番外編 カンツォーネの両親の子供時代

 あたくしは、鈴木すずき氷雨ひさめなのでござる!

 一人称は「あたくし」のがござる口調。

 属性は、水。

 身長は、150センチ代。血液型は、O型。

 自他ともに認めるくらいの貧乳で、服の上からでは見えない。

 髪は緑髪で、二本の三つ編みにしている。

 嫌いなものは勉強、学校。

 夏生まれ。

 セーラー服に、赤いリボンで、セーラー服の上に、鮫のパーカーを着ている。

 黒のタイツの上に、ニーハイブーツをはいている。

 好きな動物は、鮫。


 あたくしは、水の聖女として選ばれた。

 選ばれた理由はわからないけど、とにかく選ばれた。


 あたくしの日課と言えば、炎の聖女であるカンナの野郎と、喧嘩することだった。



「おい、今、カレーパンとろうとしてないか?」


「したでござるよ」


 そのせいか、あたくしは女子を敵に回し、学校に友達がいない。

 そういえば、ギャルとかは気に入らないから「見え張っているのか?」とちょっかいかけて、太っている人の体型のことを言い、そいつとも喧嘩になった。

 

「カレーパンは、あたくしも食べたいのでござる。

よこすでござるよ」


 学食のカレーパンは、あたくしの物。

 というか、学校の物は、すべてあたくしの物。


 女子は、仲良くグループを作るけど、馬鹿じゃないかと正直思っている。

 

 カレーパンはこうして揉めている間に、男子にとられることになった。


 あたくしは、よく学校で「チビ」とか「ド貧乳」という誉め言葉を受ける。

 風が当たるみたいに、痛くない。


 あたくしには、甥っ子がいて、それがなぜかあたくしと同じ名前のひさめ君。

 緑色の髪を、一本の三つ編みにしている。

 あたくしの姉の方の息子だから、苗字は「鈴木」ではない。


「叔母さん、学校でも、そんな鮫のパーカーを着ているの?」


「悪いでござるか?」


「悪いっていうか、学校の校則で、だめじゃないの?」


「ひさめ君よ、生きるための手段を教えようなのでござる。

校則を、守る必要はないのでござるよ」


「え、どうして?」


「自分らしく生きるために必要なのでござる」


「叔母さんは、自分勝手に生きたいだけじゃないの?」


「うむ、よくぞわかったのでござるね」


「わかるも何も、いつもやっていることじゃん!」


 あたくしは、こうして甥のひさめ君と過ごすことが多い。


 そして、女ヤンキーと喧嘩してくるものの、真っ先に負けて、傷だらけで帰ってくる。


「叔母さん、その傷、どうしたの?」


 ひさめ君が、あたくしの方に駆け寄ってきた。


「人生、いろいろなことがあるでござるよ」


「かっこよくない!」


「ひさめ君、これから魔王退治に向かうのでござるよ」


「叔母さん、それ、本気なの?

すごく危険だと思うけど」


「いいのでござる。

あたくしは、試練を乗り越えてこそ、真の乙女に近づけるのでござるよ」


「真の乙女って言うけど、魔王退治はちょっと違う気が・・・・」



「ひさめ君も、向かうのでござるよ」


「なぜ、俺も?」


「あたくしのかっこいいところを、甥にも見せたいのでござる」


「喧嘩に毎回、負けるやつにできるか!」


 こうして、あたくしとひさめ君は、一緒に魔王のいる城へ向かった。


「囚われのお姫様を、助けたいと思っているのでござるよ」


「へえ、叔母さんにも、人助けをしたいなんて思うことあるんだあ」


 城に向かい、魔王討伐が目の前にしたら、まず最初にやることは・・・・・。


「トイレに行くのでござる」


「魔王討伐を目前にして、タイミング悪いわ!」


 こうして、あたくしは何時間もトイレにこもり、魔王の部下たちはトイレに行きたくて、行列ができた。


「増えてるー!」


 魔王の城には、トイレが1個しかないため、一人がこもるとみんな入れない。


「魔王の城に、トイレ1個しかないって、どういうことだよ!?


