第2話

「どこ?ここ。なんで私の家の外が、こうなってるの?」

 それにしても目がちかちかする。

 小さなころ、空想していたみたいな場所だ。

 建物がパステルカラーで出来ていて、空にはドラゴンやペガサスが飛んでいる。

「ん?」

 空にはが飛んでいる。

「カノン!なんでドラゴンがいるの?それにペガサスも!」

「そりゃあ当然いるだろ。ここはお前とあいつ…鈴菜の、空想の世界だよ」

「私と、鈴菜の、空想の世界?」

 ならば、納得できる。私たちはファンタジーが好きだった。持ち物はパステルカラーだった。

「そうだ。お前らよく遊んでただろ?その世界が、そっくりそのままここだよ」

「でも、なんでこんなところに、私を連れてきたの?」

「鈴菜が、ここに引きこもってるからだよ」


 5分後。

 なんとなく状況は理解した。

「要は、鈴菜をあの塔から引っ張り出せばいいのね?」

 カノンが苦笑しながら答える。

「雑だなおい。まあ、そういうことだ。」

「じゃあ、早速行こうよ!」

 私はカノンの手を引っ張って駆け出す。

「おい、お前、どこ行く気だ!そっちは城と反対方向だぞ!」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「何をだよ!」

「せっかくファンタジーな世界に来たんだよ!それっぽい服装がいいじゃん」

 今の私の服装は家から出てきたときのまんま、つまりパジャマ姿だ。

 お世辞にもファンタジーに似合うとは言えない。

「ああ、服ぐらいなら買わなくても平気だぜ?」

「なんで?」

「ここはお前と鈴菜の想像の世界。お前と鈴菜なら好きに書き換えられる。世界がガラッと変わるようなことは二人いないと無理だが、服ぐらいなら別にお前だけで変えられるぞ?」

「じゃあ…」

 黒と紺を基調にして、ところどころに星色のビーズの縫い付けてあるワンピース。

 おおきな魔女帽子。長い丈のマント。

 黒竜の血の杖も等身大に大きくする。

 それらを身に着けた自分の姿をイメージして…

「もういいぞ」

 カノンの声で目を開けるとイメージした通りの姿になっていた。

「すごい!」


「っと。これで、属性魔法の操り方も覚えたし、街の人に聞き込みしながら塔にいくぞ」

「わかった!行こう、カノン!」


「すみません、鈴菜の事、知りませんか?…」


「塔に引きこもってる鈴菜の事なんですけど…」


「誰か、あそこの鍵、持ってたりしませんか…」

 …

 ……

 ………


「さて、と。ここに鈴菜が引きこもってるらしいんだが…」

 そう言ってカノンが私を見る。

「はぁ。私が行け、ってことだよね」

 カノンが無言で頷く。

 意を決して、塔の扉のノッカーを鳴らす。

「……誰?」

 不機嫌そうな鈴菜の声が、小さく聞こえてきた。

「鈴菜、私!瑠璃!鈴菜に話をしに…」

「危ない!」

 私の言葉はカノンにさえぎられた。

 何?、と聞く暇もなく、刹那、私の体が宙を舞った。

「っ!カノン、何してくれるのよ!」

「感謝してほしいぐらいなんだがな。ほら」

 カノンが指さした方向を見ると、ついさっきまで私の体があった場所が燃えていた。

 もしも、カノンが突き飛ばしてくれなかったら…

 想像した私の顔が青くなってたのか、カノンがこっちに来て言った。

「ほら、いくぞ、瑠璃。森の近くに、いい感じのカフェがあるから、そこで休んで、次の策を考えようぜ」

「…わかった」


 塔から数分歩いた、森の入り口にあるカフェに私たちはいる。

「瑠璃、何飲む?」

「…いらない」

 悲しい。鈴菜は私の事を嫌っていた。それも、本気で殺す気で来ていた。

 私の思いは受け取ってもらえなかった。

 あたまの中がぐちゃぐちゃになる。

「アイスラテと、レモネードをそれぞれ一つ。あと、苺のショートケーキと、ベリータルトを一つずつください」

「…カノン。私、いらない…」

「まあ、そう言うなって。ここのケーキ、マジでうまいんだぞ?食わない奴は、人生9割損してる」

 ウェイトレスがケーキと飲み物を持ってくる。

 明るい黄色のレモネードを飲んでいると少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

「カノン…私ね…」

「なんだ?」

 カノンがタルトを頬張りながら問う。

 やっぱり、「鈴菜ともう一度話をしたい…」

 鈴菜は私の大切な友達…だった。

 だから、もう一度…

「いいんじゃないか?で、何の話をしたいんだ?謝るなら早くした方がいいぞ?俺に何も話さずに、いい子ぶってられると……」

「なんて言った?」

「だから、謝るなら早くしろってことだよ…ん?瑠璃、どうかしたのか?」

 どうかしたの?それはこっちが聞きたい。

 私の話を何も聞いてないくせに、どうして私を悪者だって決めつけるの?

 結局、鈴菜もカノンも、あいつらと一緒だった。

「…もういいっ!」

 急に大声を出した私に、視線が集まるのを感じる。

 でも、そんなことはどうでもいい。

「瑠璃!どこ行く気だ!」

 カノンの声を背中に聞きながら、私は走る。森の入り口に向かって。

「待て、瑠璃!話をするんじゃ…」

「そんなのどうだっていい!話を聞かなかったのは、みんな同じでしょ!」

 私が叫ぶたびに、呼応するように蔦が伸びる。カノンを阻むように。私を守るように。

「瑠璃っ!」

「カノンも、鈴菜も、みんな嫌いっ!誰も私の話を聞いてくれない!」

「待て、瑠璃!」

「私のこと、何もわかってないくせに、決めつけないでよ!」

 私は森の中に駆け込んだ。

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