番外編 真の従姉

 私は、歌小かこ


 いつも通りに電車に乗っていると、「次は魔の駅」というアナウンスが聞こえた。 

 そんな駅、聞いたことない。

 もしかして、乗り間違えた?

 

 乗り換えなきゃ。

 あれ?

 他に電車に乗っている人がいない。


 目の前には、イケメンの男の人がいた。

「めちゃくちゃ、かわいい子がいる」


 「かわいい」なんて、言われたのいつぶりだろう?

 

「俺の嫁にならないか」

「結構です」


 会ってそうそう、イエスと返事するわけがない。

 というか、この人、どこかで見たことある気がするんだが、思う出せないからいいや。


「そうか、俺は気に入っているんだ」

「いいです。

私、急いでいるので」

「急ぐ必要とかないだろ。電車は君が、了承してくれるまで止まらないんだし」

 

 あれ、本当だ。

 止まる様子がない。


「俺は、君が好きになった。

だから、結婚してほしい」

「いえ、私、そんな年齢でないので」  


 この人、明らかに変な人。


「ふうん、俺のことを好きだと思っていたのに?」

「人違いだと思います。

第一、初対面ですよね?」

「君は、河神≪かわかみ≫歌小かこだよね。

初対面ではない気がするんだが」


なぜ、私の名前を?


「私とどこかで会ったこと、ありますか?」

「会ったも、何も、これ以上言わないでおこう。

さて、返事をする気がないようだし、このまま駅を降りるとするか」

「どこに向かうんですか?」

「俺の故郷」

「私、遅刻してしまいます」

「行かなくていいんだよ。

歌小は、自由なんだから」

「無断欠席になります」

「ならない。君の存在を忘れているのだから」

「そんな非科学的なこと、信じません」

「非科学的なことが、世の中にはあるんだ」

「とにかく、私は結婚なんて認めません」

「まあいいさ。この駅で降りれば、君もいやでも認めるだろう」


 魔の駅に着いた。

 着いたけれど、降りなければいい。


 だけど、あいつは、わたしの腕を引っ張る。


「初対面で、馴れ馴れしい」

「初対面ではないだろ。愛を何度も誓い合っただろ」


 待ってよ。

 この話し方、顔、どこかで・・・。


「もしかして、田中たなか君?」

「やっと、思い出してくれたか」


 田中君は嬉しそうにしていた。

 

「俺が、歌子の願いを叶えてあげたくてさ」

「そんな話、知らない」

「歌小のこと、好きだから。

結婚したいくらい、好きだから」


 そうして、私のことを抱きしめたけれど、私は抱きしめ返さなかった。


「歌小のことは、何でも覚えてるよ」


 田中君は、こわくなるくらい、私のが過去に話していたことを覚えていた。

 言われなければ、自分でも忘れているくらいの内容だった。

 

 ウエディングドレスを着ることが夢だったこと。

 私がおとめ座のAO型であること。

 誕生日は、9月22日で、ぎりぎりおとめ座で、一日遅ければてんびん座だった。

 

「それくらい、俺は本気なんだよ」


 今は、魔の駅で降りて、田中君の城にいるらしい。

「君の部屋、作ったんだ」

「ありがとう・・・」


 今更、突き放すこともできなくなっていた。

 

 隙を狙って、逃げることもできるかもしれないけれど、

 どこに逃げればいいのかわからないし、ここがどこなのかもわからないし、

 様子を見ることにした。


 着いていったわけじゃない。

 連れてかれただけ。


「俺は、魔界王なんだが、魔界王の嫁にならないか」

「魔界王の嫁って、何?」

「俺の父が魔界王なんだが、この世界での王ということだ。

歌小には嫁になってもらおうか、と」

「嫁って、何をするの?」

「特に何も。

子供産むくらいかな」

「子供って・・・」

「早いけれど、歌子も産めなくはないかな」

「いきなり、子育てなんて」

「俺が跡継ぎだから、男の子一人いればいいから。

悪く言えば、男の子を産むまで、産まされることになるんだけどさ」

「女の子なら、最悪じゃん」

「俺の母親も人間界出身だから、よく言っていたけれど、人間が産むのは大変らしい。

母親は最初の段階で男の子を産めたけれど、持病があって、

それで、二男の俺を産むことになったんだが」


 それからというもの、私は子供を産むことを毎日、拒んでいた。

 子供なんて、心の準備ができていない。

 子供なんて、遠い未来の存在だと思っていたから。

 

