片思わない平くん

綴ル

【序章】片思わないボク

恋はうつろうもの。

ましてや片思いなんてものは、

ひどく残酷だ。



冬の寒さも少しばかり感じる時期。

桜の花は、芽を窄めたまま。


けれど時間は刻々と進む。

そう。春は近い。


ふと、部屋の窓からスズメが鳴いている姿を見かけた。

僕は今年の反省をしていた。

勉強とか、部活とか、交友関係とか、諸々あるけれど。

一つ、達成することが叶わなかった。


それは、


彼女をつくれなかった!


もう一度言う。


彼女をつくれなかった!!!



あー、なんてことだ。

今頃僕の予定では、終業式の休み中に彼女と300回目のデートをしているはずだったのに。


入学して1ヶ月は友だちとしてフレンドリーに

2ヶ月は互いに意識をしつつデートを重ね

3ヶ月経つ直前に彼女ができる!

あとは僕たちの仲を深めあい、結婚までするっていう僕の人生設計がっ!


あっという間にもう1年。


こんなことではいけない。

わかってはいるが、なにせ友人止まりの関係までしかいけないのが悩みの種だ。


僕がデートへ誘っても、


「いやいや、平(たいら)と二人きりはない」


とか、 


「用事がこの後あるから、ごめん」


って言われて幾度もスルーされたりとか、


「彼氏いるしムリ」


とか、

これは仕方ないけど。


他にも絶対気があるし両思いだろ!って思って告ったら、


「平とは友達としてはいいけど、異性としては、、」


とか、


「私、幸平(こうへい)とは友だちのままでいたいから」


とか、


「顔見て出直してきなさい!モブなら!」


とか、最後の子には散々罵倒されていろいろ堪えた。


とまあ、自分なりにやってはきたんだけど。


この一年は思ったより学校の行事やらなんやらに気を取られてしまい、思うように行かなかったのも事実。


だが、今年は違う。

今年の僕は、かなり雰囲気を変えて挑むつもりだ。

いわゆるイメチェンというやつだ。

ここで変われば、これまでの自分とは違う反応になるはずなんだ。


あとは今までの自分と違うイメージを持たないと。


外見は美容室とかオシャレな服の雑誌を読んでなんとかなるとして。 


問題は気持ちのほうだな。



そういえば彼女づくりばかり考えていたけど、違うアプローチをしてみたらどうなるだろうか?


彼女をつくるというのは、

片思いから始まる恋ってことだよな。


ここまでの人生で彼女がほしいと中学の頃から期待を抱き片思いだけは幾度もしてきた。

正直、長い思い出しかない。


高校になってからも同じ気持ちで過ごしていたんだ。

つまり、「片思い』というよくある恋愛ドラマや漫画で表現されたドキドキする関係性なんてものはフィクションでしか通じないということ。

現実では恋人という淡い関係でいるには、

[片思い』なんて一方通行な感情は邪魔でしかないのだ。


要するに方思わないでいればいい。


片思わないということは両思い。


そうだ!


すでに付き合っているように振る舞ってみればいいんだ!


どっかの本で自信と余裕は自己イメージがどうのこうのと書いてあったじゃないか!


ということは、僕は今から彼女がいるというイメージで行動するんだ。


よし!今から僕は彼女持ちだ!


なんなら彼女は1人ではなく、

僕が両思いだと決めた子はすべて僕の彼女にするのだ!


ふふふっ!

もしかしたらハーレムも夢ではないのではないか!?


こいつは、妄想が膨らむぞぉ!


僕は今日から『片思わない』生活を始めると固く決意する。


こうして自分の誇大妄想で、プランのことなど忘れて一日中過ごした。


明日が始業式だとも知らずに。

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