第55話 そして深層へ
板橋ダンジョンに潜ってから3時間経った。
中々に濃密な時間だったな。
今は深層へのボス部屋を探して、ダンジョンを探索している。
既に出会ったことがある魔物は全員瞬殺した。
今の同接は1500万人。歴史的瞬間に立ち会えるかもと、リスナーが拡散し、さらにそれでやってきた人が拡散し……と、ネズミ講のような理論で視聴者が増えている。
今なら言えるかもしれないな、いや、ワンチャン燃えるけど……。
俺は意を決して聞いてみることにした。
「なぁ、もし皆が事前知識ナシでグラトニーに会ったらどうする?」
;全力で逃げる
;そりゃ逃げるでしょ
;見た目からしてヤバいから逃げる
;俺は遠距離職だからとりあえず攻撃して様子見る
;俺も概ねそんな感じかな、相手の出方次第
;逃げ一択だなぁ
「だよな、俺もそう思う」
やはりほとんどが逃げるという選択肢を選んだ。
俺もそうすると思うし、何なら誰だってそうするはず。
:なんで急にそんな質問したの?
:なんか気になることあった?
;難しい顔してるね
;なんか気になるなら聞いてみなよ、こんだけ人数いたら誰かしら応え知ってるかも
「確かにそうかもな。……いや、なんで『
俺は素直に自分の心の中に渦巻いているモヤを吐き出す。
「ハッキリ言って、グラトニーは弱い部類の魔物だと思った。確かに一撃一撃は即死級だけど、動きは緩慢だし視覚も嗅覚もないからさ」
;たしかに
;弱点だってパーティ組んでれば打ち合わせして同時に倒せるしな
;弱点とか知らない段階だったらけっこう苦戦するだろうけど、実際『
;あんな優秀な人材が揃ってて全滅はたしかにおかしいかも
;普通逃げるよな
「そう、そこなんだよ。だからさっき皆に訊いたワケ。仲間を殺られて憤る気持ちはわかるけど、優秀なパーティなら必ず一時撤退を選択するはずなんだ。それがどうして壊滅なんて結果になったのかな? ってずっとモヤモヤしてたんだ」
;うーん
;今までは話で聞いただけだったからヤバい魔物なんだなって思ってたけど、東雲の戦闘シーン見たらたしかに違和感あるわ
;それな
;うん
;だよね
;何か逃げられない理由があったとか?
「例えば?」
;退路もモンスターがいて囲まれてたとか
;ってかそれくらいしかなくないか?
;たしかにそれなら納得できる
;そう考えるとかなり悲惨な目に遭ったんだな
;ジリ貧だもんな、絶望も大きかったろうに
;かわいそう
「なるほどなぁ」
それなら納得できる。レッド・リザードやカトブレパス、ミノタウロスにサテュロスが血の匂いに釣られてやってきたのなら。俺でも死んでいた可能性がある。
「おっ、ボス部屋発見だ」
納得したところで、禍々しい門が聳え立っている。
骸骨模様に、傍付きの槍の紋章が彫られている。
「ん、なんか文字が書かれてるな……」
いつぞやのダンジョンのように、不明な言語が書かれていた。
早速ルーペで解読してみるか……。
『コノ扉開カレシ時、破滅ガモタラサレルデアロウ』
……え。
なんじゃそりゃ、めっちゃ怖いんですけど。
「な、なぁ諸君?」
:なーに?
:なーに?
;どうしたの?
;どしたん話聞こか?
;なんかヤバいの書かれてたか
「いや、それがさ……『コノ扉開カレシ時、破滅ガモタラサレルデアロウ』って書いてあるんだわ……」
しーんと静まり返る空間。
コメント欄も何故か停止している。
まるで、自分だけが静寂に残されたようだ。
「お、おーい、みんな生きてる?」
;生きてるよ
;生きてる
:ここにいるよ
;大丈夫
「あ、良かった良かった。で、皆はこれどう思う?」
;≪皐月のだらだら探索≫いっちゃえごーごー
;皐月ちゃんワックワクで草
;≪Nagi≫まぁお前ならなんとでもできるだろ、いいんじゃね?
:≪Taiga≫ぼ、僕は師匠の決断を尊重します!
;師匠てwww
:【速報】皇少年、弟子入りする
:草
;≪あやチャンネル≫わ、私はやめておいたほうがいいかなー、なんて……
;まぁ何が出てくるか分からんもんな、こわいのは事実
:お、保守派もいるか
;わいも保守派
;≪Stella.C≫私もやめておいた方が良いと思います~
「むぅ、意外と反応が分かれてるな……」
俺は頭を抱えて唸る。
確かに、何が来ても俺なら何とかできる自信は付いた。
だが、その一方でもし何か間違いが起きたら……と思うと、二の足を踏んでしまう。
;コイントスで決めたら?
「それだ!!」
天啓のように舞い降りたコメント。
そうだ、迷ったときはコイントスで決めればいいんだ。
コメント欄には若干戸惑った反応を示すものもいるが、俺はもう決めた。
「それじゃあ表が出たら開ける。裏が出たら帰る。それでいいな?」
:オーケー
:いいよ
:やってみせろよ東雲!
:がんばえー
;ドキドキするな
コメントを確認した俺は、100円玉を弾き──
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