しかも、叔母さん、トイレ何時間こもっているの?」


「12時間はこもるつもりなのでござる」


「そしたら、魔王退治に行くな!」


 あたくしが、トイレに出たころには、部下たちのトイレの前に行列ができていた。


「叔母さん、お姫様は助けに行かないの?」


「行くでござるよ、1年後に」


「それじゃ、遅いの!」


 こうして、魔王を目の前にした。


「残念でござるね、魔王。

貴様の部下は、便意と尿意で倒したのでござるよ」


「そんな方法があったんかい!」


 魔王が、静かに不気味に話した。


「部下を全制覇できたことは、褒めてあげよう」


「戦ってすら、いないのに!?」


「だが、このわしを倒せるとでも、思えるのか?」


「うん、無理だと思うのでござる」


「はっきり、言っちゃたよ!」


「姫を助けにきたつもりかもしれないが、今まで生きて帰れた人はおらぬぞ」


「え? じゃあ、生きているうちに帰ろうでござるね」


「そういう問題じゃないよね!」


「貴様、勇者の盾も、剣も、鎧もない中で、どう戦うつもりだ?」


「甥を盾にして戦うでござる!」


「最低だ!」


「貴様の根性は、認めた」


「根性なんて、あったけ!?」


「わしの恐ろしさと強さを、ここで思い知らせてやろう」


 魔王が、椅子から立ち上がった。


「やばいよ、叔母さん、どうするの?」


「いくら、魔王でも、無敵ではないのでござる!」


「必殺・・・・!」


 と、あたくしは決めポーズをしたけれど


「技はないのでござる!」


「まぎらわしいことをするな!」


 そこで、魔王が「痛い、痛い」と苦しみだした。


「効いている!?」


「残念だったでござるね、観念するのでござるよ」


「君、何もしてないけど?」


「貴様、これでわしを倒したつもりか?」


「はい、なのでござる!」


「自身満々に言うな!」


「貴様、わしの真の恐ろしさをわかっていないな?」


「そんなもの、わかるわけないでござるよ」


「堂々と、言うところじゃないから・・・」


「わしの真の恐ろしさは・・・・。


わしの真の恐ろしさとは・・・・。


何なのかわからないから、教えてくれぬか?」


「教えられないのかい!」


「実は、世間から恐れられてはいるものの、みんなが何に恐れているのかわからないのじゃ」


「これで、魔王やっていたんかい」


「よかろうでござる。


あたくしが、教えてあげようでござるよ」


「さっき、わからないって言ってなかったけ?」


「恐ろしさを作れば、いいのでござる!」


「話の論点から、ずれているよ!」


「おお・・・・!


