第52話 白騎士
そこは、ピラミッドの上のような場所だった。
といっても三角形じゃない。四角い正方形の頂点だ。
空は夕方の茜色に染まっていて、それが今いる場所を荘厳で優美な景色になっていた。
中央に意識を向ける。
そこには、全身を純白の甲冑を着た騎士が座っていた。
「やぁ」
白騎士は気さに挨拶してくると、こちらに来て座れとジェスチャーしてきた。
まぁ、今のところ敵対心はないようだから構わないか。
俺は白騎士の目の前に行くと、ある疑問を述べた。
「あなたはまさか、『
『ご名答。もう十年近く経つのに覚えてくれている人がいるとは嬉しいな』
「やっぱりか……なんでこんなところに……?」
『僕たちが死んだあと、僕たちの魂は捕縛されたんだ。ダンジョン側の駒としてね』
「それじゃあ、その……ずっとここに?」
『そうだよ。僕からも質問していいかな。外の世界は──地球はどうなった?』
平助の返答に、コメント欄が かつてない速度で流れていく。
これまた難しい質問が来たな。
「良くも悪くもって感じですね。ダンジョン産業はどんどん大きくなっていますし、探索者の数も増えています。けど、ダンジョン側もダンジョン側で新たな機能を追加したりして、てんやわんやですよ」
『そうか。それはよかった』
平助は満足そうな顔をして、爽やかに笑う。
『それにしても、君はここに独りで足を踏み入れたのかい?』
「はい、今日はソロですよ」
『アハハハハ! そうかそうか、今はこんなに将来有望な子もいるんだね』
その優しい瞳に吸い込まれうになったが、かろうじて耐える。
『そう言えば少年、君の名前は?』
「チヒロ……チヒロか、うん、良い名前だね」
平助はゆらりと立ち上がるとおもむろに剣を抜き払う。
それを見た俺も、腰からニライカナイを抜いた。
『すまない、チヒロ。僕は本当はもっと君と話したかった。けれど、ダンジョンの性質には抗えなんだ』
「別に構わないですよ、俺たちは剣でも会話できますか、らッ!」
そう言って俺は平助に急接近すると、目にも止まらない速度で乱舞を繰り出す。
『凄い力だな……いったいどれだけの鍛錬を積めば、ここまで?』
「さあ、覚えてはいませんが平助さんに憧れて毎日訓練に明け暮れていたら、こうなってました」
『そうか。それは光栄だなっ1』
平助は足払いをしながら上半身に剣を突き立てようとしていた。だが、俺はそれを避けて、さらにニライカナイを盾にするようにクロスさせ、剣での攻撃を防いだ。
『素晴らしい観察眼だ! 君と戦っているとあの頃のことを思い出すよ』
「ハハハ、今でも結構きついんで、これ以上本気出されたら俺多分やばいっス」
『また面白い冗談を……どうせ
そう言うと、平助の剣筋が変わった。
先程までの剣筋を「舞」と例えるのならば、今の剣は「殺陣」だ。
本気で殺しに来ているのが直感で分かる。
それにしてもニライカナイは凄い。軽い力でさえ、平助の剣を易々と弾き返せる。
なら、俺も一転攻勢に出させてもらおうか。
平助が剣を横薙ぎに振るったタイミングで思い切り弾き返し、そのタイミングでがら空きになった平助の左の腹を突き刺そうとする。が、これは流石に半身を躱されてしまう。だが、
「グゥッ!?」
平助は自分の腹に深々と刺さったナイフをまじまじと見つめる。
簡単でお粗末な戦法だ。平助の剣をパリィしたあと、左の剣で攻撃するだろうと思わせて、回避行動を取った瞬間に右手のナイフで刺した。ただそれだけのこと。
この取り回しのしやすさと手数の多さがいいんだよな。
俺は情け容赦を一切かけず、平助の体に刺さった短剣を思いっきり横に引き裂いた。
『ぐあああああっ!』
平助は苦悶の声を上げると、地面に倒れ伏した。
『強いな、君は』
「いや、平助さんに比べたらまだまだですよ。俺は姑息な手段しかつけないのでね」『それも立派な戦い方だよ』
「そういうもんですかね……」
『そうさ。……どうやら、流石にお迎えがきたようだ』
「平助さん。俺、平助さんたちの仇絶対つけますから。安心して眠ってください」
『ああ、ありがとう、チヒロ君……最後に君とあえて、本当に良か…………』
そう言って、平助は事切れた。もう二度と、フロアボスとして出てこないよう祈ろう。彼の魂が、安らかに眠っている仲間たちの元に辿り着けますように……。
:まさか人間がボス役やらされるとか;;
:なかなか精神的にきつい話だったな
:それも全部ダンジョンってやつのせいなんだ
;いよいよ下層か……
;正直、もう充分いい戦い見せてもらったからここまででもいいんだぞ
「そういうわけにもいかんだろうよ、平助さんとの約束もあるしさ……」
俺は約束はきっちり守るタイプだ。
だからこそ、このダンジョンを制覇して彼らの無念を晴らしてみせる!
もうここからは出し惜しみはなしだ。持てる力全てをぶつけてやってやる。
俺はニライカナイを握りしめて、下層への階段を降りていった。
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