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Nora_
01話
「
「ん……うわあ!?」
何故いつもこうなってしまうのかわからなかった。
とにかく距離を作って安地も作ると少し落ち着いたので意識を向けると少し悲しそうな顔で「そんなに逃げなくてもいいのに」と朝から驚かしてくれた人は言う。
「目を開けたら家族じゃない人がいたらこうなるのが普通ですよ」
心臓に悪い、冬だから余計に気になる。
運動不足で普段負荷をかけていない分、急なそれにはついていけないだろう。
「でも、昔からの仲だよ? えっと……いつからだっけ? 一緒にいるのが当たり前すぎて忘れちゃったよ」
「俺が小学三年生のときからです」
話しかけてきてくれたときもいまみたいな寒い冬だった。
ただ、恥ずかしいところを見られることになった俺としては良かったような悪かったようなという微妙な思い出ではある。
だってすっ転んだそのタイミングを見られてしまったということだ、しかも男のくせにかなり痛くて泣いてしまったものだから尚更……。
「そう、だから驚くのもおかしいと思うけど、今回が初めてというわけじゃないんだよ?」
「昔とは違うんですよ……」
「なにが違うの?」
「俺らだってこんなに大きくなったじゃないですか」
「うーん……肇くんはそうかもしれないけど私はあれからあんまり変わっていないからなぁ」
「いやいや、小学四年生のときとは違いますよ」
「なにが違うの?」
逆になんでそこまで変わっていないと考えるのか、いい方にだけではないが変われているならいいだろうに。
「む……身長とかが違うじゃないですか、流石に紬先輩だって大きくなっていますよ」
「えーそうかなー」
「ふぅ、とりあえず部屋から出てください、制服に着替えるので」
「じゃあ一階で待っているね」
「はい、すぐにいきます」
さっさと着替えて荷物も忘れずに持ってから一階へ、俺よりも先に父が作ってくれた朝ご飯を食べている彼女にはなにも言わずに食べ始めた。
食べ終えたら礼を言って流しに食器を持っていく、今度は歯を磨くために洗面所に移動、歯を磨いていると「うーん」と先程まで楽しそうだったのに微妙そうな顔をした彼女が入ってきた。
「肇くんのお父さんって本当に美味しいご飯を作ってくれるよね」
「表情がリンクしていませんね」
「ああ、私のお母さんにもちょっと見習ってほしいなって、まあ、お母さんが作る回数は極端に少ないんだけどさ」
「メインは紬先輩ですもんね」
「うん、別に嫌じゃないけどね」
嫌ではないならいいがそうではないならちゃんと言うべきだと思う。
家族が相手でも遠慮は大切なものの、重ねれば重ねるほどいいわけではないからだ。
「どうぞ」
「うん、こういうときのために歯ブラシとコップを持ってきてあるからね」
「もうそれなら置いていったらどうですか?」
「そ、それは駄目だよ」
まあ、好きにしてくれればいい。
彼女がやることをやったら荷物を持って外に出る、すぐにとてつもない冷たい気温が襲いかかってきて戻りたくなったが諦めるしかなかった。
「あ、遅いわよ」
紬先輩と違う点は心配してではなくて笑うために現れたということ、でも、情けないところを晒したばかりだったから当時はなにも言えなかったことを思い出す。
「ごめん、朝ご飯を美味しくいただいちゃっていたんだ」
「いつものことよね、それよりあんた……」
「なに?」
気になるから意識を向けると「沢山食べるくせに相変わらず細いわねぇ」と吐いてくれて助かった。
「え、そうかなー? えへへ、うへへ」
「笑顔は残念だけどね、それより肇」
「なんですか?」
「よく連れてきたわね、感謝するわ」
「はは、これぐらいなんてことはないですよ」
朝に弱くて苦労するどころか勝手に朝早くから部屋に入ってこられて苦労することの方が多いのだ、だからそんなのは必要ない。
「でも、あのときから一回も泣き顔を見せてくれていないことが気になるわ」
「見せませんよ、紬先輩だって同じじゃないですか」
何回も泣いてしまうようなことがあったら嫌だろう。
「そう? この子は小中学校の卒業式でガン泣きだったわよ?」