何が言いたいのか、さっぱりわからない・・・」


「魔王も、理解してなかった」


「だけど、貴様の一言に、心を救われた。


ありがとう」


「救われるようなこと、あったけ?」


「だが、おしゃべりは終わりなのでござる!」


「それは、魔王が言うセリフだから」


「ここで、決着をつけるでござる。


水の・・・・」



「痛い、痛い、痛い!」


「まだ、呪文唱えていないけど!」


 ここで、あたくしは「覚悟するでござる!」と魔王めがけて、突進しようとしたけど


「外しているー!」


 壁に当たってしまった。


「痛い、痛い、痛い」


「攻撃、当たってないじゃん!」


「もう無理だ・・・・。


救急車を呼ぶ・・・」


「魔王も、救急車頼るんだ」


 こうして、魔王が病院に電話して、救急車に来てもらい、運ばれた。


 その様子を見た部下たちは・・・・


「よくも、魔王様を!」


「俺たちがいない間に、こてんぱにしてくれたな!」


「そもそも、叔母さん、何もしていないけど!」


「部下がトイレから戻ってくるとは、あたくしの計算が甘かったでござるか」


「それ、計算だったの?」


 こうしている間にも、あたくしとひさめ君は、たくさんの部下たちに囲まれた。


「叔母さん、これどうするの?」


「知らないでござる、自分でどうにかするでござるよ」


「そもそも、これ、叔母さんがやったことだから、叔母さんがなんとかしてよ」


「ここまででござるね」


「叔母さん?」


「この状況はさすがにやばいよ、叔母さん。


どうするの?」


「それは・・・・」


 あたくしは、水の聖女。

 聖女ということは、ここで出番ということになる。


「アグアシャワー!」


 あたくしは、天井から水を具現化させ、周囲の部下たちに、水のシャワーを浴びせた。


 部下たちは、一目散に逃げだした。


「すごいよ、叔母さん。


で、肝心のお姫様はどうするの?」


「決まっておるのでござるよ。


そのまま、助けに向かうのでござるね」


 二人で、お姫様がいる牢獄へ向かった。


 すると


「ほう、助けに来たか」


 牢獄の中にいたのは、四人のお姫様。


 一人は、サングラスにアフロヘアーのお姫様。

 身長は、160センチ代。


 サングラスをかけている、リーゼントのお姫様。

 身長は、170センチ代。


 サングラスをかけている、スキンヘッドのお姫様。

 身長は、180センチ代。


 サングラスをかけている、坊主頭のお姫様。

 身長は190センチ代。


「これ、本当にお姫様なの!?」


「お姫様でござる、多分」


「多分!?」


 ここで、坊主頭のお姫様が喋りだした。


「ここにとらわれているなら、お姫様さぜ。


バカにすんな、おら!


牢屋ぶち壊すぞ!」


「牢屋ぶち壊せるくらいの怪力があるなら、壊そうよ!」


「おらたちだって、夢みる乙女だ、コラ!


誰か、助けに来てくれることを期待したいことくらい、わかんないのか!」


「こんなお姫様なら、助けなきゃよかった・・・・」


「今すぐ、助けてやるでござる。


ただ、助け方はわからないでござるが・・・・」



「助け方、わかんなかったの!?」


「適当に助けろ、地面にたたきつけられたいのか?」



「これ、助けてもらう側の態度じゃないよね?」


「うーむ、これは難しいのでござるね。


鉄格子が、頑丈に作られているのでござるな。


これは、諦めるしかないのでござる!」


「なんのために、ここまで頑張ってきたんだ?」


「だが、ひさめ君よ、諦めるではないでござるよ。


諦めなければ道は開けるでござる」


「叔母さん・・・・」


「アグアシャワー」


 牢獄の天井の方から、水が湧き出てきて、四人のお姫様に降りかかった。


「痛い、痛い」


「思いっきり、攻撃しているー!」


 こうして、四人のお姫様は、あまりの痛さに耐えられなくなり、自分から牢獄を出た。


「てめえよ、よくもやりやがったな。


覚悟しとけ」


「魔王や部下の次は、お姫様との戦闘でござるか。


気が抜けないでござるね」


「助けるどころか、恨み買うことばかりしてる・・・・」


「アグアシャワー」


 ところが、坊主頭のお姫様が、素手のみで全ての水を跳ね返した。



「そんな、アグアシャワーが・・・」


「二度も、同じ技を受けるかっつのー」


「さすが、姫よ、学習能力が高いのでござるね」


「姫をなめんじゃねーよ」


「これ、お姫様じゃないよね?


