七 嘘つきたち


 部屋に帰った彩乃は、まず侍女を追い出した。そして、遠見の魔法を展開して、春宮を映し出した。

 あの一瞬、こちらを嗤った春宮のことが気になっていた。

 画面の中の春宮はまだ兄と一緒にいた。もう野次馬は散っている。

「ごめんね、春宮さん。せっかく来てもらったのに・・・」

 謝る兄に春宮は気にしないでほしいと声を返していた。あの見せしめについては言及しないまま、春宮は兄と別れ寮に戻ってきた。

 春宮に侍女はいないようで、部屋は彩乃のものと比べて格段に狭い。

 彼女は扉を閉めて、すぐ拳を固く握り、喜びの声を上げた。

「やった! 賭けに勝った! 彰人さんは完全に落としたでしょうこれ。これで早乙女彰人ルートはOKかな? 次は恭輔君を攻略しようかなあ。大分好感度高められてる気がするし。有栖川先輩たちは難しそう。先生枠は藤峰先生かな」

「この世界に転生したときはどうしようかと思ったけど、乙女ゲームっぽいし良かったあ。あとは私を愛してくれて、格好良くて、将来有望な子に嫁げれば、きっと幸せになれるよね? 乙女ゲームっぽいし」

「ふふふふ、誰にしようかなあ」

 春宮のセリフの半分も分からなくて、彩乃は首を傾げる。何を言っているんだろう、この子は。

 思いがけない春宮の姿に彩乃は瞬きを繰り返す。

 春宮はベッドに寝転び、身悶えながら、なおも続ける。

「悪役令嬢の子がたまに会った時の嫌味ぐらいしかしてこなかったから、どうなるかと思ったけど、何とかなって良かった。今回で退場になるかと思ったけど、そうでもなかったっぽいなあ。まだ時期が早いのかな。まだ夏だもんね。そういうのって卒業式の時だし」

「にしても、あの悪役令嬢、彩乃ちゃんだっけ? 初期から嫌われすぎじゃない? 確かに嫌な子だったけど、こういうのって初期は好かれてるものじゃなかったっけ?」

 自分の名前が出てきたことで彩乃は我に返った。

 彩乃は頭の中で情報を少しずつ整理する。

 ゲーム・・・この子は現実のことを遊戯だと思っているらしい。そして周りの男性を攻略するつもりらしい。そんな遊戯聞いたこともないけれど。名前が上がっていたのは義兄に椎名恭輔、有栖川双子、藤峰先生。

 何を基準でそうと思っているのかは分からないが、注意していたほうがいいだろう。

 それから私のことを悪役令嬢と呼んでいた。これも意味がわからないな。・・・退場とは何を指すんだろうか? 学園からの退場、退学か?

 考えたところで分からないことだらけだった。

「彩乃様、よろしいでしょうか?」

 ノックの音がして、咄嗟に遠見の魔法を消す。

 彩乃は春宮をこれまで以上に注視することを決めて、侍女を招き入れた。

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