永世ワナビの創作論

水山天気

「チヤホヤされて高収入な楽しい仕事」は必ずある。永世ワナビはあきらめない。

 「楽しい」については話が桁違いに複雑になる(さらに「危険が楽しい」仕事にまで話が及ぶと死生観レベルの複雑度になる)のでとりあえずおいておくとして、「罵声か無視の中で低収入な仕事」は普通にあるじゃないですか。ワナビならそれを知っているはずです。そういう仕事があるのなら、逆に「チヤホヤされて高収入な仕事」があってもおかしくありません。

 ここで問題になってくるのが〈定員〉というか〈競争〉です。

 仮に、小説を書いて売ることが「チヤホヤされて高収入な仕事」だとしましょう。当然、そういう仕事をしたい人間は多いので、競争は激しいものになります。そして、競争力の弱い人間はワナビになります。「罵声か無視の中で低収入な仕事」をしながら「チヤホヤされて高収入な仕事」に憧れ続けることになります。これはもう「仮に」とかいう話ではなく、小説家になりたいワナビの現状そのものなのかもしれません。


 永世ワナビたちはもちろん、現状を変えようとしています。とはいえ自分たちの能力(出版業界の基準に達しないほど低い能力)を高めることには限界があります。三幕構成を身につけてみたり猫をSAVEしてみたりするだけでは不充分です。そういうメソッドは、欲望と娯楽の王国ハリウッドで吊られる首の数を38%削減するために開発されたものであり、もともと下位の5%の中にいる永世ワナビを救うものではありません。猫をSAVEして救われるような人間は早々にワナビを卒業してしまい、後には永世ワナビだけが残されることになります。

 永世ワナビが変えるべき「現状」とは、個々人の能力のことではありません。能力と能力がぶつかる「競争」の場そのものを変えていく必要があります。

 たとえば、小説家は本当に「チヤホヤされて高収入な職業」なのか?

 こんな問いにも、「競争」という場の力は絡みついており、容易に答えを出すことを許しません。

 仮に、こんなことを言う小説家がいたとします。


「小説家というものは、チヤホヤされて高収入な職業ではない。本を出してもSNSでは感想ゼロ+Amazonで酷評1ということもありえるし、初版部数も少ない。そのことを覚悟の上で、目指したりあきらめたりしてほしい」


 「楽に大儲けができるよ」と言って怪しげなビジネスに誘う詐欺師とは逆のことを言っています。勧誘系詐欺師の逆です。

 しかし「逆」とはどういう意味か? その発言をした小説家が「何も考えずにそういうことを言っておくbot」である可能性を無視してもまだ、ざっくり分けて2つの可能性があります。


 1. その小説家は、正直かつ親切。

 2. その小説家は、潜在的な競争相手を競争の場に近づけないようにしている。


 この世に競争というものがある限り、可能性を1つに絞りこむことはできません。もちろん私は、小説家を信じています。100%信じています。しかし、できれば101%信じたい。今のワナビに必要なのは、毎日1%を超える圧倒的な経済成長。すべてのワナビが理想的な職を得て、競争というものがエンタメにしかならなくなるほどの圧倒的な経済成長です。

 そのために必要なのは、以下に挙げる2本の柱です。2本で充分だと思います。


 1. 脳内GDP

 2. ライトノベル拡大主義


 2本で足りない感じなら思いつきしだい柱を追加していきますが、とりあえずはこの2本で日本語小説の経済成長をやっていきます。よろしくおねがいします。これはただ日本語小説産業と永世ワナビだけに関係のある話ではなく、日本そのものをやっていこうという話でもあります。ソビエト連邦崩壊後、〈労働〉の価値をアゲることに国家もインフルエンサーも成功していない現在、労働問題の壁を小説周辺から突破していく試みも無駄ではない可能性があります。どんな人間にも可能性はあります。よろしくおねがいします。



【余談】

 「能力」という言葉を注釈抜きで使いましたが、これもまたファックの余地のある言葉です。とりあえず今回は、「社会」「公平」「年収」と一体化している心底ファックな言葉であるということだけ言わせてください。人間のリアル能力は、消化吸収と呼吸循環だけで2兆点+言葉を使えるだけで100万点であり、そこから先の領域は受験システムや年収分配システムによって不自然に拡大された誤差です。

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