こんなことになるなら、最初から助けに行かない方がよかったんじゃ・・・・」


「姫として、おらは様々なことを耐えてきたんだ。


我が王国の、お城を壊せるくらいの修行とか」


「それは、お姫様のやることじゃない」


「あたくしも、それなりの修行をしてきたでござるよ。


引きこもり生活とか」


「それは、何の修行でもない!」


「ほう、なかなかの努力じゃねーか」


「それ、努力なの?」


「努力は、努力でも、おらは、姉のための頑張りだった。


おらは、第四王女で生まれ、様々な我慢をしてきた。


第三王女が、少しでもお嫁に行けるようにするために、あたくしはこんな髪型に・・・・」


「姉三人の髪型も、お嫁に行きにくい髪型だと思うけど・・・・」


 坊主頭のお姫様からは、涙がこぼれていた。

 口は悪いかもしれないけど、きっと、様々な我慢をしてきたのだろう。


「あたくしも、この髪型でいるのは、三つ編みをするためだったのでござる。


あたしは、小さい頃はショートヘアーだったんだが、水の聖女として選ばれてしまい、そのために髪を伸ばすことになったのでござるよ」


「てめーも、それなりの使命があったのか?」


「君が第四王女としての使命があるように、あたくしも、聖女のための使命があり、自由を規制されることもあったのでござる。


髪を切っては、いけないとか。


聖女たちは、そのために髪を伸ばし、三つ編みもそうだし、縦ロールにしている子もいたのでござるよ。


だから、髪を自分の好きなようにできない。君の気持ちが痛いほどにわかるのでござる」


「髪を切れないのと、坊主にされるのとでは、全然違うのでは?」


 あたくしも、水の聖女として、耐えなくてはならないことがある。


 それは、お姫様も同じのはず。

 お姫様で生まれるということは、それ相応の責任があり、好きなようにヘアーアレンジができないこともある。


 それは、同じ女として生まれてくれば、あたくしにも、わかるんだ。


「おらは、間違っていた。


自由を規制されることに嫌気をさしていたんだ・・・・」


「姫は、生まれながらにして姫でござる。


だから、生まれた時から、自由がないなんて、あたくしはもっと辛かったと思うのでござる」


「叔母さんは、自由な生活しか送ってないと思うけど?」


「第一王女は、アフロにしなくてはいけなくて、


第二王女は、リーゼントにしなくてはいけなくて、


第三王女は、スキンヘッドに刈られ、


第四王女は、坊主頭。



女の子で生まれるなら、自由な髪型にしたい・・・・」


「甘えるなーでござる!」


「今のは、ひどくない?」


 あたくしは、じゃんけんで言う、無敵チョキの形を右手で作り、「水鉄砲」と唱え、右手の人差し指から、水を放ち、お姫様に当てた。


 坊主頭のお姫様は、どこかへ吹っ飛んでしまった。


「やっつけちゃうの?」


「第四王女」

 と、心配するお姫様三人だったが、


「君も、同罪でござるー!」


 と、「水鉄砲」と、お姫様三人を吹っ飛ばした。


「これで、事件解決でござるな」


「最初のお姫様を助けるという、目的はどうしたの?」


 こうして、事件は解決し、あたくしとひさめ君は、無事に家に帰ることができた。



 ある日の学校帰りの出来事。


「君が、鈴木氷雨か?」


 謎の男性が、目の前に現れた。


「誰でござるか?」


「僕は、カムイ。


カンナの甥だ」


「カンナって、火の聖女の?」


「カンナの叔母から、聞いたぞ。


たくさんのことを、やらかしているみたいだな」


「たくさんのことでござるか?


はて?



何を?」


「とぼけても、無駄だ。


カンナから、聞いているんだ」


「カンナの野郎の給食を、食べてしまったことしかないでござるよ」


「それを、やらかしたと言っているんだ!」


「それで、あたくしを、どうするつもりなのでござるか?」


「当ててみるんだ」


「カムイと、カンナが付き合ったという報告で、ござるか?」


「僕とカンナは、甥と叔母だ!


付き合うわけがない!」


 ヒントもなく、これから何をするとか、当てるのはあたくしにはどう考えても無理だ。


 あたくしは天才でもないし、予知能力者でもない。


 考えてみても、答えは出てこない。


「勘違いしてほしくないのは、あたくしはカンナに謝る気はないでござるよ。


カンナが悪いって言ったら、悪いでござる」


「君が、謝ってくれるとか微塵も思ってもいない。


聖女討伐戦があるって話だが、君に優勝してほしくないんだ」


「聖女討伐戦?


そんなもの、あったでござるか?」


「一体何なんだ、この女は?



聖女討伐戦で、誰が真の聖女として選ばれるかの討伐戦があったろ。


その討伐戦を受けるまでは、聖女候補なんだよ」


「何!?」


 そういえば、そんな話があったような、なかったような・・・・。


「どうでもいいから、覚えてなかったでござる」


「どうでもよくないって!


この討伐戦が終わるまで、聖女候補なのであって、聖女じゃないんだ!