「だからそういうとき以外では見せないということです、そもそも男がわんわん泣いていたらださいじゃないですか」
「あのときの肇は可愛かったけどね、ゾクゾクしたわ」
まあ、ブレていないからその点は楽でいいが……。
こういうところもあって紬先輩が来てくれたときの方が嬉しいと言えた。
にこにこしていてとにかく明るいし、見られているだけで結構楽しいから悪くない。
なにより、面白みもない俺といるときに明るくいてくれるということがありがたかった、嘘であっても暗い状態でいられるよりは精神的にいいからだ。
「だけどいまは……うんまあ、ただでかいだけの人間よね」
「それでいいじゃないですか」
「嫌よ、あの可愛気のある肇に戻ってよ」
「今日は不安定ですね……」
「寒い中、待たされたんだから当たり前よ」
人で遊ぶのは勘弁してもらいたかった。
「来たわよー」
「あの、男子トイレの前で待っているのはちょっと……」
せっかくスッキリできたのにまた違うなにかが出てきてしまって気になるからやめてもらいたい。
「だって教室にいなかったんだから仕方がないでしょ? 聞いてみたら移動教室とかじゃないって話だからあとはトイレぐらいでしょ」
「すれ違っていたらどうしていたんですか……」
「そうしたら次の時間に探していたわよ」
そこまでしなくても昼になったら集まって弁当を一緒に食べるのになにをしているのか、たまにこうしてもったいないことをするの紅羽先輩という人だった。
あと地味に心配になるのはすぐに階下までやって来るということだ、友達がいてもいなくても気になってしまうことだったりする。
「紬は女友達とばかりいるからつまらないのよね~」
「その女友達の輪にさらっと参加してくればいいじゃないですか」
友達なのだからその権利があるし、なにより紬先輩なら大好きな先輩が自分から来てくれたということで喜ぶだろう。
下手をするとその元々いた友達よりも優先してしまう可能性もあるが長い関係だから仕方がない、まあ、そこら辺のことも二人なら上手くできると思う。
「それは無理よ、紬以外の人間がいるというだけで装ってしまうわ」
「中学のときなんかはよくありましたけど紅羽先輩は気にせずに参加していましたけどね、中学と高校でなにが違うんですか」
なにも意地悪いところばかりというわけではない、小中学校のときは紬先輩と一緒に何度も助けてくれた優しい人だ。
そういうのもあってなんとかしたいということなら言ってほしかった、俺にできることぐらいはやらせてもらいたい。
「上手く説明できないけどそれは違うじゃない」
「俺的には昔の紅羽先輩の方が堂々とできていて格好いいと思いましたけどね」
「いやでも実際に難しいじゃない」
「紬先輩や俺といるときはいつも通りでいられるのにもったいないですね」
「だから……もうこの話は延々平行線になるからやめましょ、少なくとも男子トイレの前でする話じゃないわ」
そういうことなら仕方がないからやめるか。
少し場所を移動して教室前まで戻った、先輩はまだここにいるみたいだ。
「あのさ、あんたまたあれをしなさいよ」
「あれ? だから泣き顔なら見せませんよ」
これからもなそうならないことを願っている。
いい意味でも悪い意味でも見られた側の中にずっと残るからだ、少なくとも俺の場合はそうだから今度は死んでも見せない。
泣き顔を見せるぐらいなら冗談抜きで死んだ方がマシだと言えてしまうレベルだった。
「そうじゃなくてあれよ」
「頑張れ」
「わかっているんじゃない、なんでわからないふりをしたのよ」
「いやだって年下なら敬語を使うべきですからね」
仲が良くても続けているのはそこからきている。
これからも変に許可をしたりはしないでほしかった、わかりやすく調子に乗る自分を直視することになるのは嫌だからだ。
少ししてから冷静になって叫びたくなるだろうからそうなる前に止めておくのだ。
「ふん、弱っているところにタメ口で頑張れなんて言っておいてよく言えたわね」
「だって見ていられなかったんですよ」
異性に振られたとかそういうことではないが、風邪で弱っているときにとにかく弱気で気になったから名前を呼び捨てにしつついまみたいに言ってしまったという経験が既にあるからこそだった。