「人間界に帰りたい」


「ごめん、それは子供ができるまで外出できないルールでさ、

俺の母親は、俺が生まれてすぐに離婚したけど」

「離婚したの?」

「うん。

だから、父親が魔界にいて、母親が人間界にいる。

俺も人間界にいたけど、人間界の生活になじめなくて、帰ってきたけど」


 話を聞くと、田中君は、二人兄弟らしい。

 今は、兄が人間界にいて、魔界老が田中君の父親らしい。

 田中君の両親は結婚する前は仲がよかったけれど、

 異世界での生活に馴染めなくて、離婚となったみたい。


 だけど、私はこの人との子供を作ろうなんて思えなかった。


 魔界老は、魔界老の母、田中君の祖母が王を務めていた。

「人間と結ばれてはいけない」という言いつけを破り、人間と結ばれたけれど、

 女の子を跡継ぎにしてはいけないというルールを一人で作ったりしたとのこと。


 意味のわからないルールだった。

 だけど、私は従うつもりはなかったけど、逃げる方もわからなかった。

 まともに戦っても、勝てなさそうだから。


 ある時、田中君と二人で散歩していると、

「歌小、探していたぞ」

「勇気君」


 私の従兄の勇気君が現れた。


「従妹を返せ、記憶改ざんをしたかもしれないけれど、俺はごまかせない」

 私とは、誕生日は違うけれど、同い年の従兄だ。


「ただの人間ではないな」

「異世界と人間世界を行ったりきたりはできる」


「勇者が現れたか」


 勇者と、魔界王は対になる存在と言われているけれど、

 私の従兄が勇者だとは、思わなかった。


「今すぐ、決闘だ。

従妹がいなくなってから、かなり時間がたったが、誘拐していたのか」

「誘拐じゃない、結婚だ」

「どっちも同じだ。

結婚なんて、家族に紹介してから、するもんだ」


 勇気君と、田中君が戦った。

 もちろん、勇気君の方が勝った。


 噂で聞くと、魔人老でさえ、勇気君には勝てなかったらしい。


「これで、帰れるぞ」

「ありがとう。

助けてくれて」

「人間世界で、いい男を見つけて結婚した方がまだいい」


 勇気君、かっこい。

 私は勇気君と共に、人間世界へ帰った。


 勇気君が、私を助けてくれたんだ。

 だけど、これで私が日常に戻れるわけではなかった。


 田中君は、何度か私のところに来ては、私が逃げる日々だった。

「考え直してくれないか?」と言われても、私は勇気君以外の人は考えられなかった。

 私は、勇気君のようなタイプが好き。

 ただ、それだけだった。


 身長は、田中君よりも高くないかもしれない。

 だけど、勇気君は強くて、かっこいい私の頼れる憧れな従兄だもん。

 

 勇気君のところに逃げれば、きっと勇気君は助けてくれるはず。


 私は、信じていた。

 勇気君が必ず、助けてくれることを。


 私は、大嫌いなストーカーから助けを求めるために、勇気君のところに駆けつけた。

 だけど、勇気君のところに、何故かたどりつけなかった。


 あれ?


「ははは、君は俺を好きになるんだ」

「そんなわけない」

「俺の魔法で好きになるんだよ」


 ちょうど、女の子の飛び蹴りが田中君の顔に来た。

「あれ?

カンツォーネ?」


 カンツォーネがいたの。


「勘違いしないで?

君を助けたわけじゃないの。

ただ、君が妬ましかっただけ。

どう?

誰かに支配される気持ちは?」


「どうって?」

「もてることが気に入らないってこと。

不幸にしてやりたいって、誓ったのはいつかしら?

人の物とろうとしたの忘れないから」


「告白されたけど、振ったよ」

「告白されたの、何回かって話をしてるの。

どうしてもてんだが。

勇気のことも、奪ったみたいだし。

自覚ないなら、いーよ。

こんな話をしても、無駄だろうし。

歌小が、幸せになるなんて許せない。

これだけは覚えておいて?

ま、覚えておいても、何のことかわかってないんでしょうけど」


 一方的に話し、その場をカンツォーネは去った。


 今回は、助かったということでいいのかな?


 私はカンツォーネのおかげで、助かったんだとばかり思っていた。

 だけど、帰ってきてから、勇気君がとんでもない一言を発する。


「一緒に逃げよう」

「えっ?

どうして?」

「カンツォーネが暴走したんだ。

田中も殺されたらしいしな」


 田中君が殺された?

 そんなことって、あるの?


「カンツォーネが、クイーンが暴走したんだ」

「一体、どうゆうこと?」

「説明している時間はないんだ。

命を狙われている以上、逃げ切るぞ」


 勇気君と私は、二人で家を出た。

 私は、勇気君に手を引っ張られるまま、走った。


「こんな場所にいたのね。

憎き勇気、歌小」

 包丁を持ったカンツォーネが現れた。


 勇気君は瞬時に剣を抜いたけど、カンツォーネの素早い動きで、勇気君はお腹に包丁を刺されてしまった。


 包丁を抜いた瞬間、勇気君は血だらけになって、倒れたまま動かなくなった。


 私は為す術もなく、カンツォーネに包丁を刺され、その場に倒れた。

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