第57話 彼方の地から
板橋ダンジョン、深層。
俺はげっそりとした顔で歩いていた。
:東雲……元気だせよw
:モテてよかったじゃねーかw
;主のそんな疲れ切った顔初めて見たわw
「あ? テメーいっぺん女性に囲まれてみろ、死ぬぞ」
ぎょろりと落ち窪んだ眼でキューブを睨み込む。
:ごめんてwww
:こわひ;;
:≪あやチャンネル≫ちょっとやり過ぎちゃいましたね……ごめんなさい
:≪Stella.C≫大丈夫ですか? 回復しに行きましょうか?
:≪皐月のだらだら探索≫帰ったらよしよししてあげる
「ステラさん、ステイ。今あなたが来たら100億パーセント面倒臭いことになるから」
溜息を吐きながら通路を歩み続ける。
っと、魔物だ。
「はぁ……」
襲い掛かってきたスケルトン・ナイトの頭蓋を剣の腹でぶっ叩いて破壊する。
もう、魔物の扱いも雑になってきてる。いかんな、こんな調子じゃ。
「だーっ! もうやめやめ! やめんべ、こんなの!」
頭をわしゃわしゃと掻きながら、叫んだ。
そして予想通り、地響きを鳴らしながら魔物の大群が押し寄せる。
「フゥ……。そんじゃ、やるぞ」
:何してんの!?
;ただの自殺行為
:ええ……(困惑)
:懐かしいなぁ……荒れてた頃よくやってたよな
:古参ニキ羨ましい
:≪あやチャンネル≫え、大丈夫なんですか!?
:≪皐月のだらだら探索≫チヒロ、がんば
:≪Stella.C≫こんな大勢の魔物に囲まれる千紘さん……ドキドキがヤバいです!!
俺は据わった瞳で魔物の群れを睨む。
目算、50体。余裕で
まずは前方に展開しているクリムゾン・リザードの群れ。
所詮はレッド・リザードの上位互換。深紅の鱗に黄色の瞳を光らせながら、不格好な武器を持って襲い掛かってくる。遅い。隙間を縫うように切り進んでいき、突破口を作る。
「よし、抜けた」
途端に後方で咲き誇る紅い花。
次、タイラントアント。まぁ一言で言えば馬鹿でかい蟻だ。
「フッ!」
飛び上がり、天井を蹴って急降下。脳天目掛けて一直線だ。
そのまま飛び移り続け、ひたすらワンスタブ・ワンキルを繰り返し続ける。
緑色の体液が迸り、通路を赤と緑に塗れてゆく。
これで半分。残りはスケルトン・ソーサラーにハーピィ、ゴライアスフロッグか。
「はんっ、余裕」
スケルトン・ソーサラーが火球を放ってくるが、短剣で切り裂く。
俺が編み出した無属性魔法、≪
放たれた魔法を吸収し、己の
ハーピィがけたたましい金切り声を上げながら襲い掛かってくるが、逆に魔力を乗せて咆哮する。≪
ゴライアスフロッグは長い舌を伸ばして絡めとろうとしてくる。
けれどその程度で俺は捕まえられないぞ。舌を掴み取ると、思いっきり振り回す。
その質量で吹き荒れる巨躯は、スケルトン・ソーサラーたちをバラバラとなぎ倒し、壁に激突するとトマトのように潰れて死んだ。
「終わったな」
後に残ったのは、静寂と血煙のみ。
心は凪いでいた。先程までの精神的な動揺も疲労もない。
;え
:はい?????
;どういうこと
;は? 何、終わったの?
:あれ全部この一瞬で倒したってマ?
:集団幻覚見てる説ある?
:いーや、まぎれもなく主のやったことだよ
:ちょっと鈍ってたみたいだね、前なら今の半分くらいの時間で終わってた
:≪あやチャンネル≫なんなんですか、今の……
:≪皐月のだらだら探索≫さすがに絶句
双剣に塗れた血糊を振り払い、鞘に納める。
コメント欄はドン引きしてるみたいだな。ま、いいや。
人が減るならそれはそれで、元の平穏が戻るだけだ。
「んじゃ、探索再開すっかぁ」
:いやちょっと待て!!!
コメント欄が一致団結した。
◇◆◇
あれから説明責任を求められた俺は、面倒臭がりながらも簡単に説明した。
属性魔法の適正が無いこと、その代わりに鍛錬し続けた無属性魔法が熟練を超えた極限にまで達していること、配信活動を始めた当初は精神的に荒れていて、よく無茶をしたこと、等々。
それでも納得してはもらえなかったが、理解してほしいと頼んで納めてもらった。
過去の事を思い出すのは、あまり気持ちの良いものじゃないからな。
で、今に至るワケだが──
「着いたな」
;お、ボス部屋
:わくわくすっぞぉ!
:東雲ならもう敵はなし
:さっきの見ちゃった以上心配したくてもできない
;何が出てくるかねぇ
;このダンジョン和洋折衷、色んな魔物が出てくるから予想できないな
:≪皐月のだらだら探索≫チヒロ、帰ってきたらなでなでする権利をさずける
:≪あやチャンネル≫だったら私はハグしてもらう権利です!
:≪Stella.C≫ふぅ……あ、もうボス部屋ですか?
「いや、お前らそれ俺へのご褒美じゃなくて自分へのご褒美じゃん」
:≪あやチャンネル≫ぐふ……ツッコミが容赦ない
;≪皐月のだらだら探索≫いまのは致命傷。いますぐよしよしを所望する
:≪Stella.C≫このコメントは削除されました。
「はぁ……何かもう慣れたわ。慣れって怖いな。へーへー、んじゃちゃちゃっと行きますよっと」
いつもの如くドアを開き、中に入る。
ランタンの炎が蒼く揺らめく、不思議な空間。
それが最初に抱いた感想だった。
まるでゲームの魔王城のような場所。それが現実に存在していたら、こんな形なのかな? と思える空間がそこには広がっていた。
実際、広間の奥には玉座があり、そこに銀髪のイケメンが座っていた。
畜生、なんだか無性にぶん殴りたいぞ。
イケメンだからって調子に乗ってそうやって人を見下したような顔しやがって。
「ほう、まさかここまで辿り着くとはな」
「あん?」
「我が遥か異界の地から飛ばされて73年。貴様が初めての来訪者だ」
俺が心の中でぶつくさ文句を言ってる間に、何か偉そうな言葉を喋ってるなと思ったら、随分気になるワードを残してくれるじゃないの。
「異界の地、だって?」
「そうだ。この惑星とは異なる星、ファリアムという星で、我は魔王として君臨していた。もっとも、忌々しい勇者によってこのような場所に飛ばされてしまったがな」
「マジか……異世界ほんとにあるんだ。え、じゃあ俺も死んだらワンチャンあるんじゃね? いや、どうしよう。でも自殺すんのは怖いしなぁ……」
「……おい、先程から何を独りでブツブツと呟いている?」
「ん? あーごめん、こっちの話。どうぞ続けて」
「……無礼者が」
平謝りすると、この自称魔王サマは何やらつららのような氷属性の魔法を放ってきた。すかさず≪
「貴様、今何をした?」
「よくぞ聞いてくれました、なんて言って手の内を晒す必要ってあるかな? ねぇ、あるのかなぁ?」
「おのれ……ッ!」
自称魔王の魔力が膨大に吹き荒れる。どうやら怒ったらしい。
沸点低いな。……いや、今回の場合は俺が悪いか?
ま、なんでもいいか。
「やるならやろう」
俺は歯を剥き出しにして笑うと、腰の鞘からニライカナイを引き抜いた。
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