お祭りの日の夜に
るて
第1話
リカは今日のお祭りをとても楽しみにしていたみたい。
だって、真新しい浴衣を着るし、友達のマイと二人で行くのだもの。楽しみじゃない訳ないよね。
夜。浴衣を着て、下駄を履いて、髪の毛をきっちり飾って。
「行ってきます!」
って言って、お祭りをやってる神社へと駆け出したリカには、お母さんの「あんまり人の少ない所へ行くんじゃないよ!」って声は聞こえなかったみたいだよ。
お祭りの神社は人が沢山いて、リカはマイと会えなかったみたい。
提灯や屋台の光がすごく明るくて、マイを見つけやすいと思ってたみたいだけど、思ってたより人が多かったんだね。
リカはちょっと疲れちゃって、近くにあった綿飴屋さんで綿飴を買って、食べながらマイを探してた。
しばらく歩いていると、周りに人が少なくなって、屋台も少なくなっちゃった。
道の両はしに石の灯籠があって、はじっこまで来ちゃったのかなって思って、リカは戻ろうとしたみたいだよ。
でも、その時大きな大きな花火が上がって、周りがすごく明るくなった。
大きな音もしたよ。
どーん! ぱちぱちぱち!
思わずリカが立ち止まって見上げると、大きな花火が七色に光って夜の空にまあるく広がった。
「すごいなぁ!」
「きれいだねえ!」
周りの人もそう言ってた。
そして、花火が消えてしまうと……元々人も屋台も少なかったから、急に暗く感じちゃったんだろうね。
何だか怖いし、お腹空いちゃったし、マイも見つからないから帰ろうって思ったみたい。
それでリカが来た道を戻ろうとした時、道のはしの石灯籠のかたっぽに、花火が上がる前までは居なかった、頭にキツネのお面をかぶった白い着物の男の子がいるのを見付けたんだ。
そう、僕だよ。
男の子は花火が上がった空を見上げていたんだけれど、自分を見ているリカに気付くと、にっこりした。
リカも男の子につられてにっこりした。
男の子は空を指差して、「また上がるかなぁ?」って言ったんだ。
花火は確かに綺麗だったから、リカは頷いて「また上がるといいね」って言った。
そうしたら男の子は、こんどはリカが持ってる綿飴を指差した。
「それ、おいしい?」
リカは頷いた。そうして男の子に訊いたんだ。
「お腹空いてるの?」
「うん。それ、ちょっとだけちょうだい?」
リカはあげようと思ったんだけど、綿飴はお菓子だから、お腹が空いてるならお菓子じゃなくてちゃんとした食べ物って思ってくれたみたいなんだ。
「待ってて! ちゃんとしたおいしいの買ってくるから!」
リカはそう言って、来た道を走って戻っていった。
しばらく走ったらたこ焼き屋さんがあったから、リカは一つ買って戻ってきたよ。
焼きたてであっつあつのたこ焼き。
外はぱりっと。中はとろっと。
道の真ん中はみんなの邪魔になっちゃうから、はじっこによけて、座って二人で食べたよ。
男の子は嬉しそうだった。
「おいしい!」
「ね、おいしいね!」
しばらく二人で食べていたけれど、ふと、男の子がリカに訊いたんだ。
「あったかい食べ物はおいしいね。リカは、これとリカのお母さんのお料理、どっちがおいしい?」
リカはちょっと困ったみたい。でも、暫く考えてから、普段は食べられないこっちの方がおいしいって答えたんだ。
男の子は首をかしげた。
「リカは、お母さんのお料理、おいしくない?」
リカは直ぐに首を横に振ったよ。
確かににたこ焼きはおいしいけど、でもそれってたまに食べるからおいしくて、お母さんのお料理がおいしくないわけじゃないんだって。
「これは、たまに食べるからとってもおいしいんだ。でもいつもはお母さんのお料理の方がおいしいよ? お母さんが作ってくれるカレーライスとか、卵焼きとか、大好き!」
男の子は笑った。
「やっぱり! みんなそう言ってくれるんだ!」
そう言って、笑った。
幸せそうに笑った。
リカも、お母さんの味を思い出して、幸せそうに笑った。
そうして、二人がたこ焼きを食べ終わると、男の子はたこ焼きのパックを持って立ち上がった。
「おいしいものを食べさせてくれてありがとう! これ、僕が片付けるね」
「ありがとう!」
リカも男の子につられて立ち上がった。
そうして、言ったよ。
「良かったら、一緒に見て回らない? 友達も来てるんだ」
男の子は嬉しそうな顔をして、でも首を横に振ったんだ。
「ありがとう。でも僕もう帰らなきゃ」
「そっか。またね」
「うん! あ、そうそう」
男の子は、にぎやかな場所に戻ろうとするリカに声をかけたよ。
「なあに?」
「マイは、リカが一番最初にお菓子を買ったお店の隣にいるよ」
「本当? ありがとう!」
そうしてリカはマイに会おうと走り出して……。
ふと、男の子に自分の名前も、マイの名前も、マイを探していることも言っていないのに気付いて振り返ったんだ。
でも、男の子はもうそこにはいなくて、最初に見た大きな花火が、また七色に光って、夜の空にまあるく広がってた。
とっても明るかった。
リカは、綿飴屋さんの隣でやっと会えたマイにこの話をしたんだって。
そしたらマイは、「もしかしたら、この神社の神様かもしれないよ」って言ったみたい。
ちょっと違うかな。
僕はこの神社の神様じゃない。
神様の周りで人の子と遊んだり、お話したり、人の子の笑った顔を見たりするのが好きなだけ。
うん。いわゆる『オバケ』ってやつかな……。
.
お祭りの日の夜に るて @vaty0
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます