とある日のこと

꧁༺𝑲𝒂𝒌𝒆𝒓𝒖༒𝑮𝑻𝑹༻꧂

放課後

ある日のことである。「――さて、と」放課後、

帰り支度を終えた僕は、教室の隅っこで小さく呟いた。

そのまま席を立ち、ゆっくりと廊下へ足を向ける。

そして、

「……今日も行くか」

そんなことを口にしつつ、僕は一人、学校を出たのだった。

* 僕の通う高校から電車に揺られること約10分。

駅を出て徒歩5分ほど歩いたところにある小さな公園が、僕の目的地である。

そこは遊具も少なく、昼間でもあまり人が来ないような場所だけれど……僕にとっては何よりも落ち着く憩いの場所なのだった。

いつものように公園に入り、ベンチへと向かう。

そして、鞄を置いてからそこに腰掛けると……僕は、ふぅーっと息を吐いて空を見上げた。

「――綺麗だなぁ……」

視界に広がる青く澄んだ空。

思わずそう声を漏らしてしまってから……ハッとなって口を押さえる。……誰も聞いていないよね? 辺りをキョロキョロと見回してから、もう一度ホッとしたように息をつく。

それから改めて視線を上げると、そこにはどこまでも広がる青い世界が広がっていた。

「やっぱりこの景色が一番好きだなぁ……」

……なんてことを口にしながら、今度は大きく伸びをする。

その瞬間、ポキパキッという音が身体中に響き渡った。

「あははっ! やっぱちょっと凝ってたみたいだね……」

そんなことを言いながら、自分で自分の肩を揉みほぐす。

ここ最近、ずっと勉強ばかりしていたせいだろうか……どうにも肩がこってしまったらしい。

まぁ、それでもまだ若い方なんだろうけど……。

でも、やっぱり気持ちいいな……。

なんてことを考えていると……不意に背後から、誰かの声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん……何やってるの?」

「えっ!?」

突然かけられた声に驚いて振り返ると……そこには一人の女の子の姿があった。

年齢は恐らく小学校低学年くらい。

大きな瞳にさらりとした黒髪ロングヘアーがよく似合う可愛い子だ。

そんな子が今、不思議そうな顔をしながらこちらを見つめていた。

「いや、別に何もしてないよ。ただぼーっとしてただけだから」

慌てて首を横に振りつつ、笑顔を浮かべてみせる。

すると少女はその言葉を信じてくれたのか、「ふ~ん」と言って納得してくれたようだった。

それを見てホッとしていると……彼女は続けてこんなことを聞いてきた。

「じゃあさ、どうしてここにいるの?」

「えっ?」

「だって、ここには何かあるわけじゃないでしょ? なのにどうしてわざわざ来たりするのかなと思って……」

「……う~ん、そうだねぇ……」

彼女の問いかけを受けて、僕は少し考えるようにしてから答えを告げる。

「ここはさ、僕にとって一番大切な場所なんだ。だからこうして時々来て、ここでゆっくり過ごすんだよ。そうしたら疲れとか悩みなんかも全部吹っ飛んじゃうからさ」

「ふ~ん、そっか……」

僕の説明を聞いた後、少女は再び興味深そうに辺りを見回す。

そしてその後、再び僕へと向き直ってからこう言った。

「ねぇ、私も一緒にいてもいい?」

「うん、もちろんだよ!」

「やったぁ!」

僕が快諾すると、彼女は嬉しそうに飛び跳ねてから僕の隣に座ってくる。

それを見届けた後、僕はまた空を見上げて目を細めた。

それからしばらく経った頃。

ふと思い出したかのように彼女が口を開いた。

「あのね、私のママが言ってたんだけど……」

「うん?」

「『辛い時こそ楽しいことを考えなさい』っていうのが、ママの教えの一つなんだって」

「へぇ、そうなんだ……」

「それでね、『どんなに辛くても絶対に諦めちゃダメ!』とも教えてもらったの。だから私はいつも頑張ってるんだよ」

「…………」

「あとはね、他にも色々あって――」

そこまで言うと、彼女は急に押し黙ってしまう。

不思議に思って隣を見ると、いつの間にか彼女は眠っていた。

「……寝ちゃったのか」

起こさないように小声で呟きながら、僕は小さく苦笑するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とある日のこと ꧁༺𝑲𝒂𝒌𝒆𝒓𝒖༒𝑮𝑻𝑹༻꧂ @KakeruGTR

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