風雅策謀
細川忠興は短気の持ち主で、その性格が彼を戦場から遠ざけることとなりました。だが、彼自身は自らの性急さを痛感しており、深い自己嫌悪に苛まれていました。その自己嫌悪の核心には、父親である細川信忠を十分に支えられなかったという不義の感情が在りました。
忠興の心の中に、かつて父から授かった言葉がよみがえります。
「お前は短気だ。その為、誤りを犯すこともあるだろう。だが人間という者は誤る生き物だ。誤ったら、そこから立て直せば良いのだ。そうすれば、お前の短気とうまく折り合いをつけられる。そしてやがて短気は気づかぬうちに消え去っていくだろう。」
細川忠興:(父上...どうすれば良いのでしょうか)
忠興の行動は、信長に対して直接報告されることはなく、信忠によって厳重に注意されました。信忠は信長とは異なり、部下の面倒見が良く、カリスマには欠けるものの部下達から愛されていました。
最終的に、信忠は忠興のことを不問に付しましたが、忠興自身は後悔に苛まれていました。
蘭丸:「細川殿からの書状です」
信長:「ほう、藤孝か。彼は幽斎と名乗り隠居を計画していると聞いているが、我が許可は出していない...」
蘭丸:「申し訳ありません、細川忠興殿からの書状です」
信長:「息子の方か、珍しいな」
蘭丸:「戦の準備がございます故、後でご覧になりますか?」
信長:「いや、差し出せ。忠興は有望な武将だ、現在は信忠の下で修行している」
これまで忠興から進言を受けたことがなかったため、信長は何か重要な情報が含まれているのではないかと予感し、書状を開くことにした。
信長:「食えぬ息子だ」
蘭丸:「はて、忠興殿は短気な方ですが、真面目な人柄と伺っておりますが?」
信長:「この男、孔子を逆立ちさせてみせるつもりか?」
蘭丸:「孔子が...逆立ち、ですと...?」
忠興からの書状には、父である細川幽斎を北陸の防衛につけるという案が記されていました。しかもその兵力はごく少数。信長はこの案から何かを感じ取り、書状を読み始めました。
信長:「忠興にその通りにせよ、と伝えよ」
蘭丸:「御意...それでは、妙案が記されておりましたか?」
信長:「妙案などではない、これは愚策だ」
蘭丸:「愚策...それを採用するのですか?」
信長:「愚策を試すのも面白かろう」
蘭丸:「はて...」
蘭丸は思った。愚策ならば採用せず、何もしない方がよいのではないかと。
この策により、北陸を防衛していた信忠軍は全軍を九州に向けることとなり、予定通り細川藤孝が北陸の防衛に就きました。
上杉軍は、細川藤孝の兵力が少ないことを知り、彼の城を包囲しました。しかし、予期せぬ事態が生じます。包囲しているはずの上杉軍が越後方面へと撤退しました。
蘭丸:「これは一体、どういう事態なのでしょうか...?」
信長:「細川の息子が食えぬ奴だった、ということだ」
帝の勅令により、上杉軍は退却を余儀なくされた。細川幽斎は古今伝授(古今和歌集の秘伝)の伝授者としての役割を担っており、もし彼が命を落とすならば、古今伝授は断絶を迎えてしまう。その危機を抱きつつ、公家達は帝に訴え、細川幽斎を害すことなくその手を退けるよう、上杉家へと勅令が発せられた。上杉謙信の子、上杉景勝もまた義に生きる武将であり、帝のこの命令に逆らうことは出来なかった。
かくして、信長の目は中国方面へと向けられ、その全軍を動かすことが可能となった。
信長:「雷神と謳われし者、立花道雪。是非もなし」
信長は、武田信玄の面会を求めたと伝えられた立花道雪との対決を選択せざるを得なかった。しかしながら、彼の言葉は冷静で、厳然としていた。「是非もなし」。
- 夢想瑞歌 -
細き川 風雅に渡りて 古今かな
浮世と言えども その道は絶やさじ
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