三つの言葉

ゆきすずめ

君と夏を終わらせる

「海、行きたいね」


細くなった指を絡ませながら君が言ったから。僕らは今、海にいる。


波が唸り声をあげ、僕を責め立てる。風が一層強く吹き、腕の中にいる彼女の髪を踊らせた。


初デートの時にも着ていたお気に入りの白いワンピース。その裾がぶわっとひろがって、黒く濁った海に浮かび上がるその様はまるで白百合みたいだ。


日は陰り、空には入道雲が広がっている。もうすぐ雨が降るだろう。大きく、ゆっくりと息を吸う。肺いっぱいに満たされた潮の香りに、脳裏にこびりついた白い部屋と消毒液の匂いが洗い流されて消えていく。


空も、海も、ちっとも綺麗じゃない。彼女が望んだ海はきっとこれじゃなかった。それでも、どうしても叶えてあげたかったから。


だって海の青が好きだと言った彼女の瞳は二度と海を映さない。こんなにうるさい風の音も彼女には届かない。それなのに。


「ごめん。最後ならもっと綺麗な海がよかったね」


腕の中に視線を落とすと、僕の声が彼女に届いたのか、彼女が微笑んでいるような気がした。冷たい頬にそっと手を滑らせる。彼女が笑ってくれるなら、それだけでもう充分だ。


また一歩、僕らは海の中を進む。僕らの最後の夏が、今終わろうとしている。












◆◆◆◆◆

最後

入道雲

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