甥のひさめには、ちゃんと事情を伝えたのか?」


「あたくしは、聖女として選ばれたと伝えてあるでござる」


「こんなんで、よく聖女候補としても、選ばれたな・・・」


 あたくしは、こうして、カムイと一緒に、異世界で行われている聖女討伐戦に向かった。


 カムイは、送り届けてくれただけで、そのまま姿を消した。


 たくさんの属性を持つ聖女の中には、すでにカンナの野郎もいた。


「あら、遅かったではありませんの?」


 カンナの野郎の生意気と思われる言葉をかけられたとしても、そんなことはあたくしは風が当たるかのように痛くない。


「遅くくることが、ヒーローの心得なのでござる!」


「いえ、ヒーローは早く来てこそですわ」


 あたくしと、カンナの喧嘩が始まろうとしていたところに、司会者が現れた。


「聖女候補のみなさん、聖女討伐戦に来ていただき、ありがとうございます!


さっそくのところ、ビキニに着替えております」


「ふざけんなですわ!


ビキニなんて、持ってきておりませんのよ」


「大丈夫です。


ビキニは、こちらの方で用意してあります」


 司会者の方がさし占めす方向に、たくさんのビキニが置いてあった。


 聖女たちが、一斉に駆けつけた。


 あたくしと、カンナも駆けつけたけれど、あたくしのサイズがなかった。


「あたくしのサイズがないでござる」


「あーしのサイズもないですわ、司会者、これはどういうことですの?」


「これは、サイズはAカップからℤカップまで用意してありますが、お二人のサイズは何カップでしょうか?」


 ここで、あたくしとカンナは司会者に文句を言うことにした。


「Aカップか、ありもしないℤカップはあるのに、それより小さいサイズがないって、どういうことですの?」


「Aカップもないあたくしたちは、どうすればいいのでござるか?


まさか、すっぽんぽんで参加してほしいのでござるか?


それなら、脱ぐでござるよ?」


「やめてください。


とにかく、サイズさえわかれば、ちゃんとビキニは用意いたします。


それよりも、Aカップよりも、小さいサイスがあるなんて、あなたたちは何カップでしょうか?」


 あたくしと、カンナはほぼ同時に答えた。


「AAカップでござる!」


「AAAカップですわ!」


 ここで、カンナとあたくしは、再び喧嘩になる。


「どうして、あーしより大きいでござるか?」


「君こそ、この年齢で、このサイズはありえないでござるよ。


発育不良でも、起こしているでござるか?」


「Aすらもない人に、言われたくないですわ!」


「二人とも喧嘩しないでください。


ほら、二人に合う水着も用意しました。


女子更衣室で着替えてください」


 あたくしと、カンナは水着をもらい、女子更衣室で着替えた。


 絶対、カンナには負けない!という闘志を燃やしながら。


 あたくしと、カンナや、他の聖女たちも、水着で挑んだけれど、第一試験で落ちてしまった。


「頼むから、もう一回チャンスをくれるでござるか?」


「あーしからも、お願いしますなのですわ」


 あたくしとカンナの二人で、司会者にお願いをしたのだけど、


「悪いけど、これは決まったことなんです。


それを、変えることはできないです」


「そんななのでござる。


何が、悪かったでござるか?」


「申し訳ないけど、水着の第一段階で、受けがよくないと、突破できないんだ」


「納得できませんわ!


