車中にて
響子の車の中。榛菜とさくらは後部座席に座っていた。市立中学なので通学範囲は広くない。車なら二人とも家まで10分もかからない。
「あの子達は不思議ね」
ハンドルを握っている響子が言った。
「あの探偵コンビですか?」榛菜が返事をした。「確かに変人ですね。来ないでって言ってるのに勝手に学校に来ちゃうし」
聞いた響子は、ふふ、と声を洩らす。
「あの子たちが学校に来た時、私になんて言ったと思う?」
「え? うーん」
「なんだろう……?」
二人とも首を捻る。
「『友達を助けに来た』ってまず黒川くんが言って、『ついでにあなたも』って灰野くんが」
「ふぁー……ついでにって……」榛菜は額に手を当てた。
「言いそう」さくらはその光景が見えたようにほほ笑む。
信号待ちをしながら、ミラー越しにさくらを見た響子が笑った。
「先生? どうしたんですか?」
「いや、今朝ね。脅迫電話があったのよ」
とたんにさくらが反応した。
「先生! 言ったらだめ!」
運転席の座席を掴んで、激しく抗議する。
「公衆電話だから誰から掛かってきたのかわからないし別に良いと思うけど」榛菜とさくらの位置からは響子の顔が見えないが、きっと子供の様な笑顔だろう。
「『今夜7時半に待ってる』って、それだけだったんだけどね。あのね、正直に言うと誰が幽霊をしていたのかは何となくわかってた。でもあの声を聞いた時は、本当にともちゃんが電話してきたのかも、って思った。ともちゃんがあの階段で待っているかもしれないって。声が、何て言うのかな、似てた」
響子は目を細めた。
「今日は7時には帰ろうと思ってた。本気にする必要もないって。実を言うと、怖かったのね。そうしたら、7時前くらいに彼らがきた。普段なら他校の生徒なんて追い返してたんでしょうけど、友達を助けるって言葉と、今朝のともちゃんからの電話があったから、気になって話を聞いちゃった。今になって思うと、ともちゃんが引き合わせてくれたのかもね」
榛菜もさくらも、今は同じ気持ちだった。晶や凛太郎と同じ塾に通い、たまたま前後の席で、怪談話をして。
「まるで本当に探偵みたい。私も、あんなふうになりたかった」
懐かしむような、悲しむような声だった。
かつては彼女も事件の真相を暴こうと必死になっていたのだ。うまくいかず裏目に出て、友達を死後にもう一度傷つけてしまったとしても、きっとそうしないではいられなかったのだろう。
「でもね、大人として言わせてもらうけど。警察は、あれは事故だと判断した。本当に事件だったとして警察は頼れないし、犯人を見つけたところで逮捕はできないかも知れないよ」
「どうしてですか」
さくらが挑むような口調で言った。
「証拠がないから。あったら警察がもう見つけているはずだし、仮に証拠と思えるものが当時はあったとしても今は時間が経ちすぎて無くなっているかも知れない。そんなとき、あなたたちはどうするの? 犯人を見つけて、どうしたいの? 中学生探偵には限界がある。……考えておいてね」
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