「なんか効果があるのよねぇ」
「少しでも役に立てるのならいいんですけどね」
「それは大丈夫よ……っと、もう戻るわね」
「はい」
こちらも教室に戻って大人しくしているとすぐに授業の時間となった。
緩くストレスのないことの繰り返しのおかげで普通にやれている、これからも同じように続くことを願っている。
「今度は私が来たよー」
「交互にいかないといけない約束でもあるんですか?」
俺のところに何度も来てくれているのはありがたいが自分のしたいことを優先してほしいっところだった。
もう高校一年生なのに未だに心配をされているみたいで複雑な気分になるときがある、来なかったら来なかったで不安になるくせに勝手なところではあるが……。
「おいおい肇くん、二人を望むなんて贅沢ですね?」
「とにかく紬先輩は紅羽先輩の相手をしてあげてください」
「そうしたいところなんだけど来ないんだよ、いまさっきだって誘ったのに突っ伏しちゃっているから諦めたんだ」
そういうところだぞ先輩、何故こうなってしまったのか。
「ふふ、紅羽ちゃんのことが好きなんだね」
「はい?」
「大丈夫、私も紅羽ちゃんのことが好きだよ」
変なことではないがいまの流れで発するにはあまりに急すぎる。
でも、彼女はまたあのふにゃっとした笑みを浮かべているだけだったため、なにも言わずに終わらせておいた。
「ない……」
奇麗かどうかもわからない床に四つん這いになってないないと呟いている先輩を発見してしまった。
一瞬、声をかけずに帰ろうかと考えた自分もいたものの、流石に見て見ぬふりをしたくなくて声をかける。
「紅羽先輩、もう少し気をつけないと駄目ですよ」
「きゃ――いっだぁ!?」
ああ、ものすごい音が……。
「ほら、驚くぐらいならもう少しぐらい周りに意識を向けておかないと駄目です」
「あ、あんたはまず謝りなさいっ」
「んーそれはどうなんですか――わ、わかりました、驚かせてしまってすみませんでした」
手を差し出して立ってもらってからなにをしていたのかを説明してもらう。
「なるほど、お気に入りの消しゴムを落としてしまって困っているということですね、それなら俺も探しますよ」
「いや、探さなくていいけどここにいて、あんたみたいなヘンタイが現れないとも限らないしね」
先輩のために声をかけたのに先輩の中ですっかり変態ということになってしまっている。
まあでも、際どいところを見られてしまうよりはいいか、別に他でなにか不都合なことが起きるというわけではないから我慢をしよう。
そもそも高く評価をしてもらいたくて行動したわけではないからな。
「いいから早く探しましょう、それにそのお気に入りの消しゴムなら俺も知っていますからね」
「そもそもあんたはなんでこの階まで来たの?」
「紅羽先輩、頭を打ってしまって想像以上に悪影響が出ているみたいなので休んでいてください」
なんのために来たのって、紬先輩がいないなら先輩に会うために決まっているだろう。
理由もなく先輩達がいる階にいくわけがない、強メンタルというわけではないからそういうことになる。
「は――あっ、ちょっとっ」
「はい、自分の席に座っておきましょうねー」
で、問題の消しゴムの方は約一時間ぐらいが経過したときに割りと近くで見つけることができた。
色々どかして確認をしていたはずなのに中々にもったいない気がした、必死になっているとなんてことはない場所に意識が向かなくなるということか。
「あ、ありがと」
「まさか苛められているとかじゃありませんよね?」
「違うわよ、ただ単に私がやらかしただけ」
「それならいいんですけどね。さ、帰りましょう、早くしないと真っ暗になってしまいますから」
あと遅くなればなるほど寒くなるから耐性がない俺としてはきついためだった。
「ちょちょ、ちょっと待ちなさいよ、もう少しゆっくり歩いてちょうだい」
「別に距離を作ったりしませんよ、紅羽先輩は暗いところが苦手なんですからね」
「それ、紬には言わないでよ?」
「言っても紬先輩なら馬鹿にしませんけどね」
「によによしてきそうで嫌じゃない」
