンスの上に手をかけようとする。


「ちょ、ちょっと!」


「何、腕なんてつかんだりして。もしかして引き留めてるの? 赤の他人の君が?」


「……」


「もしかして、いいことしてる気分になってる? このまま私が飛び降りるのをやめたら、人を救ったとか思って、いい気分になれるって」


「そんなことない」


「でも、こんなこと思わない? 私が、死んだ方が幸せだって言ったら、それは人を不幸にする行動に変わるんだよ。そう言ったら、どうする?」


「……」


「ほら、結局君は偽善をしたいだけなんだよ。相手のことなんて考えてない。私がこのまま死んだ方がいいって場合でも、今見たいに手を握り続ける」


「あ」


 手を放すと、少女もフェンスから手を放し、同じ床に着地する。そしておもむろに靴を履き始めた。


「まあ、いいよ。誰にも必要とされなくなった私だから。別にいつ死のうと構わないし。君が望む通り、もうちょっと苦しんであげる。じゃあね」


 階段降りて行っちゃった。


 ……風が強い。帰ろう。

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