最弱貴族に転生したので悪役たちを集めてみた
空野進
第1章 物語が始まる前に
プロローグ
「あいつ誰だっけ? 序盤になんか死んでた奴」
そんな風に言われていたのがこの俺、アデル・レイドリッヒであった。
ゲームが進行すると必ず起こる襲撃イベントで「辺境の地が悪役の手によって落ちたようです」と言われて名前すら出ずに滅ぶ最弱領主の息子である。
そのことに俺が気づいたのは六歳のときだった。
流行病にかかってしまった俺は朦朧とする意識の中で前世の記憶を取り戻していた。
剣と魔法の異世界への転生。最初は心が躍ったね。
しかし、蓋を開けてみるとどうか。
この世界は俺が前世でやっていた恋愛シミュレーション『アーデルスの奇跡』そのものだったのだ。
俺がそのことに気づいたのは父の書斎で勝手に本を読んでいた時のことである。
「アーデルス王国? どこかで聞いたことあるな?」
最初は単なる偶然だと思っていた。たまたま見知ったゲームと同じ名前の国があるだけ……。
しかし、調べていくごとにそれは確信へと変わる。
王国以外にも記憶に残っている地名がすべて載っていたのだから。
ここまで一致しているのになぜか俺、アデル・レイドリッヒの名前はおろか、レイドリッヒ領のことが思い出せない。
それもそのはずであった。
だって、ゲーム内には一度としてその名前は
ゲーム内で登場したレイドリッヒ領の名前は『滅びた町』。
はい、滅びてます。
滅びてるにしてもせめて町の名前くらい出せよ!
とにかくこのまま何もせずに滅んでやる義理はない。
破滅回避のために動くことを決意するのだった。
◇◇◇
まず始めに俺が王都の学園に入る十五歳。
ここがタイムリミットである。
そこからストーリーが始まり、多少の差異はあれど必ずこの領地は滅んでしまうのだ。
それまでに悪役から町を守れるだけの戦力を整えないと――。
そう考えた俺は執事のバランを呼びだした。
「アデル様、どうなさいましたか?」
「早急に確認したいことがある。領軍についてだ」
「軍……にございますか?」
バランは思わず首を傾げる。
それを見た俺は「あっ、これはダメなやつだ」と感じ取った。
「西の森へ狩りに出る狩人が十名ほど、街を守る衛兵が十名ほど、あとはこの領主邸に五名ほどの兵が詰めております。いずれも強者揃いかと――」
バランは幼い俺を安心させるために朗らかな笑みを浮かべながら言ってくるが、俺は内心ため息を吐く。
やっぱりダメだったか……。
その数は危険な辺境の地であるというのにあまりにも少なく、今すぐにでも滅ぼしてくれと言わんばかりである。
もっとも町中は平和そのものでレイドリッヒ領は今日ものんびりとした空気が流れていた。
「もしかして怖い夢でも見られたのですか? ここが襲われることはないので安心してください。はっはっはっ」
襲われるんだよっ!?
声を大にして言いたかったのをグッと堪える。
前世のゲームの知識なんて説明しても、子供の戯言と笑われるだけなのだから。
どうしてここまで危機感がないのかというと、今この領地が置かれている状況が全てを物語っている。
北は植物すら生息しない『死の大地』。
西は狩りにうってつけの弱い魔物しかいない『沈黙の森』。
南は寄親たる『ランドヒル辺境伯の領地』。
東は王都へ続く道があり、最寄りには王国最強魔法使いの『メジュール伯爵の領地』。
唯一北の地だけは危険な瘴気が吹き出しているために経過観察がいるものの襲われる心配がこれほどない地も珍しい。
もちろんゲーム情報がなければ、だが。
死の大地の奥には人間世界の地図には描かれていないが魔族の国があり、虎視眈々と人間世界を侵攻しようと力を付けている。
沈黙の森には世界を絶望の淵に陥れた『災厄の魔女』が封印されているダンジョンと、森の奥には人間と相容れずに俗世を離れたエルフの国が。
ランドヒル辺境伯はその娘が悪役令嬢で、嘲笑を浮かべながら平気で金を奪っていく上に上位貴族を泣き落として相手が悪いように仕立ててくる。
メジュール伯爵は所構わずに魔法をぶっ放す狂人な上に悪い意味で貴族社会にどっぷりと浸かり込んでいる小悪党だ。更にはその街道には大盗賊のアジトすら存在していてとても治安が悪いのだ。
四方全てに敵が存在して逃げ場がない状態である、なんて子供の俺が言ったところで誰も信じないだろう。
しかもレイドリッヒ領がゲーム内での『滅びた町』であるならば、領内にすら爆弾が存在する。
開始前から詰んでいるマイナススタートでどうしろと……。
いやよく考えろ。この危機的な状況から脱出する方法があるはず。
必ず序盤に悪役に滅ぼされるこの領地を救う方法が……。
そこで俺は何か引っ掛かりを覚える。
この領地が襲われるのは、必ず世界を滅ぼそうとする『悪役』が現れるから。
悪役がいなければこの領地が襲われることはない。
つまり、悪役を俺の仲間に引き込めばいい。
世界を滅ぼそうとする悪役さえいなければこの領地も滅ぼされることなく、俺も無事に暮らすことができる。
悪役も悪に走ろうとしたきっかけが必ずある。
そして、それはすでにゲーム上に書かれていたのだ。
そのきっかけを俺の手で取り除けば、悪の道に走らず、俺の力になってくれるはず。
よし、破滅回避のために悪役たちを集めるぞ!!
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