クセの売人

ボウガ

第1話

 近未来、人々が体を機械化し、データとして人の“クセ”が売買されるようになった世界。有名人のクセ、成功者のクセ、ユーモアのあるクセ。特に有名人のクセは大きな値段がついた。

 だがそうしたものが複製されると、様々な問題が生じる。犯罪者に使われたり、犯罪者がその“クセ”を隠し、証拠を薄めたりつかったり、同じクセが蔓延したり。人間を識別するのも難しくなる。だから一定の価値を定めようと法律によりNFT化が義務付けられた。つまり、同じ“クセ”を売買できるのはひとつまで、その“クセ”が何者のものであるか、情報の紐づけがなされる。


  しかし、ある時、奇妙な事がおきた。いくつもの人間から多数の“クセ”が売りに出された。しかし、それもそれぞれ違った“クセ”であるために、法律で縛ることはできない。困った警察は当人がどうしてその“クセを大量にもっているのかを調べにかかる。


 彼は何を隠そう“クセ”の売人である。しかし、彼の売買する“クセ”は、特段おかしなものではない。有名人のクセでもなく、犯罪者のクセでもなく、ユーモアのあるクセばかり。だが、翌々調べるとどこかそうしたものに酷似した特徴があった。ここが疑わしいと思った警察は、彼がAI技術を使っているのではないかと、調べにかかる。


 そして、どうやら改造アンドロイドを所持していることがわかり、そのアンドロイドと接触している時に、令状をとり、彼の部屋にわけいった。

「何をしている!!」

 男はたったいま、アンドロイドと情事に及ぼうとしているところだった。

「なにって……そりゃあの、それは」

「お前、そいつはセクサロイドか!」

「え、ええ、でも違法改造はおこなっていません、ただ容姿に関する、カスタマイズをしているだけで、彼女とも合意をもとに付き合っていますよ」

 警察が調べるとアンドロイドは答えた。

「彼は私の権利を尊重してくれるわ、他の誰より」

「奴はAIをつかって、“クセ”を複製しているのでは?君は何かを強要されていないか?」

「いいえ、彼は私の権利を尊重してくれるわ」

 何をきいても、まるで同じような言葉がかえってくるだけ。困り果てた警察は、その恋人のアンドロイドを預かり調べた。たしかに一年に一度の規定のアンドロイド検査にもだされている。それに、AIをつかって内部プログラムをいじった様子もない。

「困ったな、なぜあの男はあんなにも多くの“クセ”を売買できるのか」

 一方で並行して男の調査が行われていた。取調室では笑い声が響いている。

「どうした!」

 重役が違和感に気づき、尋ねる。

「どうもこうもありません、奴は“クセ”を自分で生み出しているんですよ、定期的に耳を足でほじるクセだとか、くしゃみをやりかけてとめて変な音をだすクセだとか、

その様子がおかしくておかしくて、彼はただの商売人でしょう」

 

 確かに、彼にやましい事はないことがわかり、釈放の段階になった、そして担当警官が彼に尋ねる。

「どうして、そんなに多くのクセをつくったんだ?たしかに有名人や犯罪者のクセをまねているが、どれも少し違った形でオリジナリティがある、どうしてそんなに多くのクセを思いつく?」

 そういうと、彼は顔の左側だけ笑顔になりながらいった。

「人を騙すクセが抜けなくてねえ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クセの売人 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る