いやいや、紬先輩はからかったりはしない。
逆にからかってきたりする人が怖がりだということが面白かった、とはならない。
「俺らのときでも装ってしまっているんですね、残念です」
これだ、俺達といるときぐらいは全部とまではいかなくてもほとんど出してくれていると思っていたのに勘違いだった。
彼女が暗いところが苦手という情報もたまたま目撃したから知ることになっただけ、下手をしたら最後のときまで無駄に頑張って隠し通したかもしれない。
もしそんなことになったら友達とは? となってしまうため、知ることができたのはいいが……。
「そのまま出したら恥ずかしいでしょうが……」
「初見のときに俺はその恥ずかしいところを見られているんですけどね、不公平じゃないですか?」
「そんなの知らないわよ、勝手に肇が転んで泣いただけじゃない」
誰かのために動いた結果、すっ転んだというわけではないから真っ直ぐに突き刺さった。
そのときのことを考えてどうしようもなくなったから走ると言ってから走り出そうとしたら「だ、駄目だからっ」と流石の反射神経で止められる。
「そんな涙目にならなくても……」
「……さっきだってそれで怖くなっていたのよ?」
「なら明日にするとか色々とやりようがあったじゃないですか」
俺がいった時点で遅い時間だったから教室から人が消えるまで動くのは待ったということになる、少なくとも暗いのが苦手な人がやるべきことではない。
仮に人がいてもどうしても探さなければならないのならすぐに動くべきだ、なにかを聞かれても◯◯を探していると言えば変人扱いをされることはないのだから。
「嫌よ、あれは紬がくれた消しゴムなんだから」
「はは、仲がいいのはいいことなんですけどね」
「笑うな」
「じゃ、見つけられてよかったです」
「まあ……そうね」
いつかは終わってしまう物でもそこまで大切にしてくれているのなら紬先輩も嬉しいはずだ。
「送ってくれてありがと」
「はい、それではまた明日もよろしくお――なんですか?」
「あんたにあげたい物があるから待ってて」
「は? あ、ちょっと……」
なんとなく腕を組みつつ待っていると冗談でもなんでもなく三十分ぐらい経過してから「待たせたわね」と先輩が出てきてなにかを渡してきた。
「これは……SDカードですね?」
「そう、私達の写真とかが入っているやつね」
「私達……となると紬先輩と紅羽先輩のってことですよね? 貰うのはやめておきます」
「なんでよ、いいから受け取りなさい」
「いやいや、貰ったところで――」
ある意味嫌だった、だって所持しているというだけで変態扱いされてしまいそうだろこんなの。
だというのに先輩は受け取ろうとしないで「気をつけて帰りなさいよー」と残して家の中に入ってしまったという、捨てるわけにもいかないから持ち帰るしかなかった。
仮に内容がそのままだったとしたら紬先輩的にはかなりアウトな行為だというのに……。
「あ、おかえり」
「紬先輩もなにをしているんですか……」
「ちょっと肇くんに用があってね」
「まあいいです、それよりこれのことなんですけど」
完全にわかったわけではないということを説明したうえで待っていると「いいんじゃない?」とここにも大丈夫なのか不安になる人がいた。
「ちょっと中身を見てみようよ、本当にその通りならレアな私や紅羽ちゃんが見られるかもしれないよ?」
「それよりなんのために来たんですか?」
「ああ、明後日は土曜日だから一緒にお出かけしてほしいんだ」
「どこにいきたいんですか? この前のゲームセンターとか?」
金ならまだあるからいくことになっても構わない。
「このときのためにチケットを買っておいたんだ、だから映画館に、かな」
「わかりました、じゃあ家まで送りますよ」
「え、それ見たいんだけど」
「まあまあ、見るのはやめておきましょう」
ぶうぶう文句を言ってくる彼女は無視をして腕を掴んで歩き出した。
よく考えてみたら俺も冬が苦手なのに積極的に外にいるみたいでアホだったため、これからは気をつけようと決めたのだった。
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