どうしてくれるんですか?」


「こればっかりは・・・・、申し訳ありません。


聖女討伐戦は、わたくしの先祖の代から伝わるものでして、それを覆すことなんてできないんです」


「そうなのでござるか。


たしかに、ご先祖様の代から、引き継いできたものを変えることは、申し分ないことでござるな」


「氷雨!?」


 カンナは、納得がいかなそうだけど、あたくしは仕方がないと断念せざるをえないようにも感じた。


 今から決まったことなら、文句次第で変えられるかもしれない。

 だけど、ご先祖様のこととなると、話が変わってくる。

 今、ここでルールを変えてしまうと、後々が厄介なことになってくる。


「あーしは、聖女としての人生をまっとうするために、頑張ってきました。


頑張って、頑張って、頑張って、何をどうしていいのかわからなかたのですわ!」


「頑張っていたか、迷っていたか、どっちなのかはっきりしてくれませんか?」


 司会者が、ツッコミを入れた。


「とにかく、聖女としての道はないから・・・・」


 この言葉は、絶望でしかない。

 今まで、聖女になるために頑張ってきた理由が、何だったのかわからなくなってしまった。


「おふざけこそが、生きがいなのでござる・・・・!」


「氷雨、どうしたのですか?」


 カンナにしては、珍しく心配している様子だった。

 だけど、あたくしは、そんなことにかまっている様子はない。


「あたくしは、今まで頑張ってきたのでござるよ。


これからも、今日も、こうして・・・・・」


 あたくしは、言葉につまっていた。

 本当にやりたいことを見つけられても、それが不可能だと否定されたことが、言葉にできないくらいの絶望的な気持ちでしかなくて。


「あたくし、鈴木氷雨は、何も果たせなかったでござるが、でも、これは負けではないのでござる」


「氷雨?


どういう意味か、わかっているのですか?


聖女になる道は、なくなったのですわ」


「なくなっていないでござるよ。


自分で、聖女だと思えば、立派な聖女なのでござる・・・・」 あたくしは、水の聖女の討伐戦に負けてしまった。

 親とは不仲、そして、姉には住まわしてもらっている形で、あたくしは無一文の状態となるだろう。


「よく頑張ったでござるな」


 どこからか声がしたかと思うと、目の前にいたのは、佐藤君。

 鮫のパーカーを着た、緑髪の佐藤スズキ君という、あたくしの幼馴染だった。


「佐藤君・・・・?」


「強くなれなくても、水の聖女になれなくても、頑張ったでござるな。


これからは、ずっと一緒にいようでござるよ」


 あたくしは・・・・、あたしは泣いてしまった。


「ずっと、ずっと、頑張ったでござる・・・・!


頑張ったんだよ・・・・。


佐藤君に会いたくて、あたくしは強くなりたくて・・・・・。



あたしが、ここで負けたら、佐藤君に会えないんじゃないかって、ずっと・・・・・」



「君には、幸せになってほしいでござるよ。


わたくしに守られてばかりでいいでござる。


だから、わたくしと結婚しようなのでござる」


「うん、あたしはずーと、佐藤君だけが、スズキ君だけが大好き・・・・」


 水の聖女にはなれなくても、あたしは、スズキ君と再会することができた。


 この10年間、あたしは幼馴染と再会することのためだけに頑張ってきた。

 だから、強くなれなかったら、聖女討伐戦に負けたら、終わりと思っていたけれど、向こうから会いに来てくれるとは思わなかった。


 あたしと、スズキ君は二人になれた。

 

 あたしは、ひさめ君にある日に会いに行った。


「叔母さん、しばらくどこに行ってたの?


帰ってこなかったから、心配したよ」


「ごめん」


「叔母さん、鮫のパーカーは?


しかも、その髪の色・・・・。



いつもと、話し方が違う・・・・」


 あたしは、元の黒髪黒目となり、鮫のパーカーも着なくなり、話し方も普通に戻っていた。


「今まで、ありがとう、ひさめ君。


あたしは、これからは旅に出るよ」


「出るって・・・・?」


「あたしは、婚約者ができたの。


だから、同棲しようと思うからさ、ずっと一緒にいてくれてありがとう」


「そんな、急に?」


「ほんと、急だよね」


「叔母さん、なんか落ち着いてない?


何があったの?」


「なんでもない。


とにかく、ありがとう。


また、何かの縁があったら会おうね」


 あたしは、ひさめ君に挨拶をしたら、すぐに姿を消した。


 あたしの人生は、鈴木氷雨ではなく、佐藤氷雨としての人生が始まろうとした。

 まだ、結婚できる年齢でもないから、これから先の話だけど、まずは高校を卒業しよう。

 話はそこからだ。


 そして、両親に反発して、家出したことを謝ろうと今のあたしなら思える。

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