第6話 聖女フレア

 聖女フレア・ラスカーテ。



 人々に信仰されている彼女がこの領地を滅ぼすルートが存在している。



 ゲーム開始してからしばらくすると、突然彼女がこの領地へやってきて、大爆発を引き起こして町が吹き飛ぶのだ。

 実際に爆破される側からしたらこれほど酷いイベントはない。



 でも、彼女がこの領地に来るのは稀で、しかもストーリー開始後のはず。

 なんでこんなに早く来たんだ?



 その際に彼女はこの領地の異変を調べにくる。



 異変……。



「あっ!?」



 もしかすると彼女は俺がカインやシアを仲間に引き入れたからやってくるのだろうか?

 それとも俺自身のレベルが上がったからだろうか?



 ゲームと違う異変と言えばその二つのどちらかだった、

 それにどうやって領地全てを爆発するのかも気になるところである。


 いくら弱小貴族とはいえ、領地自体はそれなりの広さがある。

 それを一人の少女が爆破させるのは無理があるはず。



 協力者がいるのか、それとも何かとんでもない能力の持ち主なのか。

 それがわからないことには対策の打ちようがなかった。



 とにかく手遅れになる前に行動をしないと。



 俺はカインの後を追って、急いで館へと戻っていく。




◇◇◇




 館へ戻ってくるとすでにフレアは客間に通されていた。

 純白のローブに身を包んだ優しそうな垂れ目の少女。

 見るからに聖女然としている。



 年齢は俺より少しだけ上だろうか?



 金色の長い髪をしており、赤目でとても整った顔立ちをしていた。



 そんな彼女は俺の父であるクリス・レイドリッヒと楽しげに会話をしていた。



「アデル、戻ってきたか。こちらがラスカーテ子爵の次女、フレア・ラスカーテ様だ。聖女の勤めのために様々な領地を見回っているらしい。ちょうど歳の近いお前が案内した方がフレア様にとっても良いかと思ってな」

「はじめまして、アデル様。フレア・ラスカーテと申します。このたびは突然の来訪にもかかわらずご丁寧な対応、まことにありがとうございます」

「これはご丁寧に。私はアデル・レイドリッヒと申します。何もない町ですが、精一杯案内できるように努めさせていただきます」



 二人して頭を下げる。

 そのあと満面の笑みを見せてくるフレアに思わず俺は息をのんでしまう。

 しかし、それも一瞬ですぐに俺自身も作り笑顔をしていた。



「では早速町の方を案内させていただきますね」

「はい、よろしくおねがいします」




◇◇◇




 フレアと俺、あとはカインとシアを乗せた馬車が町の方へ向かって走っていた。


 本来なら馬車など使うことはないのだが、さすがに要人たるフレアを歩かせるわけも行かず、滅多に使わない馬車を借りていた。

 どうしてカインとシアが乗っているのかといえば、もちろん俺の護衛を務めてもらうからだ。


 剣で相手にするなら大人顔負けのカインがいればどうにかなるし、魔法なら災厄の魔女たるシアに勝てる相手はいない。


 しかも二人とも見た目はまだ子供……というとシアは怒るが、そういった事情もあり俺の側に付いていても違和感がほとんど無かった。



「フレア様は聖女様であらせられるのですね」

「お恥ずかしながらまだ見習いの身ではあるのですよ。それでも私の力が少しでも皆さんのお役に立てれば、と思って色んな土地を訪ねて見識を広げているのですよ」



 フレアは一切表情が変わること無く笑顔のまま答える。



「すごいですね、聖女様って。やっぱり人を癒やす回復魔法を――」

「っ!?」



 一瞬フレアが強く口を噛みしめていることに気づいた。

 しかし、それもすぐに笑みに変わり俺の見間違いかと思ってしまった。



「いえ、私なんてまだまだです。修業中の身ですから……」

「私も最近になってようやく使えるようになったところなのですよ」

「是非その話を詳しくお聞かせ願えれば――」



 フレアが身を乗り出して聞いてくる。

 しかし、そのタイミングで馬車が止まる。

 話しが中断されたことをフレアは残念そうにしていた。



「ここが町の中央ですね。とはいえあまり栄えているところではありませんからお店らしいお店は無いのですが」



 王都などとは違い、建物が密集していると言うことはなく、ポツポツと家がある程度。

 元々は農業と狩りで生計を立てている弱小貴族であるが故にお世辞にもその暮らしぶりは良くない。それでもそれほど人が多くないためになんとか生活していける。



「そんなことありませんよ。穏やかでとても自然を大事にされてるんだなって思います。人々も活気に満ちてますしギスギスした感じがないのがいいですよ」

「確かにこんな町ですから人々が助け合わないと生きていけないのですよ」



 それからしばらく町の中を見て回ったのだが、フレアは特に変わった動きを見せること無く一日目は終了していた。




◇◇◇




 その夜、俺の部屋をシアが尋ねてくる。


 事前にシアにはフレアに限らず、来訪者の動向を注視しておくように伝えてある。

 そして何かあれば即座に俺に連絡するようにと……。


 おそらくフレアのことで何かわかったことがあるのだろう。



「夜這いか?」

「そんなわけないのじゃ!」

「冗談だ。フレアのことだろう?」

「あぁ、鑑定魔法を使っておいたぞ。とはいえ妾がわかるのは魔法適性だけじゃ。でも、なかなか面白いことがわかったぞ」



 にやり微笑むシア。

 彼女の情報を元に俺はフレアのステータスを脳裏に描いていた。



 フレア

 レベル:5

 称号:【邪神に愛されし者】

 スキル:【狂気:1】

 魔法:【光:0】【闇:3】【回復:0】



「邪神……か」



 どうやら彼女がひたすら爆発をさせる理由に邪神が絡んでいるようだった。

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