砂漠の旅

るて

砂漠の旅

夜の間にだけ砂漠を旅する、一人の旅人が居りました。

その者に勝手に付きまとう、一人の道化が在りました。

道化は道化ですから、口数が異常に多くて。

くだらない冗談ばかりを羅列するので、旅人もいささか閉口しました。

余りにも煩い連れの道化に、ある夜旅人は言いました。


「何故に自分に付いて来る? 元々自分は一人旅」


道化は旅人のその言葉に、しかし笑って応えました。


「あんたがあたしを必要と思えば、あたしは自然に居なくなりまさ」


あくる夜、旅人が目覚めてみれば、道化の姿はなくなっていました。

溜息を吐いた旅人は、道化の顔と同じ色をした、大きな月を見上げました。


「要らぬといつも言っているのに、どうして居なくなるのだか」


いつもは冗談めかして応える声が、その日を境に、無くなりました。

もう返らない応えをしかし、旅人は月を見上げて、何時までも待っていました。


風が、乾いた砂に書かれた、おどけた文を攫って行きました。

「大事と感じた時には無くなる。人生大体そんなもんでさ」

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砂漠の旅 るて @vaty0

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