黒い日記

霜月 雪華

第1話 ひかりの日記

―私の生きてる意味って何だろ―


教室の中はそれぞれ仲の良い子同士が集まり、好きなアイドルの話や他愛のない話で盛り上がってる。

私は一人、誰とも話すことがなく本を読んでいる。

横を通り過ぎるクラスメイトが私のカバンに足が当たり邪魔なものでも見る様に見た。

「あっ‥・」とっさに声が出た私のことを、横目で邪魔な物でも見るように視線を寄こした後、小さな舌打ちが聞こえた。

何時からこんな風になったんだろう‥‥。


そうあの女

長谷川涼子、明るくてクラスの中で発言力もあってリーダー的な存在。

私とは正反対な人・・・。


あの日もクラス対抗競技大会の出場で、どの競技に出るのか決めている時。

運動が苦手な私は、最後までどれに出るのか決められずにいた。

「これで全員出たい種目は決まったな?」って先生が聞いて、私が手を上げるタイミングを見てワザと「先生〜、ダメですよ~。いくら大人しいからって佐伯さんの事、忘れてますよ〜」と、わざとらしく手を上げて、同情する様な事を言いながら口元には笑みを受けべていた。 

長谷川涼子の発言に他のクラスメイトもクスクス笑ってる。

私は上げかけた手を、膝の上で握るしかなかった。

普段は私の事など見向きしないのに、こういう時にだけワザと私を引き合いに出してくる。

何で私がそんな事をそれなくちゃいけないの?

確かに他の子の様に、アイドルの話や人気俳優の出てるドラマだとか、そんな話には付いていけてないかもしれないけど、だからってそれだけで標的にされるの。

別に誰の邪魔にもならず、大好きな本を読んでいるだけなのに・・・。


ある日、学校の帰りに何時もと違う道を通って見つけた古本屋で、色んな呪いについての事柄が書いてある本を見つけた。

呪いなんてそんな物ある訳がないし、そんな事で私の周りが激変する訳がない。

そう頭では分かっているのに、体はしっかりとその本を抱えこんでいる。


私は本を一気に読み終わると、今度はネットでありとあらゆる呪いの方法を探してみた。詐欺まがいなサイトもあったりで怪しいかったけれど、でも呪いの言葉なら自分でやれる。少しでもいいからあの女に何かしらの不幸が起これば、自分の気が晴れすような気がした。


その日から毎晩0時に鏡に憎い涼子の写真を貼り付け、呪いの言葉を唱え続けた。

毎晩 毎晩 毎晩

2週間目を過ぎた頃から、涼子の様子が変わっきた。

何時も明るい彼女が、疲れ切った様な感じになっている。

クラスメイトがどうしたのかと尋ねると、毎晩悪夢に悩まされろくに寝れていないと言う。

その会話が本を読んでいる振りをしながら、全身で彼女達の会話に集中していた私の耳に届いた。


呪いが効いている。


私は嬉しさで飛び上がりそうな気持ちを必死で抑え、素知らぬ振りをしながら高揚する気持ちを必死で抑えた。。 

効いている・・・私の呪いが効きているんだ。

私は呪いの言葉が効いていると確信し、それからも毎晩呪いの言葉を唱え続けた。

涼子がどんどん不幸になるように。

私があの女の親切顔を装って浴びせられた様々な屈辱・色んな事に対する喪失感・心に負わされたドス黒い棘を全部・・・全部あの女にも味あわせてやる。


呪いの言葉は確実に涼子を変えていった。以前の様な明るさが無くなり、顔付きも老婆の如くなり、体は痩せていった。

始めは心配して声をかけていた友人達も、あまりの変わり様に不気味さを感じたのか次第に離れていった。もう誰もあの女に声を掛ける者も居なくなっていた。

いい気味だ!私に散々してきた事が、どんなに相手の尊厳を傷つけるのか思い知れ!

私は心の中でそう罵った。

どんよりとした雨雲が広がる一日が始まろうとしていた。

鎮痛な面持ちで担任が教室に入ってきた。

そう言えば今日は涼子が居ない。ついに学校に来れない位になったんだ・・・と思った。ふん、ザマアミロ。

グラスの中心に居た女が、誰からも相手にされず次第に無視されてゆく様が心地良かった。しかし、重い口調で語りだした担任の言葉でそれは否定された。

泣き出す人。大声で悲痛な声をだし顔を覆う人。言葉にならない声で嗚咽する人。


来ないんじゃない。来れなかった。


昨日の下校途中、信号待ちをしていたが道路の方にふらっと倒れてしまい、走ってきたトラックに運悪く巻き込まれ即死だったと担任は告げた。


死んだ?

長谷川涼子が死んだ?

まさか、私の呪いで?

そんな筈はない。確かに呪ったが、死んでしまえとまでは流石に呪わなかった。

違う! 私のせいじゃない!

元はと言えばあの女が悪かったんだから・・・。

私のせいじゃない!


その日の授業の内容はまったく覚えていない。

気付けば授業は終わっていた。

直ぐに立ち上がる事が出来ずにいて、いつの間にか薄暗がりの教室に1人だった。

重い足を引きずりながら家路に向かう。

信号待ちをしていた時に、誰かに呼ばれた様な気がした。

顔を上げ辺りを見回すが、誰も居ない。

気のせいだったのかな?と思った時、反対側の信号機の下で誰かが立っている事に気がついた。夕暮れ時なのもあり、その人影の顔が良く見えない。


誰だろ・・・?


信号機が変わり舗道を渡ろうとしたその時、不意に後ろから冷たい空気が背中を撫でた。

言い様の無い冷たさと、足元からじわじわと恐怖が這い上がって来るような感覚。

体が強張り動かす事が出来ずに居るのに、何故か目だけが動く。

後ろに居る何かが、ゆっくりと私の顔を覗き込む様に右側から回り込んでくる。

見てはいけないと、本能がアラームを鳴らしているのに、私の目は逆らうように右側を捕えた。


―涼子だ―


頭はグシャリと半分潰れ、片方の眼球は赤黒く染まり辛うじてぶら下がっていた。髪は血と潰れた脳みその液体で濡れ、生臭い異臭を放っている。

顔の骨は砕けていて、まともに成しておらず話せる訳もないのに、何故か耳元にはっきりと声が聞こえる。


アンタガノロッタ。


その瞬間全身の毛が逆立つ様な悪寒と恐怖が走った。

ちがう!私は悪くない!

アンタが悪いんだ!

私は何も悪くない!


ニヤリと涼子が笑った様な気がした。


キキキ〜、ガン、ドゴッ


「おい!大丈夫か!た・・・大変だ!救急車を呼べ!」 


誰かが救急車を呼べって叫んでる。

事故でもあったかな?

あれ?何か体が動かし憎いな

目も良く見えない。

何でだろ、体中が熱いし痛い。

周りが騒がしいけど、どうしたの? 

知らない人が私の事を見て悲鳴上げてる。

周りを取り囲む人の後ろに、こちらを見てニヤリと笑っている涼子の姿を見つけた。


―イイキミダ― 聞こえるはずのない涼子の声が聞こえた。


あ・・・そうか、私 車に引かれたんだ。


人を呪わば穴二つ。


そう言えば、そんな事が書いてあった事を思い出した。












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